第8話 魔法少女と悪魔と七不思議
七不思議の一つに、『夜の体育館で何かが試合をしている。その試合を目撃してしまうとプレイヤーかあるいは観客になってしまい、次の誰かが来ないとそこから出ることができない』というのがある。
緑の部屋と違ってどうなるかがはっきりしてていいと思う。いや、そんなことよりも。
「他の七不思議、ただの噂じゃなかったけ。ベリアル」
「偽物だった、だな。どうやら倒したはずの緑の部屋とこの七不思議が結びついたらしい。執念だな」
「執念? そういうのって魔物にあるの?」
「いや、魔物にはない。あくまで魔物は、人間に寄生する生命体。人間の精神活動の影響も受け続ける」
人型バージョンの頭を蹴って壊した私は、回し蹴りともういっちょ蹴りを入れて吹っ飛ばす。
この衣装を身に纏った私は、まるでアニメや漫画のキャラクターみたいに動ける。
前に読んだ格闘マンガのように、週刊漫画の主人公のように、日曜朝の少女たちのように。
ありえないくらい強く。ありえないくらい勇気が湧いてくる。
だから私は立ち向かえるんだ。
「誰かの執念が結びつけた……? 誰の?」
「誰かのだ。そこに特定の個人はない」
……? よく分からない。
「七不思議などの『物語』を起点にした魔物は、不特定多数の精神活動の影響を継ぎ接ぎしてる。故に、根本がブレやすく形を変えやすい」
ベリアルの言葉に耳を傾けながら右拳を叩きつければまとめて吹き飛ぶ。
フィールドの人型バージョンは殴り倒したのを見るなり、観客席から代わりが飛び込んでくる。
これじゃあ乱闘だ。
「そんなもの倒してしまった結果、欠けた部分を補完するために他の七不思議を取り込んだ。というところだろう」
「ちなみに原作にはあるの?」
「無い」
「そっかぁ……」
「緑の部屋で死ぬほど追いかけられた君は、偶然入り込んだ他の生徒と入れ替わりに部屋を脱出してなんとか生き残る。というのが原作の筋書きだ」
ひっどい話が出てきた。他の生徒、か。
「それはやだなあ……」
「うむ。俺も推しにいかがわしい目には会って欲しく………ない。決して。ほんとに」
変な間やめてよ。寄ってきたよくわからないもの人型バージョンの顔をぼこんと殴る吹っ飛ぶ。
「ココもいるし、それはやだな」
「では倒すしか無いな、ミハ」
「うん。やるよ、ベリアル」
しかし、どれだけ倒せばいいんだろ。人型バージョンは、次々と観客席から飛び降りてきて、私たちの方に迫ってくる。どこにこんなに隠れてたの?
「やっぱり前と同じで元の魔物を倒さないとだめ?」
「恐らく」
「……どれか分かる?」
同じ顔しか居なくてなんの見分けもつかな……あれ。
「……バスケットボール」
襲ってくる人型バージョン後ろの方で、ドリブルしている個体がいる。ドリブルされているのは、私たちをここに連れてきたバスケットボール。
……怪しい。
視界を遮ろうとする人型バージョンの頭を叩いてどける。どうやって距離を詰めよう。逃げられるのも困るし、パスを回されても困る。数が多いから紛れられると見つけるのも面倒くさそう。
「? あれ……」
などと考えるとシュートを構えていた。スリーポイントだっけ。それくらいの距離だと思う。
すぐに柔らかく足を曲げて、軽やかなシュートを放つ。しゅるしゅると回転しながらゴールへ向かっていって──あっ……バスケットボールは、ゴールリングに当たって弾かれた。それを見た人型バージョンは、表情が無くても分かるくらい残念そうに肩を落とした。なんであんなに落ち込んでるんだろ……。
「へっ?」
そして、弾かれたバスケットボールは、くるくると回転しながらココの両手に収まった。
「あっ」
「ナイスキャッチだ。ココ」
「あ、うん。ありがとう」
「それでどうするの? これ」
とココが私を見てくる。ていうかベリアルいつの間にか呼び捨てしてるじゃん。
「ミハ。それだ」
「ベリアルもそう思う?」
「うむ」
「え? 何? 何?」
「多分それがこの緑の部屋を作ってるってこと」
要約するとそういうことになる。ココが持ったからか人型バージョンの動きが止まった。手をこまねいているっていうか近寄って来なくなった。じりじりと後ろに下がって、一定の距離を保っている。
「反応からして予測は間違ってないと思う」
「それで、どうするの? 潰してみる?」
手慰みに、ボールを両手の間で投げ合う。壊すのは簡単だけど。
「どう思う?」
「……壊さないほうがいいかもしれんな。あれを見ろ、ミハ」
「……?」
いつの間にか人型バージョンが私たちの周りから離れていっていた。ほとんどが観客席に戻っていって、残ったのは、5人。もしかして、これって。
「試合しろってこと?」
「恐らく。どうする? 従わず、ココの言う通りボールを潰すのも試してみる価値はある」
「潰すと試合はできないし、潰す前に試合したほうがいいと思う」
ココの言う通り。
「……試合する? 人数足りないけど」
「じゃあ、はいパス」
「おっとっと……」
軽く投げられてきたバスケットボールを受けとめる。ボール自体触るのは初めて。結構硬い。ダンダンとドリブルする。
「意外にいけるかも……?」
「おーすごい」
黒子読んでてよかった。思い出しながら適当にボールをダンダンとついたり、股を通したり、なんかこううろ覚えの記憶を引き出してやってみる。
「流石だ……俺の推し……バスケのシーンはなかったからな。レアだ」
「勝手に写真撮らないでよ」
「撮っていいか?」
「…………いいよ」
大きな溜め息が古めかしいチェキのシャッター音に掻き消された。あの小さい手でどうやってシャッター押してるんだろ。
「まあ、試合しよっか。応援お願いね、ココ」
「ええ、頑張って。ミハ」
互いに手を振りあい、私はバスケットコートに足を踏み入れる。既に、人型バージョンの視線?(目はないけどなんとなく見てるなってなる)が私に集中してる。
でもそれよりもそんなことよりも私は、久々に普通の会話できて、私なんだか泣きそうになってきた。
「友だちがいるって最高だな〜」
つい、感慨深げな言葉が出る。中学の頃を思い出した。あの頃は普通に友だちがいて、だべったり遊んだり、たまーにちょっと喧嘩したり、恋バナしたりしていた。
懐かしい日々。もう戻れなくて、もう届かない。
思い出の場所も、物も、人も皆無くなってしまった。
「うんうん……」
私の事情を知っているからかベリアルが頷きながら泣き出した。ちょっと勘弁して欲しい。
「ベリアルー。気持ちは嬉しいけど泣かないでよ」
「ああ、すまない。感極まって……」
本当に、もう。
「それじゃあ始めよっか、試合」
宣言して、ドリブルする。うん、いける。漫画知識で勝つよ、私。
「後悔させてあげる」
ボールを求めて手を伸ばしてくる人型バージョンに、笑ってみせた。
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