第56話

あと二時間、あと二時間すればエリーに会いに行ける。授業なんか早く終わってしまえ。


エリーが帰ってきたんだ。

夢でしか会えなかったエリーが、抱きしめることも出来る距離にいるんだ。


俺が教室に入るとクラスメート達が何か言いたそうにしていたが、どうせエリーのことを知りたいのだろう。


男たちはソワソワしているしな。

分かっているだろうがエリーには近づかせないからな。


まだ抱きしめた時のエリーの温もりと柔らかさが残っているような感覚がする。


胸を育てたと言っていたが、どうやって育てるんだ?

別に俺はエリーなら胸なんかなくても気にしていなかったぞ。ある方がいいのか?

触ったことがないから分からないな。

でも柔らかいのは確かだ。


さりげなくクラスを見渡して令嬢たちの胸を見てみた。

みんな育てたのか?

エリーより小さい令嬢はいないようだ。


エリーに育て方を聞いても怒られないか?

いや大丈夫だ。

胸を張って自慢していたもんな。


あんなに暗かった世界がエリーが近くにいると思うだけで俺の世界を明るくする。


綺麗になっていたな。

でも中身はあの頃の気取らないエリーのままで安心した。

弁当も美味しかったな。

何も言わなくても食べさせてくれた。

俺もさりげなく催促したがな。

俺だけに向けたエリーの微笑みは最高だ。

独り占めした気分だ。


周りから見たら俺たちが恋人のように見えたんじゃないか?

恋心・・・いいなそれ!


ダメだ!まだ舞い上がるな。

帰ってきたと言っていたが、一年したらアトラニア王国に戻るかもしれないんだ。


カトルズ公爵家には跡継ぎがいないのだからな。

それも聞かなければならない。


もし、本当にこのままウインティア王国にエリーが残るのなら俺がエリーを諦める必要はなくなる。


早く、早く時間よ過ぎてくれ。

エリーに会いたいんだ。

聞きたいことが沢山あるんだ。




長く感じた授業が終わると急いで馬車止めに向かった。

そこには既に馬車の中で座ってゾルティーが待っていた。

「兄上、私も一緒にウォルシュ家について行きますからね。アランは私の友人ですからダメだとは言わないですよね」


お前もエリーに会いたいだけなんじゃないのか?

いくら可愛い弟とはいえエリーだけは譲らないからな。


ウォルシュ侯爵家に着くとエリー、アラン、レイが笑顔で出迎えてくれた。


エリーまたズボンなんだな。

ゾルティーが顔は赤いが驚いているぞ。


「いらっしゃいルフラン、ゾルティー殿下」


初めて訪れたウォルシュ家は邸全体が明るく、上品な調度品に飾られて落ち着いた雰囲気だった。

ここでエリーが育ったんだな。


庭園の見えるサロンに通されメイド達がお茶とお菓子をセットして部屋から出て行った。



「さて、帰ってきた理由を教えて欲しいな」


いきなりゾルティーが切り出した。

俺もそれが聞きたかったんだ。


「カトルズ公爵家に跡継ぎの子供が生まれたんだよ。伯母上も高齢出産になるから元気な子が生まれるか心配していたんだけどね」


「もう元気すぎるくらいの男の子で可愛いの。私たちが帰る頃にはよちよち歩きも出来ていたのよ」


「だからエリーが養子になる話しも流れたんだよ」


「伯父様と伯母様もそのままカトルズ公爵家に居てもいいと言ってくれたんだけど、私が残ると揉める原因になるかもしれないし、やっぱり我が家が一番居心地がいいから帰ってきちゃった」


えへって照れて笑うエリーが可愛い。

それなら俺の・・・俺のよ・・嫁・・・になって欲しい。

ダ、ダメだ。

エリーの気持ちも分からないのに。


「アランとエリーが帰るなら一年後には嫁いでくるのは決まっていたから、わたしも一緒に着いてきたの」


「結婚前に一緒に暮らして大丈夫なのか?」


「僕は皆んなから信頼されているからね。それに、レイと一年も離れるのは嫌だから、レイのご家族を説得して連れてきたんだよ」


何故かアランが大人に見える。

俺と同じ歳だよな。


「それに、私たちの部屋の内装とか決めないと、お祖母様とお義母様にどんな内装にされるか・・・」


ああ、ウォルシュ家は金が腐るほどあるもんな。


「そうそう、ちょっと待っててね」


大きな窓を開けてエリーが「ラン~おいで~」と庭園に向かって声を上げると、真っ白な動物が走ってきた。

まさかあれがランなのか?

大型犬にしても大きすぎないか?


犬で間違いないんだよな。


しっぽを振ってエリーに擦りついているランはエリーの腰の高さまであった。

大きく育てるって言ってたが大きすぎるだろう。


ゾルティーは目を輝かせてランを見ている。

そうだったな、ゾルティーは動物が大好きなんだよな。


「私も触ってもいいかい?」


「ええ、触ってあげて」


「ラン私のところにおいで」


賢い子だな。呼ばれとゾルティーにもスリスリしている。


俺のプレゼントした首輪はしてないんだな。

あれは大型犬用だった。

あれではランには小さ過ぎるな。


「エリー、またランに首輪をプレゼントしてもいいだろうか?」


「嬉しい!ありがとう!前の首輪が合わなくなって外したの。ランも喜ぶわ!」


「ラン俺のところにもおいで」


なんだ?俺のところには来ないぞ。


エリーの膝に頭をスリスリしてチラッと俺を見る・・・その態度がバカにされている様でムカつくのだが。気のせいか?


その後も誰が呼んでもランは愛想を振りまいていたが、俺のところにはこなかった。

コイツ・・・絶対ワザとだ。


「またランに会いに来てもいいかな?」


ゾルティーまた付いてくるのか?


「歓迎するわ」


エリー、ゾルティーを甘やかさなくていいんだぞ。


「俺も来るからな」


「ええ、ルフラン待っているわ」


これで学園では毎日会えるし、休みの日はウォルシュ家に来ればエリーに会えるな。


「明日からよろしくね」


笑顔で俺たちを見送ってくれた。







今日はぐっすり眠れそうだ。

ベッドに入ってからなぜかモヤモヤする。

何か忘れているような・・・




胸の育て方だ!

冷静になると女性に聞くことではないな。

危なかった、またエリーを怒らせるところだった。



明日が待ち遠しいよ。


おやすみエリー

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