第17話 俺を邪魔するものはもうない

銃を持って俺に聞いてくる男。


「何者だ?」

「ただの通りすがりの学生ですよ」


そう答えて道を開けると男たちは俺の横を通って社長室に突撃しにいった。


「な、なんだ。貴様らは!」


中から社長の声。

それと同時に


「警察だ。この企業ブルーオーシャンが匿名冒険者である黒の殲滅者と繋がっている、とのタレコミがあった。証拠付きでな」

「なっ!それは我が社の倉庫の写真だと?!」

「ここに映っている鉱石は違法に取得したものだろう?未発見の新種の鉱石もある」

「ち、違う!それは我が社の冒険者が集めたものだ」

「この量を、か?さぞ実力のある冒険者なようだな。こちらで調べよう。合法なものならばそれで終わりだ」


今から警察による調査が始まるらしい。

これでブルーオーシャンの行いは明るみに出るだろう。


「俺を人形扱いしなければこうはならなかったのにな」


俺はたしかに広瀬海斗には感謝していたがそれだけだ。


「俺が裏切らないなんて言ってないし、忠誠を誓ったつもりなんてないよ」


常日頃からそれとなく言ってきたさ。


対等にいきましょうよ、と。


しかし現状はこれだ。

俺を人形扱い。


流石の俺もそろそろ見切りをつけさせてもらった、というやつだ。


なにより冒険者登録をする以上衝突は避けて通れないだろうし。



病室を訪れる。


「こんばんは瑠花」

「瀬奈様。来てくださったのですね」


俺の顔を見てほほえんでくれる瑠花。

それから


「私は上手くできましたか?」

「うん。大丈夫だったよ」


頷く。

ブルーオーシャンの社長室に警察が突撃していった、という話をする。


「タレコミの件、どうもね」

「はい。その程度問題ありませんよ、瀬奈様のためならば」


そう言って俺を見てくる瑠花に報告。


「瑠花のおかげで冒険者になれそうだよ」

「そ、そうなんですか?」


そう聞いてくる瑠花のベッドの上に端末を置いた。

そこではブルーオーシャンの社長、広瀬海斗が捕まった、というニュースが流れていた。


もう俺の邪魔をする人間はこれでいなくなった。


「これからは地下の大迷宮に挑むつもりさ」


そのためのスタートラインに俺はやっと立てた。

そんなところだった。


「瀬奈様の役に立てて良かったですよ」


そう言ってくれる瑠花に俺は続ける。


「これからブルーオーシャンの方はごたつくと思うんだけど瑠花がまとめてくれる?」


瑠花はこう見えてたしか結構な地位についてたはず。

だから次の社長も見えるくらい、だったと思う。


だから今回のタレコミを強行した、というのもある。


「はい。お任せ下さい」


俺は頷いて瑠花の病室を出て病院の外に。


それから陽菜に連絡をした。

近くにいる、との事らしいのでここまで来てくれるらしい。


しばらく待っていると


「げっ……」

「なにがげっ……なの?」


と聞いてくる真白。

なんで陽菜の横にいるんだよ、ということだが。


「ありがとう。瀬奈くん」


と一歩陽菜の前に出て俺に礼を言ってきた。


というより、いつの間にか下の名前で呼んでいた。


「お兄ちゃんが帰ってきたのは瀬奈くんのおかげ」

「俺は何もしてないけど?」

「そうだね。瀬奈くんは何もしてなかったね」


そう言うとふふふ、と笑う真白。


「とにかく、ありがとね。いろいろと」


何も答えずに陽菜に目をやったが、陽菜が口を開きかけたそのとき。


「どういうことか説明してもらおうかしらね」


その後ろに控えていた生徒会長の柊が俺の近くによってきた。


「なんの話かな」


すっとぼけてみる。


「何者なの?霧島くんは」


単刀直入に聞いてきたが、もちろん俺としても本当のことを言うつもりなんてない。


「あなたの望む答えは俺の口から出ないと思うけど」

「そ、それはそうだろうけど」

「と、いうことさ」


俺は答えて陽菜に目をやった。

それから会長と真白に目を向けた。


「では、俺はこれで」


そう言って去ろうとしたが声をかけてくる会長


「明日は学園にくるよね?」

「行くよ」


そう答えて帰っていく。



翌日。

学園に来た俺だったが校長に呼び出されていた。


サーヤと真白を添えて、だ。


「よくぞ、ご無事で。ダンジョン食いの起きたダンジョンからの生還は初めての事例ですな。何があったのかを聞きたいのですが」


校長が真白の顔を見た。


「黒の冒険者に助けられたんだ」


そう答える真白。


「未登録の冒険者、にですか?よくぞご無事で、とても冷酷で残忍な人物と聞いていますが」

「違うよ。殲滅者はとても素敵な人だったよ」


なんだろう。

真横でそんなことを言われるとすごいむず痒くなる。


「ですが、奴は未登録の冒険者。素敵などという言葉とは……」

「ん?私なにか間違ったこと言ったかな?なにか間違ったこと言ったなら教えて欲しいんだけどなぁ?」


にっこり笑顔を浮かべて校長の顔を見る真白。


現在最前線で活躍している冒険者にこう言われてしまえば何も返す言葉がないのだろう。


その視線から逃げるようにサーヤに目を向けた校長。


「君からはなにかないのかね?同じものを見たのだろう?」


そう聞かれてビクッと方をふるわせたサーヤ。


「こ、校長……?」


おそるおそるといった感じで校長の顔を見たサーヤ。


「わ、私大変なものを見たのです」

「ど、どういうことかね?」

「な、なんで霧島くんが予備生なんですか?」


今まで真白も俺も触れてこなかったことに当然のように触れたサーヤ。


どうやらパニックになっているのだろう。


「真白さんもなんで言わないんですか?黒の殲滅者って明らかに霧島くんのことですよね?!」


そしてあったことを全部話し出すサーヤ。


「わ、私見ました!き、霧島くんが空間魔法のれ、レベル9を使うところ!」


パニックになっているのか両手を振って校長に説明しているが、校長は当然のように顔をしかめて、告げる。


マトモに取り合う気がないようだ。


「学生がレベル9魔法だって?ははは。君には休養を与えるよ。メンタルが不安定なのだろう。この男は本来この学園に入れなかった男だぞ?」


「ほ、本当のことですよ!き、霧島くんが!黒の殲滅者であり、最強の冒険者と呼ばれた人なんです!」


そこで真白に目をやった校長。

だが、真白はふっと笑ってキッパリと答える。



それを聞いて校長はどこかに電話した。

しばらくすると校長室のドアがノックされて、女性が入ってきた。


「心のケアをしにきました。私に思う存分話してくださいね」

「え、えぇぇぇぇぇぇ?!!!!ちょ、ちょっとぉぉぉぉぉ?!!!!」


そうしてサーヤが連れていかれた。


この中で唯一本当のことを話していた彼女だが数の暴力には勝てない、ということだった。


その後も適当に事情聴取を終えて学園を後にした俺に真白が声をかけてくる。


「もう、ついでだしギルド行っちゃおっか」


今日の授業は出なくていいと言われている。

というより出るな、と言われているし暇なのだ。


「そうだな。じゃあついてきてもらおうかな」


初めての冒険者登録、ワクワクする。

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