第6話 魔法少女と悪魔と緑の部屋Part2
「ベリアル、これ……!?」
「……おかしいな」
「私、ちゃんと倒したんだよね?」
「倒したなあ……。おかしいな……。ちょっと原作読んでくる」
「そんな暇ないよね!?」
「む……。じゃあちらっとwikiを……」
「wikiあるの!?」
「うむ。もちろんだ。天使のやつらが管理している。やや潔癖症でなあ……。冗談が通じん。悪魔には大百科のほうが人気だ」
「そ、そう……」
大百科? ベリアルの言うことはいつもちょくちょくよく分からない。だいたいベリアルの中で完結してるし、特に私も追求しようと思わない。分からないことが紐付いてやってくるだけだもの。
「……私たち、倒せてなかったってことでいい?」
「……そうなるな」
苦虫を噛み潰したような声のベリアルが周囲を見回す。
緑。一面緑。さっきまで青く晴れ渡っていた空も緑。輝いていた太陽も暗い緑色。屋上もやっぱり緑。涼しい風はどこにやらと生温い風が吹いている。
ああ、どう見ても緑の部屋。私は、またここに戻ってきてしまった。
「またあのよくわからないものを倒せばいいのかな」
「おそらく、多分、きっと……そうなるといいよな」
「倒してこうなってるんだもんねえ……」
なんとなく校舎を見下ろしてみる。この学校は、南北に3階建ての校舎が2つあって、そこを繋ぐ渡り廊下が4つ、校舎の両端にある。その下には中庭がある。昼休みだからベンチでお昼食べたり、軽い運動をしてる生徒が居たりするんだけど……。
「まあいないね」
今の所、一面緑色の中に動くものはない。そうなると教室とかの方かな。
「ね、ベリアル。校舎の中を回ってみる?」
「そうだな。そうするか」
やることが決まった。さっさと倒してお昼寝したい。
「──今の聞こえた?」
きょろきょろと見回してみる。向かいの校舎だった気がする。
「ふむ。銃声だな」
「銃声?」
それってつまり……。
「誰か居るって、こと?」
え、どうしたらいいの? 助ける? でも銃を持ってるんだよね? 銃? どういうこと?
「どうする?」
「え、えーー……」
見捨てるのも、ねえ……。少しの間、考え込んで。
「ベリアル、どの辺りか分かる?」
「うむ」
ということで変身した私は、フェンスを突き破り、向かいの校舎の屋上まで走り幅跳び。誰かに覆いかぶさったよくわからないもの人型バージョンを殴り倒した──ところで、私を知ってる私が知らない人に出会った。
初対面ならよかったのに……うーん……。
「黒霧さん? その、格好って……?」
「へ? あっ、あはははは……」
(どうしよう……)
落ち着いて相手を観察しよう。服が破かれていても分かる。間違いなくうちのセーラー服。制服の胸元に垂れているタイの色は学年で変わる。赤が1年、紺が2年、白が3年。かろうじて引っかかってるタイは赤い。私と同じ一年だ。
同じ学年、クラスは……どうだろう……。思い出せ私。だめ……クラスメイトの顔あやふやだ。
入学して少し経ってから転入した口なのでクラスでも浮いてるし、何故か既に私への噂広まってるし。馴染むもなにも余所余所しいクラスメイト。すごく気を使ってくる教師。ほんと面倒くさい。
……愚痴がメインになってしまった。
(ベリアル。分かる?)
(うむ)
(やっぱり……。そうだよね……)
……………分かるの?
(分かるぞ。お前の斜め前の席だ)
想定よりめちゃくちゃ近い。ちなみに私の席が窓際の一番隅。
(……ちなみに)
(名前は、白銀ココ。黒髪を首筋で切り揃えたボブカットの下を刈り上げている。猫のような淡い紫の瞳に、白い肌。身長166センチ、体重60キロ。バストサイズB──)
(いや、そこまで言わなくていいし、キモいよ流石に)
(くぅん……)
全然可愛くない。
「こ、こほん……」
めちゃくちゃわざとらしい咳をして。
「ええっとこれには色々あるんだけど説明すると長くなるし、今は省略するね?」
(すごいゴリ押しだな)
(うるさい)
「それよりもほら、大丈夫? 襲われてたみたいだし。制服も破かれてるし」
「え、ええ。大丈夫。ちょっと押さえられてたところが痛いけれど大丈夫」
「そっか。よかった……」
しかし、痛々しい様子だ。制服を半分引き裂かれてる。何か羽織れるものとか……。
(これを使え)
(お、ありがと)
ベリアルがどこからともなく取り出した私の着物と同じ白地で紫の花柄の布を白銀ココに渡した。
「ありがとう。助かる」
それからちらりとよくわからないもの人型バージョンを見る。頭を失ったそれは、徐々に細かく分解されてどこかに消えていこうとしていた。前に倒した馬みたいなのと同じ。でもあの時は部屋も一緒に消えていった。
(これは主ではないな)
(みたいだね。他の教室見てみようか)
(その子はどうする?)
(……置いていくのもちょっとね)
私の渡した布を肩から羽織って不安げに周囲を見回す白銀ココを置いていくのは、流石に良心が咎める。
「私、この状況をどうにかしに行くんだけど君、どうする? ここで待ってる? それとも私と来る?」
一瞬、迷うような素振りをしてみせて。
「……私も連れて行って」
「うん。分かった。離れず付いてきてね──えっと……」
「白銀ココ。クラスメイトなんだから覚えててよ。黒霧さん」
弱々しく笑う白銀ココが手を差し出してくる。つい苦笑いがこぼしながら手を取った。柔らかな握手が返ってくる。指が少し硬い気がする。スポーツでもやってるのかな。
「はは、だったらなおさら私が覚えてないのも分かるでしょ……。まあありがとう。よろしく、白銀さん」
「それはそっか……。あとココでいい。クラスメイトでしょう?」
「じゃあ、私もミハでいいよ。ほら? 私だってクラスメイトだし」
「ふふ、分かった。よろしくね、ミハ」
「こちらこそ、ココ」
自己紹介完了。うん、そつなくできた。別に人見知りをするわけじゃないけど、入学してしばらくまともな会話も自己紹介もやってなかったからちょっと不安だった。
「じゃ、行こうか」
屋上のドアを引く。鍵は空いてる。ココがいるんだから当たり前か。でもなんでこんなところに?
「うん。……それで、その服ってなに?」
そこは誤魔化せなかったかぁ……。
(ベリアル、どうしよう)
(ある程度正直に話そう。原作云々は抜きだ)
(それでも頭おかしくなったって思われるよ……)
せっかく友達ができそうなのにそれは困る。頭のおかしい友達を許容してくれる人ってあんまりいない。
(大丈夫だ。問題ない)
……この感じ、そういうことだ。やけに詳しいと思ったよ。
(この人も、その、原作的に何かあるってこと?)
(ククク……)
むっ、笑って誤魔化した。ああ、もう……。大きくため息を吐いた私は、言う。
「えっと……長くなるしおかしな話だよ?」
「もう既におかしなことになってるからいいよ」
それもそっか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます