第8話【幕間】【真白視点】二つの収穫と違法化
side 二階堂 真白
「悪趣味な女だな」
私はお兄ちゃんに深夜のファミレスでそう言われていた。
「普通、そこまでするかね?」
私は携帯端末で地図を見ていた。
「むっふっふー。諜報活動って言って欲しいけどね?!」
パフェを食べながら答えた。
それからそうしながら、むとーに貰った折り畳まれた紙をポケットから取り出した。
「収穫ひとつめのID確認たーいむ」
ぴらっ。
紙を開いてるとそこに書かれていたのは。
「『baaaaka』ってなによ?!やっぱり騙したのね!」
紙を机に叩きつけた。
「教えてくれるわけないのは分かってただろ?」
お兄ちゃんは私の前で呆れたような顔をしていた。
まぁ分かりきっていたことではあるけど。
「意外とお茶目ね。むとーは」
「そうだな。わざわざ紙にばーーーか、なんってな。」
「でも、ちょっと私の事舐めすぎよね」
むとーはきっと気付いていないけど私が常日頃からまとわりついているのは魔力パターンと呼ばれるものの収集目当てだった。
「じゃあ、ふたつめの収穫の魔力パターンから逆探知しよっか」
冒険者と呼ばれる人々の魔力には指紋と同じように人それぞれのパターンがあるとされている。
つまり魔力のパターンから個人を割り出すことが可能なのだ……理論上は。
理論上は……というのも指紋と違って目で見えるものでもないし魔力のパターンを手軽に調べる手法なんてこの世界にはまだなかった。
でも、魔力操作が得意な私だけは調べることができる。
最後にむとーと同じ魔力パターンを記録した場所を見つけた。
それは
「帝光学園、だね」
私はお兄ちゃんの顔を見てそう呟いた。
「最後にダンジョン以外でむとーらしき人が魔法を使ったのは」
「学生なのか?あいつ」
「分かんない。でも関係者なのは間違いないだろうね?むとーの活動時間って基本的に夜が多いみたいだし、それから考えても不思議じゃないかも?」
確認はできた。
あとは動くだけ。
「そろそろ、だよね?例のイベント。あの学生をスカウトするやつ!」
「遠征イベント、か」
この世界には冒険者が在籍中の学生の力を確認するイベントがある。
スポーツと同じようなものでスカウトのようなシステムだ。
「今年は帝光学園にけってーだね」
「見つかるといいがな」
「舐めないでよ。むとーをぜったい見つけ出してやるんだから」
そのときお兄ちゃんの端末がニュースを流していた。
「速報です。黒の殲滅者がまた現れたようです。悠木塔を驚くべき速度で攻略して、去っていったようです」
今日の話を流していた。
そこに冒険者省の大臣が現れた。
こういうなんとか省だの、なんとか庁だのの大臣の中では一番知名度がある人物だろう。
「名前、なんだっけ?」
「忘れた」
私たちは覚えてないけど顔はほとんどの冒険者に知られているだろう人物である。
その人物がダラダラと長い前置きを口にしてから驚くべきことを口にした。
「諸外国の流れを受けて我が国日本でも冒険者登録のない者のダンジョン攻略を近い未来に違法行為とすることにした」
私とお兄ちゃんは目を合わせる。
「むとーが来れなくなる?」
「だろうな。ついにきたか、という感じだが」
私たちは大臣の続きの言葉を待った。
「黒の殲滅者、ここまで未登録の冒険者が有名になるとは思わなかった。そのためこれからはダンジョン入口の監視を厳しくして冒険者カードを提示できない者の取り締まりを厳しくするつもりだ」
そう言って冒険者省の大臣はカメラから消えていこうとしたが最後に立ち止まってカメラをガン見してきた。
「わわわっ、いきなりなにこいつ」
そう思っていたらひとこと
「黒の殲滅者。もし見ていたら覚えておくといい。元々罰則がないだけで冒険者登録は必須だったのだ。次お前の目撃情報があればこちらも必死で探す。そして処断する」
厳しい顔でそう言って去っていく大臣。
むかつく〜。
なにも知らないのに好き勝手言っちゃって。
それにしても
「ありゃりゃ。もう罰則付きの完全な違法行為になっちゃうんだ」
「仕方ないだろうな。六冬の陰に隠れて匿名冒険者として犯罪を犯していたものも多いだろうし」
私も規制するのが少し遅すぎたんじゃないか、と思うほどだったが。
ついに規制されるようだ。
「俺は彼をパーティメンバーに正式に迎え入れたいと思う。全冒険者の最終目標の大迷宮のためだ。そのために引き込みたい」
お兄ちゃんがそう呟いた。
「まさか、大迷宮に挑むつもり?」
私の問いに頷くお兄ちゃん。
日本にダンジョンが現れてから長い年月が経ったが、初期にできたにも関わらずにまったく攻略の進んでいないダンジョンがある。1階層の突破すらできていない超高難易度ダンジョン。
現状日本で一番難しいと言われているダンジョンだった。
それが、日本全土に張り巡らせるようにできた超巨大なダンジョン。
─────────────────────
名前 :地下の大迷宮
ランク :SSS
参加条件:パーティメンバー全員の冒険者ランクS
─────────────────────
このダンジョンは全ダンジョンの中でも特にギルドの監視が厳しく、Sランクの冒険者カードの提示がなければ絶対に入れなかった。
そしてこのダンジョンで黒の殲滅者が現れたという話も聞いたことがなかった。
それほど監視が厳しいダンジョンだった。
「今まで大迷宮に向けてパーティを調整してきたつもりだ。しかし普通の集め方ではあれに挑めるようなメンバーは集まらなかった。そこで俺は六冬くんを正式に迎え入れたいと思っている」
「なにが、なんでも探し出すってわけね」
現状頭抜けて最強の謎の冒険者と呼ばれた黒の殲滅者、いったいどういう顔をしているのだろう。
その仮面の下の素顔を見るのは私が初めてでありたい、そう思っている。
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