第49話

~アラン視点~


一年ぶりに王宮のお茶会に参加することを、ゾルティー殿下に連絡すると『マイ』の報告があるので開始時間よりも早く来て欲しいと連絡がきた。


『マイ』のことや、ガルザーク殿の話しが終わった頃ルフラン殿下が現れた。

久しぶりに見たルフラン殿下に驚いた。

去年のお茶会の時よりも表情がない。それなのに目だけが鋭くて近寄り難くなっている。

アトラニア王国に留学していた時と比べると別人だった。

それでもエリーの話をすると、一瞬だが目が潤んだように見えた。


エリーの近況を聞くと退室して行ったが、まだルフラン殿下の中にはエリーがいるのだと分かった。


それはエリーも同じだ。


僕たちの前では元気そうに見せているが、生まれた時からずっと一緒にいる僕には分かってしまうんだよ。

エリーが周りのみんなに心配かけないよう無理して笑っていることを・・・


それでも『ラン』が来てから

元のエリーに戻りつつある。


今回の帰省は『ラン』の世話をするためエリーは伯父上の所に留守番することを選んだ。


『ラン』もエリーから離れないが、エリーも『ラン』から離れようとしない。

いつも『ラン』の瞳を見つめながら話しかけている。

まるでルフラン殿下と話すように・・・

そんなエリーを僕たちは見守ることしか出来ない。




お茶会会場に入るなり、黒髪黒目の『マイ』が走り寄ってきた。

目が普通じゃない。気持ち悪い。


僕の目の前でワザと躓いたのか、本当に躓いたのか分からないが、本能が拒否したのか体が勝手に彼女を避けてしまった。


当然受け止められると思っていたのだろう。避けられたことが心底不思議そうに、上目遣いで見上げてきたが、嫌悪感の方が先に来て婚約者がいる、君には触られたくないっと、拒絶したが信じていないようだった。


ルフラン殿下やゾルティー殿下といても、嫌な視線を感じる。

あんな女性に侍っている男の気持ちが分からない。



僕たちをセルティ公爵令嬢とその取り巻き達が囲んだ。


ゾルティー殿下が言っていたな。

ルフラン殿下の婚約者候補に選ばれたかのように令嬢たちの派閥が出来ていると。


噂ではセルティ公爵令嬢は優秀だと聞いていたが、そうでもなさそうだな。

取り巻きを引き連れて、ルフラン殿下の横でまるで婚約者気取りだ。


そのルフラン殿下はセルティ公爵令嬢に何を話しかけられても反応していない。


ルフラン殿下の隣りで我が物顔で微笑んでいるけれど目が笑っていないよ。

もっと上手く演じるぐらいしないと王妃にはなれないよ。


取り巻きの令嬢がルフラン殿下に話し掛けると、睨んでいる君にもそんな権利ないからね?


僕から見ればセルティ公爵令嬢も他の令嬢とそう変わらないな。

野心が隠せてないよ。

公爵令嬢の身分と権力だけで、婚約者になれると思っていそうだ。

プライドも高そうだし、僕なら選ばないね。


学園でも熾烈な争いをルフラン殿下そっちのけで繰り広げられていると聞いた。


エリーが同じ学園に通っていなくてよかったよ。

『マイ』の本性がバレている今ならエリーをゲームのように陥れようとしても無駄だが、ルフラン殿下のエリーに対する思いをセルティ公爵令嬢が知ったら頭が働く分、何をしてくるか分からなかったもんな。


それにしても、僕にまで色目を使う令嬢は何を考えているんだ?

婚約者がいると伝えたはずなんだけどね。

どこに行っても令嬢の使う手は同じだな。


レイとエリーが言っていたな、さり気なくボディータッチしてくる令嬢は僕を狙っているから気をつけるようにって、本当みたいだね。

さすがにルフラン殿下のように手を叩き落とすことは出来ないけど、僕も拒絶を表すと賢い令嬢なら触れてはこなくなる。

それで分からない令嬢はレイが嫁いできても付き合う必要はないと切り捨てる。




ガルザーク殿がルフラン殿下の側で令嬢たちを阻止している。


確かに変わったな。

イエガー公爵家で見た時は、服も着崩して軽薄そうなイメージだったが、今は令嬢に囲まれ誘われても丁寧に断っている。


『マイ』との事を知らなかったら僕も好感が持てたのにな。

でも、彼が変わろうと努力していることは見ていても分かるよ。




あ~早く帰りたい。

レイに癒されたい。

清楚で可憐なレイに抱きしめてもらいたい。

僕の帰りをレイが僕の家で待っているかと思うと顔がニヤける。

まあ、お祖母様がレイを離さないから退屈はしていないだろうけどね。


お祖母様が僕とレイが結婚してからの部屋を作ろうと大改造計画を立てていたことに、レイが驚いて止めていたが、ああなったお祖母様を止めることは誰にも出来ないと分かると、諦めて壁紙や浴室の希望を伝えていた。

早く帰って僕の希望も伝えないとね。



帰る間際ルフラン殿下に声をかけられた。

一週間後に王宮まで来るようにと。



約束の日に訪ねるとルフラン殿下の執務室に通された。

僕と2人だからか、アトラニア王国の時と同じ口調に安心した。


僕の惚気に呆れていたようだが、エリーが一緒に帰ってきていないことを知ると、途端に残念そうな顔に変わった。

そうだよ、こんな顔もエリーの前では見せていたんだよ。

エリーだけでなく僕にも気を許してくれていることが分かり嬉しくなった。


帰りに不安そうな顔でエリーへのプレゼントと『ラン』へのプレゼントを渡された。


『使ってくれたら嬉しい』と伝えてくれと・・・

エリーが喜ぶ姿が目に浮かぶ。


想い合う2人の縮まることの無い距離に胸が締め付けられた・・・

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