第3話「優しさは理解できる」

 愛海李寝てて良かったよ。止めだ止め!

 俺も寝てしまおう。テレビを消し、テーブルに突っ伏した。


 ――身体が痛いっ。目が覚めると、一瞬どこだか分からなかった。


「……んん。あ、あれ?」

「お、起きた。酒弱いなら飲まない方がいいぞ」

「ふぁ〜はふ。大丈夫。間違いは他で起きてないから」


「覚えてないとかは?」

「……今のところなんともない。不安にさせないで」


 愛海李は、数回瞬きをしてから答える。

 考えるそぶりしたのがショック……。

 チョメチョメはしたということになるのかな。


「す、すまん」

「許す。引っ越し祝いだから」

「サンキュ」グゥ……!


 腹の虫でかい! 昼に肉じゃがしか食ってないな、そういえば。


「壮大な主張っ」

「昼からなにも食ってない」

「あ、そっか。でも、テーブルに皿ないよね」


 寝っ転がったままテーブルを覗く愛海李。

 俺が片づけ以外にないでしょ。


「冷蔵庫に入れておいた」

「これはこれは、申し訳ない」


 立ち上がる愛海李。ふわりと優しい香りを連れてキッチンへ向かう。


「勝手に冷蔵庫開けてごめんな」

「いやいや、居候するんだから開けるのは普通でしょ。夕飯作るから待ってて」

「いや、昼間のつまみも十分おかずになるから温めて食おうぜ」


「いいの?」

「ご飯と食べてみたい」

「わ、分かったっ。味噌汁は作らせて」


 有無を言わさず調理スタート。

 ちゃちゃっと手際よく作り手招きしてきた。

 味見をしてくれということだろう。

 小皿を受け取り、レンジに昼のつまみをぶっこむ。


「やっぱり美味い。前こんなに美味かったっけ?」

「一人暮らししてる間に上達したのかも」

「なるほど。後でレシピ教えてくれ」

「いいよ」


 楽しい夕飯はあっという間に終了。

 二人でテレビを見てしばらくして風呂の流れ。

 家の主から入れと言って先に入ってもらっている。


 ヤバい、春クールドラマ恋愛多くてワロタ。

 好きとまではいかないけど、一つ屋根の下で二人というのが意識せざるを得ない要因。

 目をつむる。落ち着けば少しは気を紛らわすことができるだろう。


 ――揺れている。世界が揺れている。

 ここは冷静にいこう。地震にしてはゆっくりすぎる。


「……きて。宏……」


 おや、この声は愛海李。あ、俺寝てたのか。


「……」


 変な体勢で寝てしまったようで首が痛い。

 目を開けて愛海李を見る。

 髪をバスタオルでゴシゴシしていた。


「お風呂空いたよ」

「はいよ。シャンプーとか借りる」

「返してくれるの? ワンプッシュ分?」

「いや、つめかえ買うよ」

「これから一緒に住むんだから一緒に使お?」

「……忘れてた」


 頭を掻く。愛海李が笑っている。

 身体が熱くなるのを感じて風呂場へ急いだ。


「えっ! ……」


 脱衣所の扉を開けて思わず声を出してしまった。

 ブラが洗濯カゴから主張しているのだ。

 下着が一番上って! いくら幼なじみと言ったって俺男なんだけど。


 ショックだわ……。

 風呂につかり、リビングに戻ったら今度は布団どうしよう問題が発生した。


「どうする? あたしソファでも平気だけど」

「いや、居候の身なんだから俺がソファで寝るよ」

「今度布団買いに行こうか」


「そうだな」

「明日行こう。今度だと罪悪感で寝られなそう」


 とか言って、速攻で寝るって。

 人間睡魔には勝てない。


「分かった」

「あたしこのあとゲームやるけど、宏和はどうする?」


「寝ようかな」

「なんかかけて寝てね。風邪引くから」

「サンキュ」


 バスタオルを持ってきてソファに寝ころぶ。


「え、待って。新しいアイテム?」

「……」


「ヤバくない?! こんなのチートじゃん」

「ーだぁー!」

「……」


 ヘッドフォンつけてるしっ。ここネット環境整ってるのか。


「なんかさっき叫んでなかった?」


