第33話 魔法少女と悪魔と殺人鬼マンハンター



「なんであんな立派な門が電動じゃなくて、手動で持ち上げなきゃ開けられないの? しかもめちゃくちゃ重いし」


「H×Hを見た影響だろう。当時、無料で読めたらしい」


「なにそれ……」


 私とベリアルが城に辿り着いて、最初にしたのは門を開けること。門を飛び越えても良かったけど一応、誰かが居たときの退路にしようと思った。思って開けようとしたら手動で持ち上げるタイプ。なんじゃこりゃって話。

 普通に考えて、こんな大きな門を持ち上げられるわけがない。というかそんな構造にしない。だって誰も出れないし入れない。

 魔法少女でよかったPart1。


「罠だ罠。なんとか辿り着いた人間に絶望を味合わせるためのな。無意味だったが」


「ふうん、趣味悪。それでこのトロールも?」


「まあ罠だな。あの門をなんとか抜けてきた人間をこれで殺す」


「なるほど。やっぱり趣味が悪い。殺意マシマシすぎる」


 魔法少女でよかったPart2。頭を破壊されて動かなくなったトロールから視線を城の方へ向ける。

 大きな城。この城のどこかにいる殺人鬼を倒せばいいんだよね。中庭を歩きながらベリアルに訊く。


「その殺人鬼マンハンターって、別に強くないんだよな」


「うむ。大した相手ではない。殴れば終わる。能力としてトロールの使役はあるが、本体はただの老いた男。杖どころか車椅子がないと動けない。武装はショットガン程度。余裕だ」


「んじゃあ……」


 城をぶっ壊して、燻り出そう。


「だが城を闇雲に破壊するのはやめたほうがいい」


「どうして?」


「言っていなかったがそろそろ契約ゲージが限界だ」


 ベリアルが差し出してきた端末の画面には、『簡易契約ステータス』とある。真っ赤な契約ゲージの八割が使用済みになってる。


「これ使い切ると変身できなくなる的な?」


「うむ」


「そんなに変身してから時間経ってないと思うけど」


「簡易契約だからな。そういうものだ。変身解除すると強制解約だし、しばらく契約も結べん」


「これってどうしたら減るの?」


「行動時間と行動回数だ。そのため、明確な数字は出せん」


 そんな曖昧な。という私の表情を察したのかしょぼんとした顔で言い訳めいたことを言う。


「俺の考えたシステムではないからな。申し訳ないがそういうことだ」


 しょうがないなぁ……。どうにかできるならどうにかしてるだろうし。


「ちなみに本契約なら?」


「ほぼ無制限で変身できる。変身者が力尽きない限りな。契約の重複ができないからこその簡易契約だ。抜け道みたいなものだから勘弁してほしい。悪魔は契約を蔑ろにできない。命よりも尊んでいる」


「そっか。じゃあ、仕方ないし中、入ってみようか。……正面玄関からでいい?」


「いや、裏口がある。そっちから行こう」


「流石♪」


 と、言いたいところだけど。


「向こうが我慢しきれなかったみたいだね」


 どかんと盛大な音をたてて、正面玄関のドアが弾け飛んだ。真っ直ぐに向かってくる両開きの片方を拳で払う。

 屋敷の中から重厚な足音と共に現れたのは──。


「……車椅子のおじいちゃん、じゃなかったっけ」


「……ここに俺たちが居ること自体がイレギュラーだ。こういうこともある」


「まあそういうことにしてあげる」


 ──シルクハットをかぶった老人の頭が生えたトロール。ただし、両手には無数の銃口が束ねられた変わった形のショットガンみたいなもの。あ、あれフルオートマチックのやつだ。珍しい。

 体には、大量の大きな弾倉を巻きつけている。これはなにかで見たことあるな。映画かな、多分。あれはショットガンの予備だろうね。


「それで、どうすれば?」


「……倒すしかあるまい。向こうも」


 がしゃりと笑う老人──マンハンターが私たちに銃口を向け、


「逃がす気はないらしい」


 引き金が弾かれた。


「させない!」


 のを見るやいなや、私は駆け出す。そもそも変身の制限時間だってない。だったらやることは一つ。


「速攻でぶち抜いてやる!!」


 弾丸みたいにまっすぐ、一直線に態勢を低くしてマンハンターの懐に踏み込んで、衝撃が私の全身に叩きつけられた。


「ココ!!」


 焦ったベリアルの声が遠くから聞こえる。耳がキーンとする。何? 何が起こった? 飛び込んだのに逆に吹き飛ばされてるのは分かった。ただ、どうやって私は吹き飛ばされた? 

 なんとか着地して、原因であろうマンハンターの方を見て、理解した。


「なる、ほど……!」


 マンハンターの巨体であるトロ―ルの体、腹の辺りを引き裂くように中から新たな銃口が姿を現していた。

 銃口、銃口というには、あまりに生々しい何か。戦車の砲身のような見た目のそれは脈動していて、太い血管のようなものが走っている。それがトロールの体がから突き出ていた。

 マンハンターはそれを突き出し、おぞましい笑みを浮かべている。


「なによ、あれ」


 痛いけど耐えられた。お腹の辺りにこびりついてる白濁した液体は、粘つくし臭い。なにこれ? それよりもあれのことを理解しないと。なんだか見覚えがあるような気がしないでも……ああ、いやそんな誤魔化しても無駄だよね。答えは分かってる。でも口にしたくないだけ。


「男根だな」


 …………。


「ごめん。もう一回言ってもらえる?」


「む? 分かりにくかったか? もう一度言うぞ。男根、陰茎、男性器、つまりおちんちん」


 何度も言わなくていいんだよな。まったくもう……。溜息が出る。


「……うん、分かった。ありがとう。完全に理解した」


「うむ、役立ててよかった」


 あー画像で見たよりずっと大きいね。嫌になる。マンハンターのそれ……砲台が膨らんできた。棒の部分から先の方へと膨らみが移動していく。


「次弾、来るぞ!!」


「分かってるよ」


 直後、ショットガンの弾丸の嵐と粘つく砲弾が襲いかかってきた!!


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