第19話 常識なんて知らない

二階堂とは適当なことを話しただけだが、あいつも俺の正体にもしかしたら気付きつつあるかもしれないな。


気を引き締めないと。


そんな二階堂が帰って行ったのを見て俺は癖でアイテムポーチから仮面を取り出していた。


「すっかり癖になってるんだな」


ここまで考えたわけじゃなかった。


この仮面を取るという行為がほんとに生活の一部になっていた。


無意識に仮面を俺の手が取っていた。


「もう要らないよなこれ」


そう思って仮面をしまうと俺はそのまま夜の街に向かっていった。


大迷宮。

下見に行きたいのだ。


そうして昼間真白と共に来たルートを通って隠されるように置かれた扉の前に立っ た。


扉を守っていた職員が俺に声をかけてきた。


「子供か?子供の来る場所ではないぞ」


そう言われ俺はギルドカードを取りだした。


「霧島 瀬奈。Sランクか。聞いた事のない名前だが挑戦権はあるらしいな」


そう言ってくるが


「ほんとに進むのか?この先に。もう数年も一階層すら突破できていない。超難関ダンジョンだぞ?」

「あぁ」


俺が頷くともう一人の兵士が笑いだした。


「いいじゃねぇか。通してやろうぜ?どうせ一人なら入って五分で泣き言漏らして帰ってくるよ。そんな超難関だからなここは」

「それもそうだな。痛い目見るのが一番早いからな」


そう言って兵士二人は左右に別れて俺へ道を譲った。


「いいな?危険と感じたらすぐ戻ってくることだ。超難関ダンジョンの名は伊達では無いからな」

「分かってるよ」


そんなに難易度が高いらしい。

僅かなワクワクした気持ちを抱きながら俺は馬鹿みたいにデカく重い扉を押し開けた。


先に広がっているのは無機質な地下ダンジョン。


人間が作ったようなタイルみたいな床や壁が広がっていた。


「グッドラック」


親指を立てて見送る兵士を見てから俺は先に進んでいく。


しばらく進んでいると


「セーブポイントか」


右側の壁に扉があって中に入れるようになっていた。


超難関ダンジョンにはたまにある休憩室のようなものだ。


誰がダンジョンを作ったのか知らないが、こんなものまで用意してくれる気の利く製作者だよな。


そう思いながらガラッと扉を開けて中に入る。

すると


(うげっ……)


人がいた。

しかも柊会長だった。


「な、なんで?霧島くん?こんなところに?!」


そっちこそ、と言いたかったが。


言う前に質問攻めされた。


「あのとき聞けなかったこと直接聞いてあげましょうかねぇ」


ギャーギャーと言ってくる柊会長の言葉を聞き流しながら俺はセーブポイントでセーブをしてみることにしたが。


セーブはセーブストーンという鉱石でする事ができる。

これにカードをかざせば攻略情報がカードに保存される。


死ねば復活できる、とかの機能はない。

本当にどこまで攻略したかを記録するためだけのものだった。


「あ、あれ?」


セーブストーンにギルドカードをペチペチ押し当てるがなにも起きない。


「あ、あれ?」


その様子を見てクスクス笑う柊。


「知らないの?セーブの仕方。あははは。常識だよ?」


そう言いながら柊は俺の前でセーブをしていた。


【柊が攻略状況をセーブしました】


「まさか。黒の殲滅者がセーブの仕方を知らないなんて。常識知らずな魔法を使ってたけど、こっちの常識も知りませんっという感じ?」

「今までのダンジョンはセーブなしで一発クリアだったからさ」

「へぇ、さすがは殲滅者ね?」


そう言われて口を滑らせたことに気付く。


そのあと柊は意地悪せずにちゃんとセーブの仕方を教えてくれた。


【霧島 瀬奈が攻略状況をセーブしました】


と、出てきた。

よし、無事にセーブできたようだ。


それを確認した俺はセーブポイントを後にするがついてくる柊。


「そんなに足早にさっさと行かなくてもいいじゃない?」


加速魔法で振り切ってもいいが、一応俺は予備生だ。


あんまり無駄な手札は見せない方がいいか。


あくまで黒の殲滅者だとは認めない方針でいきたいし。


「会長はなんでここに?」

「私は冒険者志願なんだよね。だからこうやって実際のダンジョンで結果を出せば、学園の卒業くらいなんともないから」


だからここに来た、との話らしいが。


そのとき


「カランコロン」


そんな音か声か分からないものが聞こえた。

そちらを見るとスケルトンが立っていた。


「ダイヤスケルトンね」


そう言いながら剣を抜く柊。

それに合わせて俺はとりあえず


「火魔法レベル7」


【メルト】


スケルトンを溶かした。


そこまでして柊が俺を見つめていることに気付いた。


(やばっ)


癖で処理してしまった。


敵を確認して敵の処理までが癖になっていた。


「僕は殲滅者ですって私へのアピールなわけ?学生はこんな魔法使えないよ?」


引きつった笑顔でそう言ってくる柊には何も答えずに俺はそのまま歩いていく。


相変わらずついてくる柊。

このまま連れていくしかなさそうだな。


そう思っていると


「この先は中ボス戦だよ」


と柊が教えてくれた。


「へー。中ボス戦か。敵は?」

「ヒュドラだったかな」


ヒュドラって、あのヒュドラか?

あの首がいくつもある巨大な蛇みたいなモンスターのことでいいんだよな?


それが中ボスなのか。


「なかなか信じられないみたいだね。ここじゃヒュドラみたいな有名モンスターが中ボスをしてるんだ。それくらい難易度の高いダンジョンなんだ」


と説明してくれる柊。

なるほど、日本最高難易度と呼ばれたダンジョンは伊達ではない、ということか。


そう思いながら少し拓けた場所に出た。

まさにボスとの戦闘が始まりますと、言わんばかりの広い空間。


そこで待っていると


「シャーーーーーーーー!!!!!」


鳴き声を上げてヒュドラが突然上空から現れた。


6つの首が付いたヒュドラ。

その先はそれぞれ違う動きをしていた。


「ステータスオープン」


​───────​───────​───────

名前:ヒュドラ

レベル:87

​───────​───────​───────


(そんなに強くなさそうだな)


隣に柊がいなければ適当に処理して終わりだが


「どうするつもり?殲滅者さんは?」


と聞いてくる柊。


「ま、適当にやるさ」


否定するのが面倒になってそう答えた。


「会長も適当に合わせてくれる?」

「りょーかい」


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