第9話 バレたか?いや、バレてないだろう……多分

昨日のニュースを思い出していた。


(まずいことになったな。未登録冒険者の締め付けが厳しくなったか、違法になるならそう簡単に動けないな)


陽菜は先に学園に向かったため俺は一人で登校していた。

のだが、校門前で予想外過ぎる人物に出会った。


目立つ白い髪の女と隣の男。

見間違えるわけもなかった。


(二階堂兄妹。なぜこんなところに。こうやって仮面なしで遭遇するのは初めて、だな)


冷静に校門を通り過ぎようとした。

そのとき二階堂に声をかけられた。


「知り合いと雰囲気が似ている気がするね君」

(バレた?いや、そんなわけはないだろう。こいつらと会う時はずっと仮面をつけていた)


どうやって答えようかと思っていたとき


「きゃー!!!!二階堂さんよ!」

「え?!本物なの?!本物の二階堂さんなの?!!!」


女子たちの歓声が聞こえた。

その女子達が二階堂の周りに集まってきたので


「俺はこの辺りで」


この幸運を逃さずに二階堂達の近くから脱出をすることにした。


「ちょ、ちょっと?!」


焦ったように二階堂が俺たちを呼び止めようとしたが、集まり始めた女子達がそれを許さないようだった。


(ふぅ……正体はバレなかったよな?)


教室に向かおう。


二階堂が現れた理由は朝のホームルームで判明した。

どうやら二階堂を始めとした冒険者の人たちが有名な学園に視察に来ているらしい。


才能があれば学生のうちからスカウトをするとのこと。

来ているパーティは人手に困っているDランクくらいのパーティの人たちも多かったりするらしいけど。

二階堂みたいなSランクパーティはほぼ見ないし。


それで今。

一組と五組の合同授業中だった。


森山からろくでもない視線を感じるが気にはしない。

それよりもどうやってここをやり過ごそうか。


今行われている内容は生徒同士の模擬戦だ。

もうすぐに俺の番なのだが


ちらっと見てみるとキラキラした目を陽菜がしている。


余り期待は裏切りたくないという思いがあるが同時に二階堂に見られているというのもある。

その時


「次、霧島準備しろ」


教師に模擬戦を始める準備をしろと言われた。

はぁ。


溜息に近い息を吐き俺は舞台に上がる。

相手は森山の幼なじみと名乗った新という女子生徒だった。


彼女も1組だ。

負けよう。

そっちの方が自然だろう。


「よし、では始め」


開始の合図。


「手抜かないでね、女だからって!」


合図と同時に新島が前に。

剣を腰の辺りで構えながら迫り来る。


それを見てから慌てた様子で受け止めようとしたが間に合わなかったフリをして倒れこむ。


「うぐっ」


だが新島は


「ふっ!」


一旦息をつき次の構えへ入ろうとした。


(まだやるのかよ?)


俺も反射的に手に力を入れて少しだけ剣を動かしてしまった。


「あ、ごめんね。癖で追撃入れようとしちゃった。ルール破ろうとしちゃった」


てへっと舌を出して謝る新島。


「あぁ、俺の負けさ」


これで興味を失ってくれたらいいが。

そう思いながら立ち上がると


「すぐに倒れてたらダメだぞー。もう少し耐えてみろー」


教師から今の模擬戦についての言葉が飛んできた。


それに頷いて壇上から去る間際視界の端で二階堂を見てみたがその視線は俺ではなく新島の方を見ていた。

どうやら誤魔化せたようだ。


こんな試合をした俺からの興味は失せただろう。

そう思いながら待機場所に戻ろうとする道中で真白が近付いてきた。


「​───────今のわざと負けたよね。がいいからそういうの分かるんだよね」


真白がそうポツリと漏らしていた。


内心、バクバクと高鳴る鼓動を落ち着けようとしながら冷静に答える。


「ま、まさか。予備生が本科生に勝てなかった。それだけさ」

「ちがう、見てれば分かるよ。ごまかせると思ってる?」


そう言って目を閉じた真白。


「最初の一撃目は反応が追いつかなかったのかなって思ったけど次は違うよね。一撃目より明らかに速く手が反応してた。私以外あの一瞬の動作には気付いてないけど。私じゃなきゃ見逃してた」


一旦区切ってからまた口を開く。


「ここで見た事は秘密にしておくけど。本気の君なら圧勝だったよね」

「まさか。そんなことないさ」


そうとだけ答えると小声で言ってきた。


「名前覚えておくね、霧島君?それとも、黒の殲滅者って呼んだほうがいいかな?」

「意味がわからないな。誰かなそれは」


そう答えて壁に背を預けて座る。

まさかバレた?


そんなことないと思うんだけどな。


そのとき森山が真白に話しかけていた。


「僕は森山です。次の模擬戦は僕です」

「あー、あの森山かー」


そんな会話が聞こえてきた。

そこに後から駆け付けた教師も慌てた様子で会話に加わっていた。


「よし、森山。お前の力をお見せしよう!折角二階堂さん達がいらっしゃってるんだからな!」

「はい!先生!」

「よし、相手は霧島陽菜。お前だ!」

「はい」


どうやら陽菜と森山が手合わせするらしいが陽菜はヒーラーだ。

最低限の剣技しかないはずだが。


ギリギリの攻防で森山が勝っていた。


「はぁ、はぁ。どうですか?!」


森山は目を輝かせて二階堂達に聞いていた。


「流石は森山だな。ここまでの試合で1番いいものを見れた!」


と二階堂。


「ありがとうございます!」


森山が頭を下げ、もう一度上げた時に真白に目をやったが


「ま、いんじゃない?」


とかなり素っ気ない返事。


「ありがとうございます!」


それでも嬉しそうな顔をする森山を見てから真白は場を後にしようとした。


「もういいのか?」


二階堂の問いに


「もういい。私が興味持ったのはひとりだけ」

「このタイミングだと僕でしょうか?!!」


森山が聞き返していたが


「本気で言ってる?分かるように言ってあげた方がいいかな?」


フンと鼻で笑われる森山。


「え?」


森山がその場で呆然と立ち尽くす。


「あなたじゃない。見てて思ったけど、うっとうしいんだよね」


一瞬の静寂。


「うっとうしい?」

「いい格好したいのか知らないけど自己アピール強すぎなんだよね。見てて気持ち悪い。協調性、とかないわけ?冒険者はパーティで動くもの。必要だよ?協調性」


そう言って真白は最後に俺にほほえんで体育館を出て行ってしまった。


「じゃ、邪魔?」


その場にぽつんと立ち尽くす森山。


「あ、機嫌が悪かったんだと思います!後で言っておきますんで!いや、森山君の剣技は凄かったですよ!」


その後、二階堂が必死にフォローを入れていた。


ちなみにこの中で一番協調性がないのは俺だろうな。

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