第55話

~マイ・ツルギ視点~


あの私を蔑んだ目で見るアルマを悪役令嬢に仕立てようとしたのに、あの女も私を陥れようとしていたのは計算外だった。


ルフランのせいで嘘はお互いバレちゃったけど笑えるわ。


あの女ルフランのストーカーじゃない。

皆の前でゾルティーにバラされたんだから、もう二度と偉そうに取り巻きを連れて歩くことなんて出来ないわね。


ふん!いい気味よ!


それに、本物のエリザベートが登場した!


ゲームでは後ろ姿しか見えなかったエリザベートが、私でも見惚れるほどの美人だとは予想外だわ。


ルフランとも仲が良さそうだった。


エリザベートのこと嫌っていたんじゃないの?

あれじゃあ、ルフランの想い人がエリザベートだって生徒たちの前で宣言しているようなものだったわ。


ずっと探していたアランもいたわ。

相変わらず素敵なアランが学園の制服を着ていたって事は、攻略対象者が全員揃ったって事よね。

やっとゲームが進むわ。


私の狙いはアラン一択!

ルフランには嫌われているみたいだし、何度も私をあんな目で見る男なんていらないわよ。


アランを手に入れて、悪役令嬢のエリザベートをウォルシュ家から追い出してやるわ。


作戦の練り直しね。






~アルマ・セルティ公爵令嬢視点~



ルフラン殿下の気を引くために、あの下品なマイさんに罪を着せようとしたのに、わたくしまでが嘘つきのレッテルを貼られてしまったわ。


それでもルフラン殿下との仲を生徒の皆さんに印象づけようとしたのに、ゾルティー殿下に婚約者の振りをしていると指摘されてしまった。


今は振りでも、わたくしがルフラン殿下の妻になることは決まっていますのに、なんで皆さん冷たい目でわたくしを見ますの?


顔も上げられなくなった私の耳にルフラン殿下に親しそうに話しかける女性の声が聞こえた。

気になって顔を上げると、無表情で誰にも触れさせないルフラン殿下が、彼女には優しい目を向けて、されるがままになっていたの。


あれはウォルシュ侯爵令嬢?

そうよ、ルフラン殿下に嫌われて王宮の出入りを禁止されたウォルシュ嬢だわ。

なんで彼女にそんな顔をするの?

わたくしには一度だって、そんな目を向けていただけなかったのに。


あんなに騒がしかった通路が彼女がルフラン殿下に微笑んだ瞬間、令嬢から漏れる溜息と、子息たちの熱い眼差しが彼女に向けられた。

ルフラン殿下が彼女と手を繋いで去って行くと通路は彼女のことで持ちきりになったの。


騒ぎが落ち着いてもわたくしの取り巻き達からは声もかけられなかったわ。


見ていなさい、わたくしが王妃になっても貴女たちに美味しい思いはさせませんからね。






~ガルザーク視点~



マイとセルティ嬢が騒ぎを起こしていた。


貴族の令嬢らしく上品だと思っていたセルティ嬢は言葉の通じない勘違い女だとこの時には理解していた。


まるでルフラン殿下の婚約者だと見せつけるかのように隣を歩くセルティ嬢に何度か止めろと忠告したが聞く耳を持たなかった。


ゾルティー殿下に注意されても、彼女の思い込みが間違いだと教えても無駄だった。


挙句、マイとセルティ嬢のお互いが相手を陥れようとするなんてな。


2人をみて呆れていると、可憐な声が聞こえた。


ルフラン殿下の肩越しに伺うと、ウォルシュ嬢がルフラン殿下の眉間のシワを指でグリグリしていた。

あの誰にも触れさせなかった殿下が・・・

2人は知り合いだったのか?

仲が良さそうに見えた。

それに、ウォルシュ嬢の微笑みは殿下にだけ向けられていた。俺も殿下の隣にいたのにな。


そして、自分に向けられた視線を気にすることなく殿下に手を引かれて去って行った。

その後ろ姿すら気品に溢れていて、ルフラン殿下の隣りにいても違和感がない。



分かってしまった。

殿下の表情を取り戻せるのはウォルシュ嬢だけだと。



ゾルティー殿下に誘われてアラン殿とその婚約者のレイチェル嬢も一緒にカフェに行った。


窓から見える光景を見て確信した。

ルフラン殿下とウォルシュ嬢は想いあっていると。


ウォルシュ嬢には甘えられるんだな。

あのルフラン殿下が食べさせてもらってるよ。

2年近く側にいて、あんな顔は見たことがなかった。



他の生徒たちも2人から目が離せないようだ。


突然ウォルシュ嬢がルフラン殿下の頬を摘んだ。

なんだかルフラン殿下が怒らせたようだが、あんなに気品に溢れていたウォルシュ嬢の令嬢らしくないところを見て幻滅するどころか好感が持てた。

殿下の頬を摘むことの出来る人間なんてこの国にはいないだろう。

ウォルシュ嬢は殿下にそれが許されているんだな。

彼女を見つめるルフラン殿下の目がそういっているようだ。


隣にいたアラン殿とゾルティー殿下が慌てて止めに行ったが「あの二人仲がいいでしょう。わたしも行くわ。明日からよろしくね」


そう言ってレイチェル嬢も去って行った。

小さくて可愛い令嬢だが、さすがアラン殿が選んだだけはある。隙がないな。



レイチェル嬢を目で追う子息もいたが、諦めろ相手はあのアラン殿だ。


おいおい、ルフラン殿下が今度はウォルシュ嬢を抱きしめたぞ。

カフェから令嬢たちの悲鳴と、子息たちの諦めの声が同時にした。


俺も失恋したはずだがショックよりも、あのルフラン殿下の顔を見られた嬉しさの方が勝っているな。


これからは俺が2人の盾になるよ。


水面下でルフラン殿下を狙っていた令嬢からも、ウォルシュ嬢に近づく子息からも。




気になるのはマイだ。

あいつがアラン殿に目を付けたのは間違いない。

アラン殿がマイに騙されることはないだろうが、レイチェル嬢が被害に合わないように念を押しておくか。

どんな手を使うか分からないからな。




この時俺は気がつかなかったんだよ。

レックスがルフラン殿下を睨んでいることに・・・

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