第3話 表向きは予備 ※後半は他者視点
ドォォォォォォンンン!!!!!!
俺の魔法と森山の魔法がぶつかりあって起きたのは大爆発に近いものだった。
モクモクと漂う黒い煙。
その中に俺は立っていたが
「森山!なにをしている!こんな魔法を使うなんて?!完全にルール違反だぞ!」
白金の声が聞こえる。
その後に
「し、しまった。加減を間違えた。確かにこれではあいつが死んでしまう」
急に狼狽え始めた森山。
先程まで怒り狂っていたのに、俺を殺してしまう可能性に気付いて急に我に返ったらしい。
「だ、大丈夫か?!霧島くん」
白金の声が聞こえる。
返事をしようと思ったが
「ふふふ」
代わりに聞こえたのは陽菜の笑い声だった。
「ど、どうしたんだい?霧島さん?すまない。本当はここまでするつもりじゃなかったんだ。ちょっと懲らしめようと思っただけで。頭に血が上ってしまって……」
「懲らしめる?誰をですか?ふふふ」
「すまない……本当にすまない。殺してしまったかもしれない……。自分の中の怒りを抑えられなかった」
「殺す?誰をですか?まさか、この程度の魔法で私のお兄様を殺れる、とでも?冗談がうまいですね」
ふふふ、笑った後に陽菜は呟く。
「ねぇ?お兄様」
そのまま陽菜は俺に声をかけてくる。
「お兄様が実戦で誰かに負けるなんて、天地がひっくり返ってもありえませんわよね?」
陽菜が魔法【ウィンド】を使う。
その魔法により立ち込めていた黒い煙はスゥッと流されて消えていき。
「なっ……馬鹿な……」
「あ、あの魔法を受けて無傷だって?それよりも汚れの一つもついてない……?」
俺の目には大きく口を開けている森山と白金の姿が映る。
その俺を見た森山が後ずさっていく。
「こ、こんなの、ありえない……。今のは人を殺せる威力の魔法。どうしてそんな魔法を受けてエクストラが立ってられるんだ……」
「そ、そうだ。な、なぜ無傷で立ってられるんだ」
森山に続く白金。
俺はそんな彼らに答えることもなく陽菜の方へ戻っていく。
そこで気付いたが
「そういえば勝敗条件聞いてなかったけど、お前が立っていられなかったら、俺の勝ちでいいよな?」
一瞬で森山に近寄り首にトンと手刀を入れてやった。
何度もやってきた
だから確実に意識を落とせる場所は知っている。
「が、はっ」
「悪いな。寝てもらうよ」
倒れる森山を見て俺は白金に目をやる。
呆然としていた目も一瞬。
すぐにハッと我に帰る。
「き、君の勝ちを、たしかに見届けた」
俺はその言葉に頷き陽菜を連れてこの部屋を離れようとしたのだが
「な、何者なんだ君は一体」
「ただの、【エクストラ】だよ」
白金の言葉に答える。
「ば、馬鹿な!これだけの戦闘能力があって予備生など有り得ない!嘘をつかないでくれ!」
「いえ、そちらの人は本当に予備生ですよ」
白金の質問に答えたのは俺でも陽菜でもなく、別の人物。
先程までここにはいなかった別の女の人だった。
「柊会長?」
その女の人は白金に柊と呼ばれた。
見覚えがある、この学園の生徒会長だ。
「それよりも説明してもらおうかしら」
その柊が俺に視線を向ける。
「なぜ森山君が倒れていて予備生のあなたが立っているのかを」
その視線はとても信じられないものを見るようなものだった。
そんな彼女に白金がこれまでの経緯を説明する。
「なるほどね。事情は理解したわ。でもこれどうすればいいのかしら」
柊が首を傾げてから俺を見た。
「霧島君、自分のしたこと分かってる?」
「なにか、まずいことしたかな?」
倒せる敵を倒した。
俺にとってはそれだけの事に過ぎないんだがな。
呆れたように溜息をつく柊。
「予備生と本科生の間には埋められない差がある。普通は勝てない戦いに君は勝ってしまったのよ。そんな君が予備生なんてことが広まれば色々なところに影響が出る。単刀直入に言うと、ここでの事は無かったことにして欲しい」
