第16話 初めての相手
ダンジョンに入ってすぐに陽菜に連絡をしてから魔法を使おうとしてみた。
「空間魔法レベル5【瞬間移動】」
移動先を選ぶ項目が出てきた。
どうやら魔法は使えるらしい。
陽菜の現在の位置を確認。
「最奥へ」
【瞬間移動】
白い光に包まれた俺の体は次の瞬間最奥にあった。
そこには陽菜だけでなく多くの生徒やそれに同伴していた冒険者が取り残されていた。
その数30人はいるだろう。
ここにはイベントに参加した連中が全員集まっているようだった。
そのほとんどが全身ボロボロだった。
「く、黒の殲滅者」
その中の生徒会長の柊がそう呟いていた。
「な、なぜここに?」
その質問に答えず俺は目の前のモンスターを見た。
大穴から出てきているのは黒いモヤモヤとした人型の大型モンスターのようなもの。
こいつの常に出している衝撃波でみんな怪我をしているらしい。
衝撃波だけでこの威力なようだが、俺には効かない。
(なるほど、これがダンジョン食い、というやつか。初めて見たが、一応モンスター扱いなようだが)
確認した俺はとりあえず
「火魔法レベル10」
【インフェルノフレイム】
超高温の火の津波をモンスターに向けて飛ばす。
「オォォォォォォォォォォォ!!!!」
不気味な鳴き声を上げてモンスターの手が焼け落ちた。
手ごたえはある、な。
俺の魔法は通用するというわけか。それの確認ができた。
「れ、レベル10魔法?!」
驚いている柊の横でどんどんと魔法を使っていく。
「氷魔法レベル10」
【ダイヤモンドダスト】
「風属性魔法レベル10」
【ストームレイド】
「光属性魔法レベル10」
【シャイニングホーリー】
ここまで高威力の魔法を連続で打ち込んだ。
モンスターとの位置関係はかなり離れているが、その魔法のすべてがモンスターに有効打を与えていく。
しかしその強力な魔法が衝突しあって爆風も起きていた。
「な、なに……この威力……すごい爆風……ほんとうに、人間の魔法なの……?」
そう言いながらなんとか俺の近くに立っていた柊会長。
「おわっ!!」
「きやあぁぁ!!!!」
この爆発に慣れていないような森山たちは吹き飛ばされていた。
この爆風の中立っていられる柊会長や陽菜、二階堂はやはり優れている、ということだろう。
だが、ここで攻撃の手は緩めない。
「雷属性魔法レベル10」
【サンダーランス】
無数の雷の槍が飛んでいく。
「爆発魔法レベル10」
【ハイエクスプロージョン】
爆発の勢いで立ち込めていた土煙が完全に消え去り。
そこには
「オォォォォォォォォォォォ……」
全身を穴だらけにされた黒いモンスターがおり、そのまま後ろに倒れて大穴の中に吸い込まれていくように落下していった。
そして視界の端に浮かび上がるウィンドウ。
【未登録の冒険者がダンジョン食いを討伐しました】
【これよりこのダンジョンは崩れます。急いで脱出を】
俺はそれを確認してから構えを解いた。
初めて戦ったが、なんとかなるもんだな。
そう思いながら振り返ると俺はここにいるヤツらを対象に
「空間魔法レベル9」
【集団転移】
俺の魔法で壁際まで吹き飛ばされて気絶しているヤツらを先に優先的に街へと送り返していく。
ほとんどが俺の魔法によって生まれた爆風に耐えきれずに頭を打っていた。
残すところ数人にまで減ったところで
ピシッ。
何かの音が聞こえた。
だが、脅威は去ったし魔法の連続使用で若干だるくなっていた俺は気にせず転移作業を続けていたが。
パリン。
今度はそんな音が鳴って俺の仮面が砕けた。
カランカランと落ちていく仮面だったものの残骸。
先ほどの連続魔法の衝撃で魔法の威力に仮面が耐えられなかったのだろう。
「え、え?き、霧島くん?」
その顔を見て柊がそう呟いたが、俺の転移魔法は既に作動しており口止めもできなかった。
(見られたな)
そのまま俺の顔を見た柊は地上へ転移していった。
残された俺と陽菜。
「会長にはバレてしまいましたね、お兄様」
「フォローしておいてくれ。あれは双子の俺の兄だとかなんだとか」
「くすくす。そんな嘘が通じるでしょうか?」
「そこは腕の見せ所だよ?」
「はい。お任せを」
陽菜も移動させた。
その後に残ったのは俺1人。
せっかくの機会なのでこのフロアを漁ることにした。
ダンジョン食いが起きた後のフロアなんてそう漁る機会がないから。
「そう都合よくなにか置いているわけでもないのかな?」
そう思いながら大穴の方に近付くと
「ん?なんだこれ」
大穴の近くに光るものが落ちていた。
拾い上げてみると
【ラストクリスタル×99】
というアイテムだった。
全く知らない新種の鉱石なようだ。
その近くには更に綺麗な薬草が生えていた。
【星の力×99】
こちらも全く知らないアイテム。
「社長へのみやげ、と言いたいところだがこの独断を許してくれるか、どうか、だな」
考えるだけで胃が痛くなるが。
まぁ、収穫があっただけよしとしよう。
そのとき、ごごご、と更にダンジョンが音を鳴らして上から更に岩が落ちてくる。
俺は魔法を使う。
【瞬間移動】
◇
俺は地上に帰ってきて社長に連絡を取った。
社長室にこい、との話だったため、すぐに向かう。
「勝手に向かったらしいな」
「陽菜の代わりはいませんので」
ずっと同じ孤児院で育ってきて生活を共にして、血の繋がらない俺を兄と呼んで慕ってくれる女の子。
簡単に見捨てられるものではなかった。
「たとえ、あなたの意向に反することとなっても譲れないものもありますよ」
「そうか。だが次はないようにしろよ。それはそうと今回の独断はいくらお前でも処罰を与えることにした」
「と、言いますと?」
「今後暴走しないようにお前の妹を北海道か、沖縄にでも飛ばすつもりだ」
「なにを言っても無駄でしょうか?」
「そうだ。決定事項だ」
どうやらもう決定事項のようだ。
「私はお前をそんなふうに育てたつもりは無いがな。命令違反を起こすとは」
何も答えずに黙って見ていると
「下がれ。今はお前の顔も見たくない。私の命令だけ聞いていればいいものを。お前を育てたのが誰だか分かっているのか。歯向かいおって」
そう言いながら社長は俺を下がらせようとするが最後にひとこと。
「俺も陽菜と共に飛ばすことはありえませんよね?」
「当然だ。お前はこの都心で動かす」
「撤回はありえませんか?」
「あぁ。もちろん、お前の活動に妹は邪魔なようだ」
「分かりました。それでは」
正直今の俺にとって邪魔なのはこの男だが。
「クズが。私の言うことだけ聞くようにもっと教育しておくべきだったな。誰の優先度が一番高いかを理解していないようだ」
俺は社長室を出る前に、社長から受け取っていた携帯端末を取り出すとそれを、魔法で溶かした。
「なんの匂いだ?」
「大したものではありませんよ」
社長室を出ると自分名義の携帯端末を開きメッセージを送った。
宛先は瑠花。
しばらく待っているとドタバタと慌ただしい駆け足。
そちらを見ると
「動くな」
重装備の男達が俺に向かって銃を構えていた。
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