第3話 いろいろプレゼント

「じゃ、君の家、ここね」


俺はそう言ってメイルと名乗った冒険者に家の場所を教えた。


「これからここを使って欲しい」


「は、はい!」


「じゃあ、これ軍資金ということで」


俺は20万ジュエル渡した。


「え?!こ、こんなにくれるんですか?!」


「うん」


原作では俺の最初で最後の弟子となる子だから俺からも自腹を切って多めに出してあげた。


ギルドからの5万、俺の自腹からの15万だ。

ちなみに俺の貯金を切り崩した。


ちくしょぉ!

モブだから安いんだよ俺の給料!


「あ、ありがとうございます!」


「気にしないで。全部ギルドからのお金だから」


もし俺がこれから毎日貧乏飯になることを知れば遠慮するかもしれないからそう答えておく。


それから適当に彼女に村のことについて説明した。


「なるほど!分かりました!」


「ちなみに冒険者生活は初めて?」


「は、はい!」


俺は頷くと訓練所の方を指さした。


「俺あそこで教官やってるんだよ。もし何か聞きたいことあったら来て。色々説明するよ」


「は、はい!今から行きます!」


ルンルンとついてくるメイルを案内して訓練所まできた。


「村の人みんないい人そうで良かったです!特にシードさんは凄くいい人そうです!」


「ははっ。おだてたってこれ以上何も出てこないよ?」


もうこれ以上は何も出せない。

本当だ。


そんなことを思いながら俺は彼女に色々と教えていくが、首を捻るばかりだった。


「じゃ、とりあえず現地行ってみようか。ここからだと雪山が1番近いからそこだね」


「は、はい!」


俺はストーカーのようにメイルに同行しながら彼女が学んでくれるのを見届ける。


武器はここに来た時に持っていた片手で持てる短刀を使うらしい。


「ほら、あそこにのそのそ歩いてるボアがいるよね?」


俺はそうやって彼女に指差しであのモンスターがボアだということを教え込む。


「な、なるほど!あれがボアなのですね」


「うん。とりあえず倒してみようか」


「はい!」


タッタッタッと走っていって


「えい!」


ザクっと殴るメイルだったけど


「ブモッ?!」


ボアはメイルの方に向いて後ろ足で地面を何度か蹴る。


「た、倒れませんよ?!」


「真っ直ぐ突進してくるから避けるんだ」


「はい!」


彼女が地面を蹴って横に飛ぶのとボアが突進を始めたのは同じだった。

ボアの突進は空振りに終わる。


「追撃するんだ」


「は、はい!」


ザクっ!ザクっ!とメイルが攻撃するとボアは倒れた。


「やった!倒せました!」


「よくやったよ。これが狩だよ」


言って俺はメイルの近くに走っていって、ナイフをボアに突き刺す。


「し、死体を切り刻むんですか?!」


「うん。モンスターを倒したらこうやって剥ぎ取り、っていう行為をするんだよ」


やってみて、とナイフを渡すと剥ぎ取りを始めるメイル。


「な、なんか取れましたよ!」


「それが素材って言うやつなんだ」


彼女が手に持っていたのは


ボアの毛皮


というアイテムだった。

個数は1つ。


「これは何に使う素材なのですか?」


「基本的には防具だね」


そう答えながら俺は次に採取について教える。


「こっちにきて」


「は、はい!」


俺はミツバチが巣を作っているところまでメイルを案内すると


「この下から液体が流れてるよね?これがはちみつだよ」


言って瓶でその垂れ流れるはちみつを回収していく。


「へー。こうやってはちみつって取るんですね」


メイルにやらせるとはちみつを採取する。


「じゃ、次は薬草とかだね」


そう言いながら今度は薬草が取れる場所に移動するとしゃがみこんでガサゴソ採取を始める。


その間にそうしながらアイテムをこっそり置いておく。

賢者の秘薬というSランクのアイテムだ。


飲めば魔力、体力、スタミナ、その他状態異常などを全て治すことが出来るアイテム。


「やってみて」


「はい!あ、あれ?なんか変な玉が落ちてるんですけど」


「それは賢者の秘薬ってアイテムだよ。誰か落としたんじゃないかな?貰っていいよ」


「そ、そうなんですか?」


「うん。どうせ誰が落としたか分からないし置いててもモンスターに食べられるだけだからさ」


「は、はい!」


アイテムポーチにしまうメイルを見届けて。


「よし!これで訓練終了だよ!」


そう言って俺はメイルを村まで連れ帰った。

ゲームではこれでチュートリアルが終わりだ。


この後俺には一切の出番がない。



そのことを悲しみつつも俺はメイルの成長を祈る。


「次は何を教えてくれるんですか?!」


村に帰ってきて開口一番聞いてくるメイルに答える。


「君に教えるのはこれで終わりだよ」


「え?」


目をまん丸にして固まってしまうメイル。


「も、もう何も教えてくれないのですか?」


「うん。俺から教えられるのはこれで終わりだから」


残念ながらここはそういう世界なんだ。

後はメイルが活躍していくだけの世界。


それで終わりなんだ。

俺は主人公じゃない。


最初にちょっと出番があるだけの教官というモブなのだ。

俺はメイルを村長の下まで連れていく。


「村長。後はよろしくお願いします」


「はいよ。この子が新しく来てくれた子だね?」


村長と挨拶するメイルを軽く見て俺はその場を離れることにした。


後は村長が勝手に説明してくれるだろう。


「さて、」


これから俺はクソ暇な時間を過ごすことになる。

何もせず給料を貰う給料泥棒になる訳だが。


「それもつまらんよな」


他になにかやれる事があるといいんだが、とか思う。


「貯金、まだあるかな?」


俺はそう思って残高を確認するが、もう少しあった。


「それにしても新人の冒険者に貢いで、って。俺アイドルに貢ぐオタクみたいだな」


とか思いながら俺は少しお金を引き出す。

これはメイルに使う訳では無い。俺自身に使う。


「犬飼お」

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