第24話
翌日、真白や東條を集めて俺はギルドに集合していた。
作戦開始前に軽く立ち回りについて話し合っておこうとしたのだが、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
その声のする方を見ると
「霧島……お前なんでここに」
森山が立っていた。
「しかもSランク冒険者の二階堂真白さんと一緒に、?」
そこではっと、気付いたような顔をする森山。
「分かった。お前は気にかけられていたもんな。それか」
と納得したような顔をしてから俺達の見送りにきていた陽菜に目をやる森山。
「霧島さん。僕はSランクに昇格できたよ」
とアピールしている森山だが、当の本人はつまらなさそうに話を聞いていた。
「へー、そうなのですね。おめでとーございます」
表面上は丁寧に話を聞いているような受け答えをしているが絶対に話を聞いていない。
「大迷宮の二階層が開放されたからさ。人を誘って僕も二階層に挑もうと思ってるんだ」
「へー。そうなんですねー。ところでお兄様」
会話をやめて俺に声をかけてくる。
「今日のお帰りは何時頃になりますでしょうか?夕飯の準備を、と思いまして」
「分からないな。状況によるし。なにか買ってくるからいいよ」
そう答えるとしょんぼりする陽菜。
俺のために料理を作りたかったのだろう。気持ちだけ受け取っておこう。
その姿を見るなり森山が話しかけていた。
「霧島さん、僕は5年でSランクになれたんだ。これは驚くべき速度なんだよ」
返事をしない陽菜、
「5年という速度で驚いているのかな?声が出ないみたいだね」
そんなことを言っているが多分興味がないだけなんだろう。
「お兄様。分かりました。ではお気をつけて」
森山のことをこれでもかと言うくらい無視して俺を見送ろうとする陽菜。
その森山の前で追い打ちをかけるように陽菜が俺の手を握ってきた。
「私はお待ちしておりますから。お兄様の帰還を!」
俺はその言葉に頷いて真白たちを連れてギルドを出ていく。
その直前振り返って森山の姿をチラッと確認したが拳を震わせて俺を睨みつけるように見ていた。
俺なにも悪くないよな?
◇
そうして二階層の攻略を進めていくことになったのだが。
「マッピングは無理、だな」
完全初見の誰も入ったことの無いダンジョンだからだろう。
俺のマッピングは上手く機能しない。
魔力をダンジョンに染み込ませようとしても弾かれる感じ。
「しらみ潰しに進むしかない?」
真白の言葉に頷く。
「そうだな。みんながいつもやってるように総当り、だな」
マッピングを使えるのは一部の人間だけ。
つまりほとんどの人達はダンジョン攻略をするにしても俺のように完全なマップを見ることができない。
が今回ばかりは俺も普通に動くしか無さそうだ。
「瞬間移動も集団転移も使えないものと思っていい」
「だよねー。いきなりボス前に飛んだりしたら笑えないもんね。準備もしてないのに」
そんな会話をしながら進んでいると東條が話しかけてきた。
「さっきの男、私達より先に進んで行ったけどいいのか?」
森山のことを言っているのだろう。
あいつらは俺がここに来る前にとっととギルドを飛び出して攻略に向かっていった。
「どうせボス戦で詰まるだろう」
そう言いながら歩いているとまた東條が口を開いた。
「霧島は何者なんだ?」
少し悩んだが、これ以上付きまとわれるのも嫌なので話しておくか。
「ロシアを過去のものにした人間だよ」
「……」
俺を信じられないような目で見てくる東條。
「分かったか?仕事以外で俺に関わるのはやめておけ。お前を不幸にした張本人だからな」
そう言ってみたが首を横に振って東條は俺の後ろをついてくる。
「敵同士、だったものな。気にしないとは言わないけど、仕方ないことだった、と思うことにする」
もっと噛み付いてくると思ったのに急に大人しくなってしまったな。
そんなことを思いながら歩いていると真白が道端に生えていた草をもぎ取って俺の横に来た。
何をするのかと思っていたら
「瀬奈くんは私の事、好き、嫌い、好き、嫌い」
と1枚ずつ葉っぱを引きちぎり始めた。
相変わらず脳天気な人だな。
見守っていると最後の1枚でピタッと手を止めた。
次の順便は
『嫌い』
だったが、
「あぁぁぁぁ!!!手が滑った!!!」
草を投げ捨てて俺の手を掴んでくる真白。
「瀬奈くん私の事好きだったの?私も瀬奈くんのこと好きー♡」
そんな真白のことを半分無視するようにして歩いていると今度は俺の携帯端末が音を鳴らした。
「誰から?もしかして浮気なの?私は愛人枠でもいいからね」
「さぁ、誰からだろうな」
答えながら端末に表示されている名前を見ると、知らない名前と番号がそこには表示されていた。
行儀が悪いがそれを覗き込んでいた真白がポツリと漏らす。
「あれ、これ西林って」
俺の目を見て教えてくれる真白。
「Sランク冒険者の西林、だね。今関西の区画を担当してるはず」
そう教えてくれて、周りにはモンスターもいないのでとりあえず出てみることにした。
『霧島瀬奈の番号で間違ってへんな?』
女の声が聞こえる。
綺麗な声から紡ぎ出されるのはゴテゴテの正統派と言えばいいのか分からないが非の打ち所のない関西弁。
「合ってる」
『そうかそうか。お前の名前は関西まで届いとるわ。もちろん、大っぴらには伝わってきてへんけどな。大臣の大富言うたら分かるか?』
「分かる」
あいつから聞いた、ということかな?
しかしそうなったらこの西林と言うやつはあの大臣と繋がりがあることになるが。
『お前と勝負したいねん霧島』
俺の返事を待つことなくベラベラ喋る西林。
『どっちが先に二階層を突破できるか、や。簡単やろ?ちなみに一番簡単と言われてる北海道は既に攻略済みらしいわ』
「勝負?一階層の攻略が一番遅かったのは関西区画、と聞いてるが。勝負になるか?」
『アホ抜かせ。それは攻略が済むまで待っといたったんや。ウチはお前と勝負したいねん?よろしいか?』
相変わらず俺の返事を待つことなどしないらしい西林という女。
『んじゃ、よろしゅうな。おもろい勝負にしようや』
ブツっ。
俺がなにか喋る前に通話が切られた。
マイペースな女だな。
結局最後まで自分からは名前は名乗らなかったし。
まぁいい。西林、か。
そう思いながら俺は名前を調べてみた。
すると、すぐに結果がヒットした。
(国営の孤児院出身か)
冒険者省の大臣である大富が関わっている国営の孤児院を一番の成績で出た超優等生、という情報が出てきた。
今まで負け無しで西日本最強の冒険者と呼ばれていて、女帝とも呼ばれている女だというのもすぐに分かった。
まぁ、ただ攻略するのではつまらないしいいか。
乗ってやろうじゃないか。
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