「いいよ」
俺がそう言うと柊が口を大きく開けた。
「え?誇らしくないの?この事が。普通は本科生を倒したなんて、言いふらしたくなると思うけど」
「どうでもいい。別にアリを踏みつぶしても嬉しくなんてないさ。それと同じこと」
そう言うと柊が俺を見る目は変わった。
なんと言うか不思議なものを見る目から恐ろしいものを見るような目に変わった。
「き、霧島くん、あなたは本当に何者なの?」
俺は答えずに
「では。また」
その場を去ることにした。
別にエクストラ以外の何物でもない。
表向きは
◇
side 柊
「会長」
「どうしたの?白金さん」
「会長には霧島君の行った手刀が見えた?」
「速すぎて細かくは」
そうか。と白金は呟いて、彼女は自分の見たもの口にする。
「見間違いであって欲しいと思ったんだけど、あれは二階堂さんの手刀にかなり似ていた」
「Sランクパーティの二階堂さんのことじゃないよね?別の人、よね?」
縋るような柊の声は無惨にも否定される。
「その二階堂さんだ。あの人も人間を相手にする時はあぁやって手刀を使うんだ」
「ぐ、偶然じゃないの?白金さんが言ってるのはつまり、霧島君がSランクパーティと繋がりがあるってことだよね。言ってる意味……分かってるの?」
一般的な学生がSランクパーティと繋がれることなんて皆無に等しい。
それこそ親戚が偶然Sランクパーティだった、とかでもないと無理な話。
それでも白金副会長は全て承知の上だ、と答えて頷いた。
「繋がりがあると思って間違いないと思う。なくてもあの兄妹、特にお兄さんの方は、なにかあると思う」
「なにかって?」
「それは分からないけど」
2人は話し合っているが自分たちの疑問は何一つ解決しなかった。
「そもそも霧島君はどうして予備生なの?あれだけの能力があれば本科生にはなれるはずよ」
「私も分からないよ会長。森山はあれでも今年の新入生最強クラスなのに」
そこで柊会長は思いついたように今年の新入生のデータを携帯端末で閲覧する。
普通は生徒の身では見れないものだが、彼女は生徒会長として特別に閲覧を許されている。
「あった、霧島君のデータ。入学テストの時のデータよ」
─────────────────────
【能力値測定結果】
名前 :霧島 瀬奈
体力 :E
魔力 :E
素早さ:E
ユニークスキル:装備の性能値+1
【検査官備考欄】
初級魔法のファイアボールすら使えていない。
今年の受験生、歴代でも一番能力のない受験者だった。
真剣な実技試験中でも他の受験者に笑われるほどの無能。
所持しているユニークスキルもまったく使えない。
過去に見たことのないほど最弱のスキル。
【合否判定】
この者の入学判定は規定により
───────不合格
とする。
─────────────────────
「ふ、不合格……??ど、どういうこと?」
柊は自分の全身の身の毛が立つほどの恐怖を感じた。
あれだけの力を持っていながら、なぜ不合格?
下手なホラーよりよっぽど恐怖だったのだ。
「会長。まだ備考欄がある」
白金にそう言われ柊は更に下に目を送る。
─────────────────────
【学園長備考欄】
妹は能力値測定を全てS判定で突破し今年の新入生代表に選ばれた。
なにより筆記試験の結果はよかった。なにか使い道があるかもしれない。
縁故入学枠として予備生クラスに特別に、入学を許可する。
─────────────────────
「な、なにこれ」
「なんなのだ、これは……」
二人の話し合いも虚しく何一つ得られたものはなかった。
少なくとも分かったことがあるとすれば、霧島瀬奈という男が入学できたのは自分の実力以外の要素があった、ということだった。
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