第23話 特殊部隊結成

俺はアンナたちの方に近寄ってみた。


「き、霧島?」


俺に反応するアンナ。


その声を聞いて冒険者たちは俺を見てきた。


「なんだ?てめぇ」

「通りすがりさ」


そう答えてみたがこの手のヤツらがこれで引かないのも分かっていた。


「痛い目見たくなきゃさっさとずらかった方がいいぜぇ?目障りだぞ?ガキが」


拳をボキボキ鳴らしながら脅迫みたいなことをしてくる。


「そのセリフそのままお返ししようかな」


俺がそう言ってみると


「あぁん……?ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ?」


拳を振りかざして俺に向けて振ってこようとした男。

その拳を握った。


「正当防衛ってことでいいかな?」


その拳を握りつぶす。


バキバキバキっと骨の砕ける音が鳴る。


「あぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


絶叫してその場にうずくまる男。


ダンジョンが現れてから魔法が発展して粉砕骨折でもすぐに治るようになっているためこんなものかすり傷と大差ない。


「去ってくれるかな?目障りだからさ」


そう言うと男はすぐに立ち上がって仲間を引き連れて逃げるようにして去っていった。

それを見送ってから俺も立ち去ろうとしたが


「な、なぜ助けた。私はお前の敵だぞ?」


アンナが聞いてきた。


こいつのことは別に好きではないけど、ひとりを寄ってたかっていじめてるあいつらの方が悪に見えただけだ。


それもあるけどなによりの理由は先程も語った通り。


「助けたわけじゃない。あいつらが目障りだったから、それだけだよ」


さて、そろそろ真白を迎えに行くか。



翌日、学園が休みだったので朝からギルドに向かった俺はふとモニターに目をやった。

そこではこの前見たばかりの冒険者省の大臣が映っていた。


『関西区画の迷宮が突破された。これにより全国的に第二階層に行けることになっただろう。率直に言って快挙である』


そう言って男は表情を崩すことなく話し続ける。


『地下の大迷宮はできてから長くの間第一層の突破すらできていなかった。その状況が数年間続いていた。それを考えればこれがどれだけの偉業かは想像にかたくないだろう』


そんなことをベラベラと話し始める大臣。


それをもう見ることもなく胸の中で思う。


(二階層が、開放されたか)


長い間謎に包まれていた2階層に向かうことができるようになった。


これで、よりレア度の高い、効果の高いアイテムなども見つけることができるだろう。


そんなことを思いながらギルドに今日も大迷宮に向かうことを伝えようとすると、アンナが俺に声をかけてきた。


「昨日は感謝する」

「へぇ、俺に礼なんて言うんだ」

「受けた恩くらいは忘れない」


周りにはツンツンしているし初対面の時のイメージは最悪だったけど意外と素直なやつなのかもしれない。


そんなことを思っていたらギルマスの三矢が事務室から出てきた。


「珍しいね。東條が誰かに話してるところなんて」


どうやらこいつがこうやって話しているところが珍しいらしいが。


そう言われてなにも話すことなく俯いた東條。

そいつを見ながら俺は三矢になにか用でもあるのかと視線を向けてみたが。


「実はね。君たちに話があってね」


三矢がそう言った時、このギルドの扉が開いた。

そこに立っていた人物にギルド内の人間全員の視線が注がれた。


「冒険者省の大臣、大富おおとみ?」


そう呼ばれた大富はそのイカつい顔でこのギルド内を見て俺達に目を向けた。


俺たち、というよりは三矢を見ているようだ。

それからズカズカと歩いてくる大富。


「ギルドマスターの三矢、だな?」


そう言って話しかけている大富。

俺は呆気に取られていた。


だって今もこの男はギルド内のモニターに映って喋っているのだから。


そんなモニターに映るような人物が目の前にいることが信じられなかった。


なにより、この男は冒険者に関するあらゆる機関の最高責任者、というやつだ。


それを前にして緊張するな、と言う方が難しかった。


そんな大富を見て三矢もモニターに目を向けていた。


「あれは、収録分、ということですか」

「無論」


そう言って三矢と話す前に東條に目を向けた大富。


「ロシア人か」

「だからなに?」


それ以上答えることも無く鼻で笑うだけの大富、それから俺に目を向けてきた。


「二階堂真白と組んでいた冒険者というのは君の事でいいかな」


黙って頷いた。


「そうか、面白いな。こんな子供が、か」


そう言って三矢に目を向けた大富。


「前々から計画していたことを覚えてるな?大迷宮攻略特殊部隊の話を」


俺は初耳だがどうやら三矢と大富はそういった話をしていたらしい。


「全体的に国際情勢が悪化しているのは分かっているな?我が国日本が冒険者育成において他の国に遅れを取っていることも」

「はい」

「そこで、大迷宮の攻略を急ぎたい。そのために大迷宮攻略用の部隊を作る、という話だ」


そう言って俺に目を向けてくる大富。


「その部隊の隊長を君に任命したいと考えているがどうかね?」

「お、俺?どうして」

「突如現れた凄腕の冒険者。その腕前を信じているから、というのはどうかな」


そう言って大富はパーティメンバーを読み上げていく。


「霧島瀬奈、二階堂真白、東條アンナ。この三人を特殊部隊として任命したいと思う」


東條に目を向ける大富。


東條を選ぶことから一応実力は認めているらしいが。


「光栄に思えよロシア人。もはや帰る国すらなくなったお前がこれから世界を背負う日本の役に立てるのだからな」


今度は俺に目を向けてくる大富。


それから自分のタブレット端末を取り出してくると俺に写真を見せてきた。


「これが他の区画の特殊部隊だ」


どうやらこの特殊部隊結成は当然他の区画でも行われているらしく、総勢何十名からなる10数個の特殊部隊が既に作られているらしく、ここの区画は最後に作りに来た、との話らしい。


「いつから攻略を開始するのかは分からないが、それはリーダーの霧島に任せることにしよう。君は作戦の立案などに優れていると聞いている」


そう言って大富は踵を返すとギルドを出ていこうとする。


「三矢から話は聞いている、その歳で登録初日でいきなりSランクライセンスを獲得した新人冒険者。期待している。なお担当区画の攻略がはやく終わったのなら他の区画に行くことも認めている」


つまり理論だけなら初回攻略報酬を根こそぎ持っていくことも可能、ということか。


面白いな。

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