第7話 Sランクダンジョンをクリア
学園の授業を済ませた俺は早速いつもの裏の顔の準備をしてSランクダンジョンと呼ばれる悠木塔の入口へとやってきた。
入口には野次馬が集まっているようだった。
(あー、二階堂たちが攻略を宣言したから見に来ている、というわけか)
その事を思い出しながら俺はそのまま加速魔法レベル9の【神速】を使い誰にも気付かれることなくダンジョン内へと侵入した。
そうしてダンジョンに入って少し進んだところ。
「だ、誰かいないのかぁぁぁぁ?!!!」
モンスターに襲われている男の冒険者が目に入った。
ウルフが一人の男を囲っているようだが。
助けるつもりもないが丁度通り道なので近寄ると
「……グ……グルゥ……」
俺に気付いたウルフが背を低くして俺に威嚇してきたが。
どうやら殺されたいように見える。
「火魔法レベル8【メルト】」
俺が呟くと全てのウルフが鉄が溶けるように溶けて消えた。
まるで初めからいなかったかのように消えた。
ウルフの脅威は消えたというのに男の顔には恐怖の色が残っている。
それは別の脅威が残っている、ということだろう。
今ここには俺と男しかいない。
そこから導き出される答えは、俺を脅威として認識している、ということだろう。
「こ、これが。く、黒の殲滅者……。通り過ぎれば敵味方関係なく、すべての生命体は屍に変わる、と言われている推定SSSランク冒険者……」
そう言って俺に武器を向けてくる。
【メルト】
魔法を使うとその武器がドロっと溶けて地面に落ちる。
「あづっ!!!!!」
その武器だったものは男の足に落ちた。
「それ以上武器を向けるのであれば敵として認識する」
「ひぃぃぃ!!!許してくれぇぇぇぇぇ!!!!!」
男は泣きながら俺の来た道を走っていった。
「こ、怖ぇぇぇぇぇぇぇ!!!!なんなんだあいつ!!!だ、誰か助けてくれえ」
壁にぶつかりながらも必死に走っていく男を見て俺は加速魔法を使いどんどんと攻略していった。
この程度のダンジョンの敵程度俺の敵ではなかった。
すべての敵が俺の剣の一振で吹き飛んでいく。
やがて俺はボスフロアの前にたどり着いていた。
次はボス戦。
俺がボスフロアに続く扉の前に立ったとき二階堂が隣にいるのに気付いた。
「やっ。六冬くん」
呑気に俺に声をかけてくる。
この男はいつもこんな感じだが。
「今の俺たちは明確に競い合う敵だぞ?呑気に声をかけている場合か?」
「そうかい?俺としては君にシンパシーを感じているくらいなんだがね。知ってるだろ?他のSランクパーティは手を組んで仲良く攻略を始めたってさ。俺たちは仲間ハズレ、んでもってここに辿り着くのが遅くなっちまってね」
「……」
何も答えずにボスフロアへの扉を押し開けようと手を伸ばしたら、今度は真白が俺の袖を引っ張りながら口を開いた。
「ねぇねぇ、そろそろチャットのID教えてよ、むとー。私達ここまできて戦利品のひとつもないんだよ?」
(ダンジョン内なんだけどなんでそんな日常みたいな会話してるんだこいつら)
俺が無視して歩いていこうとすると最後に真白が後ろからしがみついてきた。
「はやくーあいでぃー」
半ば振り払うようにして真白を離すと俺は紙に文字を書いてそれを投げ渡す。
「帰ったら見ろ」
「ほ、ほんとにくれるの?!わーい!!」
喜んでいる真白の声を後ろから聞きながら俺はボスフロアへと入っていった。
目の前に広がっていたのは
─────────────────────
名前 :
レベル:70
ランク:S
─────────────────────
そんなボスモンスターと戦う50人近くの冒険者たち。
そいつらの会話が聞こえてくる。
「くっ!呼び出されるスケルトンが強すぎる!!」
俺の視界の端にゲームのように文字が浮かぶ。
スケルトンロードが【呼び出し】を使いました。
エネミーのスケルトンLv45×50が追加出現します。
スケルトンロードが【呼び出し】を使いました。
エネミーのスケルトンLv45×50が追加出現します。
出現するエネミーのスケルトンは合わせて100を超えていた。
ダンジョン内ではこんなふうに誰がなにをしたのかを視覚的に把握することが出来る。
大量に現れるスケルトンを相手にしている冒険者たちだったが。
スケルトンの王がスケルトンを呼び出す速度に討伐速度が追いついていない。
俺は近くにいた女冒険者に目をやる。
「くっ!どうすればこの窮地を!火魔法レベル6!【ファイアストーム】」
ファイアストーム。弱くは無い魔法だが単体の処理に優れているだけの魔法だ、だからそれでは処理が追いつかない。
「それじゃ、無理だな。範囲魔法を使うんだよこういうのは」
俺がそう言った時女の冒険者と目が合った。
「なっ?く、黒の殲滅者……?し、しかし範囲魔法なんて高等魔法は……」
俺の目を見てそう言ってくる女冒険者。
それに答えずに俺は呟いた。
「氷魔法レベル9」
【絶対零度】
瞬間。
迸る冷気。
このフロア内の俺が敵として認定したもの全てが凍りついた。
できあがるスケルトンの氷像は100を超えた。
それは彼らの王であるロードスケルトンですら例外ではなく。
あれだけスケルトンを呼び出して猛威を奮っていたスケルトンロードも今ではただの氷像になっていた。
それからパラパラと崩れていくその氷像。
このフロアで動くのは俺と冒険者たちだけだった。
その時視界の端に遅れて浮かび上がるメッセージ。
【未登録の冒険者がダンジョンボスの骸の王を撃破】
【ダンジョンの攻略条件を達成しました。クリア者のみが入れるクリアルームへお進みください】
【このダンジョンは初回攻略です。未登録の冒険者に初回攻略限定アイテムが送られます】
俺のアイテムポーチになにかのアイテムが直接送られたのが分かった。
そのまま俺はなにも言わずにクリアルームへと向かっていこうとしたが
「六冬。お前は自分がなにをしているのか分かっているのか?」
赤髪の女が俺に話しかけてきた。
「我々がここまで辿り着くのにかかった時間は数十時間。それを後からやってきたお前が全部かっさらうなんて」
「だから?早い者勝ち、だろ?」
これ以上の問答には意味なんてない。
俺は視線を外して前方にポッカリと開いたクリアルームの入口へと目を戻す。
「ま、待て!このままでは孤立するぞ?!」
俺を呼び止める女を無視して俺はクリアルームへと入り、転移結晶に手を触れる。
「街へ」
ここまでかかった時間は二時間。
この程度のダンジョンにしては、意外と時間がかかってしまったな。
俺の体が光に包まれるとき、かすかに真白の声が聞こえた気がした。
「その仮面の下の顔、かならず見るからね」
と。
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