第13話 遠征に出発したが
【Dランクダンジョン。悠木鉱山】
ダンジョンに入ってすぐで真白が止まった。
「ここから敵が出てくる。基本的に指示は私が出すからその通りに動いて欲しい」
頷く俺達。
「先に言っておくけど私は霧島君にしか期待していない」
俺は頷こうとしたが
「霧島くんはすごいよね。Sランク冒険者の真白さんに期待してもるなんて。それに比べて私は……はぅぅ……なんと情けないのでしょう」
そう口にしたサーヤ。
しかしその後に真白の目を見て続ける。
「でも私にも期待してもらいますよ、真白さん。私も頑張りますから」
「へー。そうなるように期待してみるよ」
歩き始める俺たち。
やがて俺はいつもの癖でひとりごとを漏らしてしまった。
「囲まれたな」
いつもはひとりでも口に出して状況を整理するタイプの俺だが今は周りに人がいるわけで
「どういうことなんですか?霧島くん」
俺の言葉に返事をしたのはサーヤだった。
しかしその質問に答えたのは俺ではなく真白だった。
「モンスターが私たちを囲んでる」
「ひぃぃぃぃぃぃ!!!!」
サーヤが真白の後ろに隠れる。
「さて、問題です。どうするべきでしょう?」
真白が俺たちにそう聞いてきた。
「た、戦うしかないですよねぇ?ひぃぃぃ……」
サーヤが短刀を抜こうとしていた。
「で、ですがここは真白さんに期待してもらえるチャンスです!頑張りますよ」
と、かなり好戦的なようだったが。
そんなサーヤを見てから真白は俺に目を向けた。
俺の意見を聞きたい、ということだろう。
「無駄な消耗は避けたい。ここは避けて通るべきだ」
「ふーん」
ニヤニヤする真白に反論してくるサーヤ。
「ど、どうしてですか霧島くん?どうやって避けるんですか?逃がさないように向こうも囲んでいるんですよね?」
そう言ってくるサーヤに分かりやすく説明する。
「囲まれてるとは言ったが包囲を崩せないとは言ってない。そこを見るといい」
俺は一点を指さした。
「あそこだけ手薄だ。あそこを攻撃して突破する。後は走って次の階層を目指す。他の奴らは無視だ」
「なっ、む、無視ですかっ?」
驚くサーヤに笑う真白。
「分かってはいたけどかなりダンジョン攻略に慣れてるよね霧島君。何回かこういう質問はしてきた事あるけどみんな戦おうとするよね。そう返してきたのは君が初めて」
目を細める真白。
「とりあえず君のお手並み見せてもらっていいかな?正確な実力も知っておきたいからさ」
そう口にした真白。
俺に任せる、ということか。
「さっき言った方角に向けて走るぞ」
タッと俺は足を動かし走り出した。
「わっ、分かりました!」
サーヤ達も付いてきているようだ。
「ギッ!」
俺達が向かってくるのに気付いたゴブリンの鳴き声。
そいつらに向かって俺は
「剣術スキルレベル3【ラウンドスラッシュ】」
体を回転させながら剣を振り回す技で一点突破。
「ギィィィィィィィィ!!!!!!」
断末魔を上げるゴブリン。
それと共に突破口が開く。
「走れ。いばらく行くと階段だ。それで次の階層にたどり着ける」
俺達は走り抜けた。
次の階層へと。
階段を駆け下りて階層を移してとりあえず休む。
「一旦休憩しよう」
俺は2人にそう提案する。
「疲れましたぁぁ……」
サーヤがぐったりと座り込む。
息を乱していないのは俺と真白。
それでも岩に座る。
休める時に休んでおく。
それがダンジョン攻略の鉄則だ。
その時に質問してくる真白。
「君やっぱりかなりダンジョン慣れしてるよね。ここも来たことあるよね? 」
真白がそう言ったことが意外だったのか目を丸くして俺を見てくるサーヤ。
「来たことあるんですか?このダンジョン」
サーヤの質問に答えたのは俺じゃなくて真白だった。
「このダンジョンだけじゃない。他のダンジョンも含めてかなりの死線を潜ってると思うよ霧島君は」
「そ、そうなんですか……」
サーヤがそう呟いて沈黙が場を支配した。
「はわわわ……同じクラスにこんなに凄い人がいたなんて……」
俺は何も答えずに座っていた。
あまり認めたくないな。ダンジョンに頻繁に潜っていることは。
十中八九真白は俺の正体に気付いているんだろうから無駄な抵抗かもしれないけど。
「目が違うもん。霧島君は。きっと何度も死にかけたし仲間を死なせてきた。そんな人の目してるよ。大体Bランク冒険者になればみんなこんな目をし出す」
「き、霧島くんがBランク冒険者クラス?!」
驚くサーヤ。
この子だけはいっさい事情を知らないから驚きも大きいのだろう。
「い、今すぐ冒険者として活動できるじゃないですか?!それも一級線で活躍できるレベルですよね?!」
サーヤが聞いてくる。
「霧島君はいったい何者なんですか?」
「ただのエクストラ」
そう言いながら話の流れを断ち切るように立ち上がった。
俺はただのエクストラ。
それ以上の何物でもないから困るんだよ聞かれても。
「さ、そろそろ行くぞ」
「そうだね。行こう」
俺の言葉に同意する真白。
そう思ったその時だった。
地面が揺れた。
「じ、地震?!」
驚くサーヤに答えた。
「いや、違うな……」
俺は真白と視線を合わせた。
「撤退だ。急いで下がるんだ」
これは……地震なんかじゃない。
「て、撤退?!」
「霧島君の指示であってる。これはほんとにやばいから」
これはダンジョン食いと言われるダンジョン限定の天災だ。
そのとき撤退を始めたが、
「出口が塞がれましたよ?!」
俺達の進路に落ちてきた落石。
「やばい。ほんとにやばい」
今まで余裕の顔を浮かべていた真白からついにその余裕が消えた。
Sランク冒険者にすらこういう顔をさせるのがこの天災ダンジョン食い。
「まさか今ダンジョン食いが起きるなんて」
完全に予想していなかったことが起きてその場に座り込んだ真白。
拳を握りしめていた。
「ごめん、私にはもうなにもできないよ」
その言葉を聞いて俺は呟く。
【空間魔法】
その様子を見て真白が訊ねてくる。
「空間魔法、使えたの?」
その質問に答えず続けていく。
「レベル9」
「れ、レベル9?!!!!!」
驚いた様子で俺を見てくるサーヤ。
「れ、レベル9なんて!神域と呼ばれた神様レベルですよね?!」
その言葉も無視して俺は魔法名を呟く。
【集団転移】
俺たちの下に魔法陣が浮かび上がる。
「ま、魔法陣?!本物のレベル9魔法……?く、空間魔法のレベル9を使える冒険者なんて……聞いたことがない……」
俺を見てくる真白。
「もう正体を隠すつもりはないの?」
その質問にも答えずに俺は魔法を起動。
俺たちの体が白い光に包まれるなか気がかりがあった。
(俺たちは離脱できるが陽菜たちが危険だ)
先行している陽菜やそれから生徒会の会長たちの安否が心配だ。
正直俺たち以外の状況は絶望的、というほかなかった。
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