第10話 開会式の不穏な空気

2週間に及ぶ冒険者による視察イベントが終わろうとしていた。

この2週間目立たないようにするのが大変だった。

ちなみに努力の甲斐あって1度も勧誘はなかった。


学園に来た俺はラスト1日くらいは穏やかに過ごせることを願っていたし自分でもやり過ごせるだろうなんてことを考えていた。


「えー、今日は視察期間ラストということで冒険者の方が気になった生徒を指名して実際にパーティに加わり、選ばれた生徒はダンジョン攻略をしていくことになる。粗相のないようにな。まぁこのクラスが選ばれることはないだろうが」


担任はそう言って授業とかの準備を始める。


うん、俺もそう思う。そうだよな、選ばれるわけないよな、だってここは一年の予備生、エクストラ。


3年間必死に頑張ってきた先輩方もいるんだ。

そんな奴らを無視して俺たちの教室にくるわけない。


そう思っていた。


この時までは。

ガラッ。扉が開いた。


「おっはよー♡」


そこに立っていたのは真白。

クラス中の視線が真白に集まる。


担任だって例外じゃない。


「なっ?!Sランクの真白さん?!お、お間違えではないですか?」


というより1番驚いていたのが担任だった。


まぁ、待て。言いたいことは分かるぞ担任。


ここは5組。

エクストラだ。普通ならそんなところにSランクパーティが引き抜きに来るわけが無い。


そうだな?

つまり真白が入る教室を間違えた。

それだk……のはず。


「ん?ここ、1年5組だよね?間違えてないと思うけど」


首を傾げる真白の問いかけ。


「そ、そうですが。なぜこのクラスに?事前のアンケートではほぼ三年のクラスの希望しかなかったのですが」


更に続ける担任。


「し、失礼ですがこのクラスにあなた方Sランクパーティについていける生徒なんていませんよ。1組の生徒ですら厳しそうですし、恐らく間違いかと」

「ん?間違いじゃないって言ってるよね?何度言わせるの?霧島って子このクラスだよね?」


全員が俺を振り返ったが生徒の多くが口を開けた。


「仰っているのは霧島 陽菜さんの方だと思いますよ」

「そうです。こいつは縁故入学のクソ野郎ですよ」


散々な言われ方だったがまぁいい。

俺も面倒事は嫌だし何よりも真白に正体を気付かれたくない。

このまま乗り切りたいと思い口を開こうと思ったが


「私の言いたいこと分かるよね霧島君」


俺に目を向ける真白。


「合ってるよ、君で」


その目はどこまでも真っ直ぐ。


(あー、これこの前の一件で目をつけられた、というわけか)


そう思う。


「私は君を選んだんだよ霧島君」


そう言った瞬間クラスがざわざわとし始める。


「そ、そんなやつより俺の方が強いですよ」


クラスメイトはそう騒ぎ始める。

どうやらきりしまじゃなく、自分を選べ、とそう言いたいらしいが。


「霧島君がいないと私ここに来てないから。思い上がらないで欲しいな」


そう言って真白は全員を黙らせてから話を進める。


「イベント参加条件に最低あとひとり必要なんだよね。霧島くん、選んでくれる?」


そう言われて俺の頭はフリーズする。

クラスメイトのことをまったく知らないからだ。


この2週間、いや入学式以降クラスメイドがどの程度の実力なのかぜんぜん把握してこなかった。


クラスメイト。特に男連中は自分を選べ、と叫んでくるが。


聞きもせずこのクラスの中で唯一マトモに喋ったことのある子を選ぶことにした。


「じゃあ君にする」


俺は入学式の時に話しかけてきた女子を指名した。

たしかサーヤとか名乗ってた気がするが。

その後もなんだかんだ話しかけてきた記憶があるし。


「え、えぇぇぇぇ?!!!!私ですか?!!!!」


正直誰を選んでも変わらないと思うから適当に選んだだけだ。


「うん。霧島君が言うなら悪くない選択なんだろうね」


そう言って真白は手をパンと叩くと続ける。


「メンバー決定。これ以上ブーブー言うのは無しだよ」


その時


「あ、あの質問があるのですが」


困惑した様子で真白に話しかける担任。

無理もないだろう。


いきなり来ると思っていなかった人物が来て勝手にマイペースに話を進めるのだから。


「し、しかし本当に気になるのですが何故霧島なのですか?」

「うーん、それは私の目を疑うってこと?」

「そ、そういうわけでは」


それきり何も言えなくなった担任。

真白がまた口を開いた。


「て事で手続きよろしくね。パーティは決まったから」

「は、はい」


渋々といった様子で作業を始める担任。

どうやら俺の遠征参加は決まってしまったらしい。


2時間後俺達は体育館へと集められていた。


「えー、これから我が校を代表して遠征へ向かう生徒達を紹介します」


校長が名前を読み上げていく。


「Sランク冒険者二階堂様パーティ、1年1組。霧島、新島、森山」


そうして舞台に上がる二階堂パーティ。

それからも名前を呼ばれて順に9パーティが出揃う。

ほとんどが三年から選ばれた生徒達。


一年から選ばれたのは俺と陽菜達だけ、ということになるが。

俺たちの紹介をする校長だったが言葉に詰まっていた。


「えー、最後にSランク冒険者真白様パーティ、一年のご、ご、ご、」


書類を手に取る学園長の手が震えていた。

驚いているのだろう。


「ご?なんだよ早くしろよ」

「そうだよ詰まってんじゃねぇよ」


ブーブー文句を垂れ始める生徒達。


「失礼しました。言い直します。ご、5組……」


5組と言われた瞬間一気に湧き上がる体育館。


「5組ってなんだよ?!エクストラじゃねぇかよ?!」

「三年の一組にすら選ばれてないやついるのに、なんで一年のエクストラなんだよ?!」


罵声。罵声。罵声。罵声。

とにかく罵声が飛び交う中


「せ、静粛に」


校長が黙らせて言い直す。


「二階堂 真白様のパーティ。一年五組の霧島、田中」


俺たちの名前が読み上げられた。


「ほら、行くよ」


真白を先頭に俺達も壇上に上がる。


待っていたのはやはり歓迎されない視線だった。



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