モノローグ1
男は電子ブラインドを操作し、開かれた窓の外を眺めた。彼の立つ場所は、街を眼下に一望するには十分な高さがあった。人々や人工的な木々はまるで米粒のようにしか見えない。だが、それでも彼らが慌ただしく動き回っている様はよく見ることができる。
上からでも人々が右往左往しているのが分かってしまうのだから、下ではまさに混沌とした世界が広がっているだろう。
「こんなものか」
彼は無精髭を撫でつつ、嘲るように吐き捨てながらも、堪えられない感情を出すようににやりと薄気味悪い笑みを浮かべる。
「でもまあ、うまくいっているようじゃないか」
ライトが均一に付けられた四角い部屋には彼しかいない。故に、それは単なる独り言のはずだった。しかしながら、彼は見えない誰かに話しかけるかのような調子で語る。見えない何者かが存在するかのように、笑いかける。
灰色の床に均一に並んだ同色の机は、コンピュータや電子端末で埋められており、まるでどこかのオフィスであるかのようだった。
「うまくいき過ぎて不安にもなるがな。俺たちは世界を作っているわけではない。世界をちょぴり裏でいじってやるだけ。決して表にはでない名前のないプロジェクト……自分たちが神にでもなったと思ってしまったらそこでおしまいだ」
興奮をできるだけ抑えるように努めるが、それでもこみ上げる笑いを押さえられずに、やがてくくくと籠った声を出す。
「優越感に浸ってしまうのは人より優れてしまった俺たちの性か。ふふ、俺は今仕事など頭から外れるほど、最高にいい気分だ。お前のお陰だな、プロジェクト長」
日が暮れてしまった空を眺め、電子ブラインドを操作して外部をシャットアウトすると、彼はまた見えない何者かに話しかけた。
そして再び髭を撫でると、
「そろそろ剃るかな」
と一言呟いたのだった。
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