第48話

アランが教えてくれたエリーの飼いだした犬に少しだけ嫉妬してしまう。

きっとエリーのことだ大事に育てているんだろう。


俺の瞳と同じ色の子犬が弱っているのを見て俺と被って心配してくれたんだ。


元気で強い子に育てたら俺が元気になると思ってくれたんだな。


名前まで俺から取ってくれたと聞いて泣いてしまうかと思った。


エリーの姿が見えないと泣いてしまうとアランが言っていた。

そんな子犬ならエリーのことだ、甲斐甲斐しく喜んで世話をしているのだろう。


羨ましいなその子犬。

エリーに甘え放題じゃないか。


俺だってエリーにピクニックに行った時食べさせてもらったし、濡れた髪を拭いてもらったことがあるんだからな!

あの時のエリーも可愛いかったな。


もう俺はエリーに甘えることも出来ないが、『ラン』がエリーのそばにいる限り俺のことを忘れられることはない。


もうそれだけで十分だ。


幼い頃に初めて会った時にエリーの笑顔に惹かれた。

それから数回しか会えなかったが、ウインティア王国まで追いかけて、たった3ヶ月だけど側にいることができた。


もし・・・もしもエリーと想いが通じ合えたら俺は何を犠牲にしても二度とエリーを手放すことはないだろう。


もしも・・・なんて有り得ないけれど夢を見ることを今だけは許して欲しい。

半年ぶりにエリーを近くに感じることができたんだ・・・エリーに会いたいな。



俺はエリーが安心できるように強くならないとダメだな。


自分だけの殻に閉じこもっているのは終わりだ。

俺はこの国の王になるのだから。


気を引き締めてお茶会の会場に向かうと、言い争う声が聞こえてきた。


話を聞くとやはりあの女が原因だった。

今度はアランに目をつけたのか。

男漁りするなら帰れと言うと黙って席に座ったが、アランから目を離さない。


アランが婚約者がいると言ったことも信じていないのか、バカだからもう忘れたのか自分都合で解釈しているのが顔に出ている。


どうも俺を恐れているようだから俺がアランの横にいれば近づくことはないだろう。

同じようにゾルティーとガルザークも思ったのか男4人でいることになった。


それにしても、あの女と同じ様な嫌な目で俺たちを見る令嬢が多いな。


特にセルティ公爵令嬢。

勝手に俺の婚約者候補になると周りに持ち上げられているようだが、当然だというように受け入れて派閥を大きくしようと彼女が動いているのは耳に入ってきている。


今も挨拶に来たが、後ろにぞろぞろと取り巻きを引き連れて、周りを他の派閥の令嬢が入り込めないように俺たちを囲んでいる。

まるで本当に俺の婚約者に選ばれたかのような態度に気分が悪い。余程自身に自信があるんだな。

腹に持つ野心を隠せない女が王妃など務める資格は無いと気づかないのか?

令嬢たちのキツい香水の匂いで鼻がおかしくなりそうだ。


ガルザークのガードが堅く俺に話すことも触れることも出来ないと分かると、セルティ公爵令嬢は俺の隣で黙って微笑んでいるがそんな微笑みなどエリーの女神の微笑みを知っている俺からしたら、作った微笑みなど気持ち悪いだけだ。


意外だったのはガルザークだ。

以前のガルザークは女たちに囲まれると鼻の下を伸ばして調子に乗っていたと記憶していたが、俺が編入してから見るガルザークは令嬢たちとは適切な距離を取るよう心掛けているように見える。


俺と同じように変わる切っ掛けを見つけたのかも知れない。



結局お茶会がお開きになるまで『マイ』がアランに接触することはなかった。


帰ろうとしているアランを呼び止めて一週間後、王宮まで来てくれと伝えた。

この機会に渡したい物があるんだ。



その間に急いで追加のプレゼントを用意した。

1つはもともと渡したくても渡せなかったエリーへのプレゼントだ。

気に入ってくれるだろうか?

使ってくれるだろうか?

一度でいいから使っている姿を見てみたい。



アランは約束通り一週間後王宮まで来てくれた。

最初はアランとレイチェル嬢の今の状況を聞いた。

前から思っていたが、アランはレイチェル嬢にベタ惚れだ。


ピクニックに行った時も、カトルズ公爵家でも2人が散歩する姿を何度も見たな。

そのアランとレイチェル嬢を見るエリーが『2人の優しい雰囲気に癒されるの』なんて言っていたが俺にしてみれば2人を見つめながら微笑むエリーに癒されていた事もきっと気づいてなかったんだろうな。


アランはあの夏期休暇中に婚約指輪を渡したそうだ。

きっとアランの独占欲丸出しの指輪だと想像がつく。


ウインティア王国の学院ではアランとレイチェル嬢の婚約が噂になるなり、元婚約者に蔑ろにされていたレイチェル嬢を蔑んで嘲笑っていた令嬢たちの嫌がらせが始まったが、そこはアランがレイチェル嬢を守る姿勢を見せた事で今は落ち着いたようだ。


その時のエリーが殴り込みに行こうとしたのを止める方が大変だったと苦笑いで教えてくれた。


エリー何やっているんだ!

俺でも止めるよ。

怪我でもしたらどうするんだ!


でも、エリーの怒った顔も可愛いんだろうな。俺も見てみたかったよ。


帰りにアランにエリーへのプレゼントと、『ラン』へのプレゼントを渡した。


使ってくれると嬉しいと伝えて、アランを見送った。


ウインティア王国でエリーは元気にやっていそうだ。

俺も負けてられないな。

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