第12話 不信感

俺は夜の9時頃。単独で社長室に来ていた。

呼び出されていたからだ。


「どういうわけか説明してもらおうか?瀬奈。目立つようなマネはやめろ、と言ってきたはずだが」


俺を見てそう言ってくる社長。


「俺は別に目立つようなマネをしたわけでは……」


森山との模擬戦に勝利した件はもみ消されたしあの時は呼び出されなかった。ということはやはり今回の遠征メンバーに選ばれたことを言っているのだろうが


「俺は目立つようなマネはしていません」


理不尽だ。

俺はただ負けただけ。


なにも目立つようなことはしていない。


「暴徒の鎮圧はやむを得ず、です。魔法はレベル5までしか使用していません。これで目立つ、というのは言い過ぎなように思いますが」

「レベル5はたしかに学生でも使えるものだが」

「はい。ですので、目立ってはいない、と思っています」


これが俺の意見だった。

でも結局社長とは食い違いそうな気がした俺は話題を変えることにした。


「俺は正式に冒険者登録したいと考えています」


未登録の冒険者に対して風当たりは強くなる一方。

どのみち近い将来、冒険者登録は必要になると思う。


「現状のなにが不満なのかね」


その顔にはやはりいい感情は浮かんでいない。


「黒の殲滅者。今まで通り未登録の冒険者でいいだろう。登録してしまえばギルドに報酬を中抜きされる。お前は中抜きされたいのか?」


そういうわけではないが。


「地下の大迷宮の件か?あれのセキュリティの突破方法はこちらで模索中だ」


そう言って社長は意地でも俺に登録させたくないような感じだった。


Sランク冒険者が報酬をギルドに中抜きされる分はおよそ8割と言われている。


その代わり莫大な支援を受けることができるが、俺には不要なものだとずっと社長は言い続けてきた。


俺が登録しないことによって社長は10割の報酬を俺から受け取ることができる。


「お前は闇の世界の住人だ。今更光の世界に戻る必要なんてない」

「で、ですが」

「私の言う通りにしていろ、用件はそれだけか?下がれ」


拳をギリギリと握りしめて踵を返すと最後にひとこと言っておくことにした。


「分かりました」

「それでいい。今更光の世界などお前には似合わんよ。それと【ダンジョン食い】がまた活動を始めているようだ。気をつけろ」


【ダンジョン食い】か。地震や台風と同じような天災だが。

厄介なことには厄介なことが重なるな。



本社を出て今度は社長が関わっている病院の病室を訪れた。


白い部屋の白いベッドに寝かされた赤髪の少女。


俺が入ってきたことに気付いたのか俺に目を向けてくる。


「瀬奈様。いらっしゃったのですね」


この子も孤児だ。


「久しぶりだな。瑠花るか

「はい。お久しぶりです」


そう言って俺の両手を取ってくる。


「ずっと、待っていました。瀬奈様がいらっしゃるのを」

「悪いね。なかなか時間が取れなくて」


ここに来た本命を切り出すことにした。


「相談があるんだ」

「相談、ですか?」

「あぁ。俺は今の社長に対して不満がある」

「そ、それはどういう?」

「言葉通りに取ってもらって構わない」


そう言ってから緊張しているような瑠花に言う。


「俺はこのまま冒険者登録をしたい、と思ってる」


地下の大迷宮。


ずっと社長がセキュリティをどうにかすると言っているが、あそこだけは数年の間入れていない。


俺の目当てのものはおそらくあそこにある。

だから、入りたい。一刻も早く。


なにをして、でも。


瑠花はダンジョンで負った怪我で足が動かなくなってしまっているが、大迷宮にはそれを治せるアイテムがあると聞く。


だから早く大迷宮に入りたいのだ。


瑠花は俺が孤児院に来た時によく世話をしてくれたお姉ちゃんみたいな人だったから。


「私のためにまだダンジョンに潜っていてくれたのですね」


俺はこの人のために社長の言うことを聞いてきた。

しかしこれまでもそうだったようにこれからも大迷宮に挑む手立てはないように見える。


だからもう冒険者登録をして正攻法で挑もうと思っている。


「本当は実力を隠そうかと思ったが、もうそれもやめにするよ」

「それってつまり……」

「俺はもう彼には従わない」

「裏切るんですか?」

「そもそも俺は忠誠を誓ったつもりなんてないさ」


社長に恩義はある。


でも、それだけだ。


既に釣りが出るほどそのお返しはしたし。


「まぁ、何かあったら連絡するよ。その時は協力してくれるよね?」

「は、はい。もちろんですよ瀬奈様」

「よかったよ。じゃあね」


俺はそう言って病室を後にする。


俺の中に少しずつ社長への不信感が募っていった。


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