 終わるの早っ。どんなゲームよ。

 せめて三十分はやっててもおかしくないと思う。


「叫んだっていうか、声が大きかったから近所迷惑にならないかなって」

「あ〜、大丈夫。ここ防音だから」


 オブラートに包んで注意したことを後悔。

 防音だからって大きな声出していいわけじゃないと思う。

 再び横になり、俺は無理やりまどろみの中へダイブした。


 ――ドゴッ。翌日。

 愛海李と揉めて誰かと付き合い結婚しそうなところでソファから落っこちた。

 痛い……。


「え、大丈夫!?」

「いててて。なんとか平気」

「嫌な夢でも見た? うなされてたけど」

「なかなかに嫌な夢だった」

「聞かない方が良い?」

「できれば」


 立ち上がり愛海李を見ると、白米をよそっていた。

 覚醒していき、焼き魚の臭いが鼻を刺激してくる。

 あと海苔とシャケに味噌汁。幸せすぎじゃない?


「今日は、布団買いに行くじゃん? どこにする?」

「もちろんむらしま」

「この近くにあるのか?」

「近くにはないかな。あたし達の地元戻らないと」


 スマホをチェックしながらシャケを食べる。

 今どきの子だな。俺も今どきの子だけど、愛海李と違って一つのことしかできない。


「範囲を広げたらあるか?」

「だいぶ遠いよ?」

「どのくらいかかる?」

「ん〜、一時間くらい」

「そこにしよう」


 一人で行くならまだしも二人で行くなら一時間くらいすぐだろう。


「宏和がいいなら」

「オッケーオッケー」

「味噌汁の濃さどう?」

「丁度いい」

「良かった……。宏和のお母さんからリサーチしといたの」


 余計なことを……。

 ここまできてお袋の味とか勘弁してほしい。

 愛海李の優しさは理解できる。


「次は、愛海李の味知りたい」

「わ、分かった。夜作るよ」


 人の家の味噌汁なんてそうそう飲めない。

 流れで言ってしまったが、結果オーライということで。

 洗濯物を一緒に干す。二人でやった方が早く終わるから。

 おっぴらに下着干す愛海李を注意し、車を走らせむらしま。


「腰が痛い」


 駐車場に車を停めて、降りながら腰をさする。


「一時間は腰やられるよ」

「コンビニ寄れば良かった……」

「帰りは、運転するね」

「任せた」

「任された」


 胸をポンと叩く愛海李から少し離れながら自動ドアをくぐる。

 オシャレに疎くてほぼ来ないから洋服屋さんの臭いが新鮮。


「あ、そうそう。ベットは止めてね」


「なぜ」

「場所取っちゃうから。そんなに広くないんだから」

「ていうか、持って帰れないじゃん」

「あ、そっか」


 目を丸くして驚く。

 変なところで愛海李はおバカさんになっちゃうんだよね。

 こういうところが憎めなかったり。


「ぴんきり?」

「なにが違うの? これ」

「中身じゃないか?」


 値札をチェックしてみる。五ま――高っ。

 羽毛の量とか質か?


「じゃあ、高いやつ行くか」

「ん、なんで? よく聞こえなかった」

「必死すぎるって。一番安いやつで。いつか返すから」

「録音しとけばよかった。……まぁ、先物投資で献上するよ」

「いや、いつか必ず倍にして返す」

「気長に待ってるね」


 信じてねぇ……。なにげにショック。

 購入し、車に乗り込み少し走ったところでメッセ。

 親友からのものだった。


[福田:次の日曜遊ぼうぜ]

[塚口:ゲーセンかそこらで遊ぼう]

[福田:オッケー。じゃあ!]


 スマホをスリープさせたら「福田君?」と愛海李。曇る表情。


「日曜遊べるかだとよ」

「ふ〜ん」

「変な別れ方したのか」

「別に普通」


 明らかに訳ありじゃないですか。

 急な引っ越しで家具とか置いてきたのが今となっては吉。

 まぁ、一応電話はしておくか。キレイにされたらバレてしまう。

 帰りの道中居候がバレない策を色々巡らせる俺であった。

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