第14話 俺だけデメリットなし

日本にダンジョンが出現してから色々と調査が進んだが、それでも分かっていないことがある。


それはダンジョン食いと呼ばれるものだった。


俺は真白と共に冒険者ギルドに帰ってきていた。


幸いダンジョンに入ってすぐだったので俺たちは撤退できたが。


俺たちより前に入って更に奥へ進んでいる陽菜や二階堂たちはダンジョン内に取り残されている形だ。


「ギルドマスター。どうにかしてよ!お兄ちゃんたちがダンジョンに取り残されてる」


真白がギルドマスターに交渉していた。


俺はギルドと無縁だったため知らなかったがギルドマスターは赤髪の女だった。


そのギルマスが真白に答えていた。


「Sランク冒険者なら分かるだろ?ダンジョン食いに襲われたのなら見捨てるべきだ、と」


地震や津波が来たのと同じだ。

人の力でどうにかなるものではないのがダンジョン食い。


津波に巻き込まれた人がいるのなら見捨てる。

じゃなきゃ自分も巻き込まれ余計に被害が広がるから。


「で、でも」

「明日にはダンジョン食いも落ち着く。それを待ってから救援を向かわせる」

「そんなんじゃ遅すぎるよ」

「諦めてくれ。今までもしてきたことだ」

「私は行く」

「無駄だぞ」


真白はギルドの依頼を見た。

しかし悠木鉱山行きの依頼は全て受注不可となっていた。


そしてマップを見てもダンジョン周囲には厳しい監視の包囲網が敷かれているようだ。


「どうして……」

「ミイラ取りがミイラになるだけだ。理解してくれ。そして諦めてくれ」

「そ、そんな……」

「冒険者省からも言われている。ダンジョン食いが発生したダンジョンに冒険者を立ち入らせるな、と」


その場に膝を着いた真白。


そのときギルドの奥からギルマスに声がかかった。


「ギルドマスター。ダンジョンの推定難易度がDランクからCランク、Bランクと上がり、今は難易度が推定不能となりました」

「いつも通りだな」


ダンジョン食いが起きたダンジョンはいつもそうだ。

難易度が格段に上がり実質攻略不可能状態になり、数時間後には消失する。


報告を受けたギルドマスターがもう一度真白に目をやった。


「本来であれば君たちが戻ってきたことすらも奇跡に等しいことなんだよ真白。これ以上を望むだなんて神に祈るしかないさ」


ぐっと、拳を握りしめる真白を見てから俺はギルドを出た。


二階堂達のことはどうだっていいが陽菜が巻き込まれている以上俺が動かないというのは論外だった。


そのとき、タイミングよく着信音。


誰かと思えば社長だった。


「想定よりはかなり速いがダンジョン食いが起きたのは聞いている」

「はい。仰った通り起きましたね」

「妹の件だが、見捨てろ。分かっているな?お前までダンジョン食いに巻き込まれては被害がとんでもないことになるからだ」


一方的に言うと通話を切る社長。


俺の意見は無視。

分かってはいたが完全に俺を人形扱い、というわけか。


俺が携帯端末をポケットにしまったそのとき真白が後ろから声をかけてきた。


「瀬奈くん。君はどうするの?」

「どうすると思う?」


俺は答えながら歩き出すと真白が手を取ってきた。


「まだあのダンジョンには人が残されてる」


なにも答えずに歩いていこうと思ったが、最後にひとつだけ言っておくことにした。


はなにもできないし。何もしないよ」

「そ、それって?」

「まぁ、もういちど奇跡が起きるかどうか。祈ってみれば?なにか起きるかもね?」



仮面とマントを身につけた俺はダンジョンの入口前に場所を移した。

そこには10人を超える冒険者が配置されていた。


聞いていた通りだったな。

本当に通すつもりは無いらしい。


「どいて、そこ。お兄ちゃんたちが中にいる」


その前に真白が立っていた。


「ダンジョン食いが起きたダンジョンにはいれられねぇな?それとも無理やり入ってみるか?止めやしねぇぜ。例え生きて帰ってこれてもお前の冒険者カードは無効になるだろうがな。知ってるよな?むりに押し入れば違法行為だぜ?げはははは」


逆立てた赤髪と眼帯が目立つ男がそう口にしていた。


「……」


拳を握りしめてなにもできない真白の近くによった。


「あ?」


赤髪の男は俺を見てきた。


その顔にあったヘラヘラとしたダルそうな表情が一気に消えた。


恐怖と動揺だけがその顔に残る。


「な……く、黒の殲滅者……。なぜ、こんなところに。ダンジョン食いには近寄らねぇってデータがあったはず。そ、そのお前がどうして、」


その言葉に答えず俺は呟いた。


「状態異常魔法レベル9」


【強制睡眠】


そのとき赤髪以外の冒険者はバタリと倒れた。

俺の魔法によって強制的に眠りについたのだ。


「ち、近寄るな!知ってるよな?!中に入ろうとする者を攻撃してもいい決まりを!剣術スキルレベル6【クロススラッシュ】」


俺に剣を向けてきたが、遅い。

俺は右手でその刀身を挟み込むように掴んだ。


「く、くそ!動かねぇ!!!」


男がぐっぐっと俺の指から剣を抜こうとするが抜ける訳もなく、ついに自分から剣を離した。


「火魔法レベル8」


【メルト】


ドロっと溶ける男の刀。


「なっ……れ、レベル8の魔法……?」


男は腰を抜かしてその場に座り込んでしまった。


「こ、これが……黒の殲滅者……」


俺は男を見下ろして口を開く。


「俺はもともと冒険者登録をしていない。だからカードが無効になることもない。お前はさっき入っていい、と言ったな?自己責任で入るぞ?」

「は、はい!!殲滅者様!どうぞ!ご自由にお入りください!」


勝てないと分かると、この手のひら返しである。

ギルドも監視の人選を間違えているよな。


そう思いながら男に目を向けた。


「お前に役目をくれてやる。真白こいつが中に入らないように見張っておけ」

「は、はひぃぃぃぃぃぃ!!見守らせていただきます!!」


そう言って俺に道を譲る男だったがダンジョンの入口は魔力耐性のある岩で固く閉ざされていた。


「剣術スキルレベル9【千の剣サウザンズスラッシュ】」


粉々に砕け散る岩。


「け、剣術も使えるのか……」


男が驚いているようだが俺はそうして切り開いたダンジョン内の入口の前で地面に手をついた。


ダンジョン食いが起きているダンジョンに入るのは初めてだ。

中がよく分からない以上先に情報を集めておきたい。


「魔力操作スキルレベル8【マッピング】」


自分の魔力をダンジョン内に染み込ませて自分の頭の中に地図を作製するスキルだ。


よし。

細部まで情報が把握出来た。


「せ、殲滅者さん!なんだか分かりませんが頑張ってくださいぃぃぃぃ!!」


男の声に頷いて俺は中に入っていく。

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