第20話 由来

(ステータスオープン)


声に出さずに会長のステータスを覗き見した。


​───────​───────​───────

名前:柊

レベル:65

ジョブ:魔法職

​───────​───────​───────


(レベル65の魔法職か)


自分のステータスをそれに合わせることにする。


あくまで俺はここに一学生の霧島 瀬奈として立っている。

だから力はセーブして学生に相応しい力量で勝負する。


「簡単な作戦くらいは先に話しておきましょ」


会長がそう言ってくる横で俺は剣を抜いた。


「俺が前に出るよ。それを会長が援護して欲しい。それでいいよね?」

「え?」


キョトンとした顔をする会長。


「俺なにか変なこと言った?」


そう聞き返したがそのとき


「シャーーーーーー!!!!!」


ヒュドラの噛みつき攻撃。


どうやら俺たちが作戦を立てるのを待ってはくれないらしい。


ヒュドラが自分から差し出した首を俺は切り飛ばした。


「近付く手間が省けたな」


一本首を切り飛ばされてヒュドラはこちらとの実力差を感じ取ったためかそれ以降警戒したような動きで俺との距離感をひたすらに測っていた。


「会長、出るよ」


俺が前に出て会長にサポートを任せる。


走っている最中。会長のバフが俺にかかるのを感じたが


(ただの学生にしては効果量が多いな)


普通学生の使うバフというものはなんか強くなったかな?程度の感覚にしかならないが会長のものは違った。


『明らかに強くなっている』というレベルの感覚。


(俺の正体ばかり聞いてきたがこの人、何者だ?学生のレベルじゃないな)


一瞬でそんなことを考えながら俺はスキルを発動。


「剣術スキルレベル5【十字斬りクロススラッシュ】」


いつもならこんな技ひとつじゃヒュドラなんて倒せないだろう。


しかし、【十字斬り】だけで俺はヒュドラを倒すことができた。


それだけ柊会長のバフは優れていた。


「ふぅ」


俺が剣を収めていると会長が近付いてきて


「どうして私が戦闘職じゃない、って分かったの?戦闘能力が高いのは知ってたけど、まさか鑑定スキルのようなものも持ってる、とか?」

「普通にステータスを見ただけだよ」

「す、ステータスを見た?」


ポカーンと口を開ける会長。


俺なんか変なこと言ったかな?


「あ、あの他人のステータスは普通は見れないんだけど」


そんなことを言ってくる会長に返す。


「それを言うなら会長こそだよね。なに?今のバフは」


そうやって聞くと会長は答えてくれた。


「柊家のこと知らない?」

「知らないな」


そんなこと言われても一学生の家の事なんて知らないに決まっているが、その言い方だとなにかあるんだろうな。


「バフ魔法に優れた家系とかってことかな」

「うん。そうなの。将来は支援職としてSランク冒険者になることが夢」


頷いてくる会長。

なるほどな。


俺は頷いて歩き始める。

すると驚いたような顔をする会長。


「え?この流れで自分のことは話さないの?」

「俺はただの予備生ですから。話すことなんてありませんよ?」

「そ、そんなのあり?!」


俺の後をついてくる会長。


「私霧島くんのこと名前しか知らないんだけどもう少しなにか教えてくれてもよくない?!」

「特に話すことなんてありませんから」


そう言ってスタスタと歩いていく。


敬語なのはもう話すことはなにもないよ、という意思表示だが。


それでも諦めなさそうな会長。


諦めの悪い人だ。

そう思いながら歩いていると次のボス部屋の前で東條たちが膝をついているのが見えた。


「くそっ!!!!!!また負けてしまった」


東條が拳で地面を叩くのを見て俺はその横を通ろうとしたそのとき


「どこへいくつもりだ新人」


そう聞いてくる東條。


「この先に進むだけだけど?」

「その言葉が何を意味するのか分かっているのか?負け、だぞ」


東條はそう言って続けてくる。


「このダンジョンが現れてからどのSランクパーティもここで止められてきた。この先のボスに勝てないんだ」

「じゃあ俺がその一人目になる」


そう言って歩こうとしたが


「もう無理だよ。時間だよ」


今度は会長が話しかけてきていた。


「朝の4時。そろそろ帰った方がいいんじゃない?」


そう言われて考える。

たしかに、そうだな。


いろいろと準備とかやることもあるし、


「学生か?お前たちは」


東條にそう聞かれたので頷く。


「そう。まだ冒険者見習い」

「これだけの短時間でここまで来たことは素直に賞賛するしかなさそうだな」


意外にもそう言ってきた東條。


「だが、お前はこの先で地獄を見ることになるだろう。この先は本当の意味でレベルが違う。ヒュドラなど可愛く見えるくらいの奴がいる」

「それは楽しみだな」


そう答えて俺は近くのセーブポイントに向かう。

セーブポイントでは街への帰還もこれからできる。


それに向かう時ふと思い出したように質問してきた会長。


「そういえば黒の殲滅者ってなんでデストロイヤーって読むんだろうね?もっと違う読み方でもよさそうだけど」


その一言で東條の顔がくもった。


「なぜ今その名を出した。それは私がロシアと日本のハーフだと知っていて口にしたのか?」


と会長に詰寄る東條。


やはり日本人ではなかったか。

それにしても面倒くさそうなことになったな。


「え?」


突然のことに固まる会長。

それを見て東條は静かに怒っていく。


「我々ロシアの血が流れる者の前でよくその穢れた名前を口にすることができたなお前」


ジリジリと近寄っていく。


その間に立つ。


「どうするつもりだ?」

「退けよ。その女は今穢れた名を口にした。我々ロシアを侮辱する意図があったのだろう」


よりによって最悪のタイミングで最悪なことを言ってくれたものだ。


とは言え普段は日本人とばかり会話するので会長もその辺の認識が抜けていたのかもしれないが。


こいつらロシア人に殲滅者の名前を出すのはマナー違反だ。


「偉大なるロシアを大罪人の名前を出すとはいい度胸をしているな」


東條は剣を抜いた。

それほどまでに激昂しているらしい。


「ど、どういうこと?ロシアを破壊?ロシアという国がなくなって旧ロシアって呼ばれてるのは知ってるけど」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る