モノローグ2

「ほお、やはり都市大学附属病院は優秀だったか」

 オフィスのようなビルの一室にひとりただずむ髭面の男は、自らの電子端末を耳に当てながら何者かと通話をしていた。

 ネットワーク関係の機器が全く機能しなくなり、街がパニックに陥るというこの状況下で、しっかりと電子端末を利用している。通話中に彼の電子端末から発せられる紫の光は、閑散とした部屋でやけに目立った。

「ん? 無能な警察が……無線LAN……ほお、随分と古い手を。どうせこちらをおびき寄せる意図も含んでいるのだろう。ま、先に知ってしまえばなんてことはない」

 何か算段を立てるかのように指をくるくると動かし、ぴたりと止める。

「ナイフは二本必要になるかもしれないな……いや、こっちの話だ」

 デスクが並んだ事務所のような部屋。いつもなら電子ブラインドによって日の光が調節されるのだが、それが機能しない現在は夏の日差しが直接部屋に差し込んでくる。

 男は暫く窓の外を見つめていたが、やがて日差しを避けるように部屋の隅に寄った。

 多くのデスクが所狭しとならび、そこかしこに大型の機械が積まれる。窓は扉の対面に一つ大きいものがあるのみ。そこから外を見ても高層部に位置するこの部屋からは他のビルの頭や空しか見えない。初めて入った者ならば息苦しさを感じる間取りになっている。

 そんな部屋の中に、一つだけぽつりと孤立したデスクがあった。僅かに埃を被った本や端末が山積みになったデスク。彼は懐から取り出した一本のナイフをそこへ向けた。

「俺が何か隠しているかって? ああ、隠しているさ、このプロジェクトの参謀として、秘密は勿論存在する。でもまあ、その時が来たら言うだろう。今後の展開次第だな」

 男は通話を切断し、ほくそ笑んむ。

「どんなシナリオが待っているのか」

 そして、心の底から楽しげな表情でナイフを懐へ閉まった。

「やはり念のためもう一本用意しておくか……あいつから切羽詰まった電話がかかってくるのも時間の問題だろう」

 彼の脳内では、いくつもの展開がすでに想定されている。

 今のところ、それを知るのは彼のみだ。

 自分の口では否定したが、彼は本当に神にでもなったような心境だった。

「まあ、一番脅威になり得たのはプロジェクト長様か。まあそれももう……」

 彼は自分の首元に左手で触れながら再びにやりと笑い、部屋を後にした。

 コツコツと廊下から響いてきた足音もやがて聞こえなくなり、埃っぽく息苦しい部屋のみが沈黙とともにそこに残される。

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