第11話:ほろびのうた

 No,2の[Ost-Rich]は前期型だった

とは言え、ブースター等は後期Ⅱ型と同じ物。

言うならば後期Ⅱ共有装備仕様前期型...。

火器リンクは後期型用にフォーマットされた。

今まで試作モデルだったが為に

似てようが意外と互換性が無く、

整備士を困らせていたが、

アフリカから日本で改修され、

この仕様へとなった。

結果、全体的な性能は後期Ⅱ型の方が勝り、

これを使う理由は無かったハズだった...

しかし使う理由があったのだ...。

先ず、思い入れ...。

そしてリミッターの解除機能だ...

後期型からはオミットされた機能。

かつてのテストタイプはパンプアップ中に

放熱フィンを展開する事で不良を防いでいた。

しかしパンプアップと言っても欠点でも無く

その状態の時、熱で繊維が膨張するのだが

それによって通電量が増す為、

普段時より増加面積の割合分倍の

強度や馬力等が出せる。

しかしパンプアップが筋肉の改良によって

発生する事がないよう調整された後期型には

この解除機能が必要無くなった。

しかし、前期型はその通電量を

押さえ付けるようなリミッターであるために

非常時にフィンが開く様になっていた。

もちろん、テストタイプからのデータにより

適正通電量を保っているので、

滅多に使う事は無かった...。

結果、身を守るためのオーバードライブが

手段選ばず殲滅するための機能へと変貌した。

あと、もう一つあった

願掛けだ。

自身が隊長として仲間を失わない為の願掛け。

変わらず仲間を失わない、変わらず...。

だが、その願いも潰えてしまったが...。


 ざばぁあ...。


 水面から何かが顔を出す。

がしゅがしゅう! と陸地に上がった。

そして頭部が開いた。

「みんな無事?」

「ラムダ生きてますっ!」

「イプシル...問題無いです。...隊長は意外と安定してます」

「皆......、生きて、......るわ、ね...? よか、た...、よかっ....、た.....」

「隊長! 安静に...! 急ぎましょう...」

かしゅうう かしゅうう かしゅうう...

[Ost-Rich]の首には、

優秀すぎるショックアブソーバーが

搭載されており、

わざわざ、優しく地を蹴る事も無いのだが...

なんとなく慎重に走る。

ばらばらばらばら...。

「なんの音だ!?」

「上ですっ!」

上が...

空が......

これまでにない数の

4ローター式超大型ヘリで多い尽くされていた

「なんだあれ!?」

「急いだ方が良さそうだね...」


「全PD隊、諸君らの日本への帰還を要請す......。かぁ......」

「出る準備しなきゃいけないな」

「そうですね...」

アルパ、デルタ、ラムダ、イプシルが

治療室前で少し話していた。

もちろん治療を受けているのは2だ...

実は要請は既に発動しており、

もう飛空挺に乗り込んでいないと行けない...

だが彼女の復帰を待つ為に、

少し頼み込んで時間を伸ばしてもらった。

と、不意にランプが消え...

うぃーん

「隊長は!?」

『命は取り留めましたが....これ以上は戦えないかもしれません』

「そうですか...いや、そうですかって言うのも違うけど...えと、ありがとうございました!!」

「で、隊長は...」

『3日後に退院となります。こちらデータです』

3日後...

出発を伸ばしてもらったとは言え、

流石に限度もある...。

デルタはその資料を受け取り、一礼すると

「みんな、行こうか...」

飛空挺に乗り込んだ...

敬う隊長はその場に居ない。

「どうしよう...」

「かと言って...、迷う暇ないからな...」

飛び立った飛空挺は、

未だに途絶えることの無い、

巨大なヘリの群れに逆らい飛んだ。


「なんで急に帰還要請なのでしょうか...」

「そこなんだよ...! 僕達が帰って来ている間にじゃないんですよね...デルタ?」

「そうなんだ...撃破した直後には既にヘリは来ていたし、そんで出るのはいきなりって感じだったな」

「何かあったのですかね...?」

「簡単に説明しましょう。」

「ひえっ!?」

「カラさん!?」

驚いたラムダの事は気にせず話を続ける

「では、先ず...私達が撃破を達成したタイミングで一つ連絡が来ました。それはPD隊の解散...。」

「か、解散...,.?」

「はい。解散です。はっきり言うと...、用が済んだ...という訳です。4ローターのヘリを見たと思うが....あれに積んであるのは新型のPDだ。」

「なら試験があるじゃないですか...」

アルパは浮かんだ疑問を聞くが...

「ない。」

きっぱりと...

「なんでです?」

デルタが問う

「あのPDにはパイロットが必要無い...。故に試験も全自動で行う...。私の開発部は他の機関に移行し...ました。なので私もどうこう言う事はできません。」

......。

小さい沈黙を裂くようにラムダが口を開く。

「ガンマ先輩も、私が来る前に戦って死んで行ったベータ先輩も...ここに居ない人もいっぱい居るじゃないですかっ! ...私達だけっ! そんなのズルいですっ!」

「でも。」

「でもじゃないですっ! 戦う為に生まれてっ! 戦う為に育ってっ! 戦う為に殺してっ! 生きてっ...、その為にこの地球ほしに居るのに...そんなのないですっ! 殺すのも戦うのも...ダメだってわかってるですっ! けど......私達はその為に産まれたんですっ......、死に場所は......!」

「戦う為に産まれたんじゃない...。生きる為に産まれた...。あなた達も私もだ無くし切ってない。その、生きる理由を。」

カラは落ち着いた様子を崩さず、

しかしどこか優しく...そう答えた。


ユーラシア大陸内陸部...

創造主側拠点都市"クジャタ"にて

原住民ゴブリン共が大移動を始めたらしい〉〈へぇそうなのか....どこに行ったんだ〉〈噂話程度なんだが...この大陸に来てるらしい〉〈まだ戦争が長引くんだな...大変だよ〉〈相手からしてももうこの大陸しか基地が無いからね...そりゃこうなるさ〉

うぅぅぅぅぅ!!! カーンカーンカーン!!

〈敵襲だ! 相手のゲテモノが来たぞーッ!〉〈なんだって!〉〈行くぞ!〉


がしゅうん...、がしゅううん...


 6m強の二足歩行する鋼の竜...。

見かけは[Ost-Rich]だが、

その頭の形状は、まるでワニの物だった。

ゆったり、ゆったりと...

地平線横一列に並んだ怪物は

時折ふしゅうう...と

呼吸のような音を上げては前進を続ける。


〈なんだか事前情報より気味が悪いぞ...〉〈ヤバいのには変わらないんだ! 近くによれさえすればこっちのもんだ!〉


 箒兵が次々と飛び立ち、戦地へと向かう。

鋼の竜はそれを

ありとあらゆる探知機で感じ、

牙を向いた。

背部に搭載された六角柱のような特殊兵装...

"ハニカムファング"を全機が上に向ける。

直後、中からミサイルが一本ずつ飛び出した

放物線を描くように打ち上がると、

破裂。

筋裂弾...それもこれまで以上の大型が、

地表を真っ赤に染めあげる。

逃げようが無い程の面攻撃に、

迎撃の手も止まってしまう。


〈箒兵出撃中止! 数が違う!〉〈怪獣を呼べ!相手は今までより大量だ! それと魔導砲の砲門開け! チャージできるまでに標準を合わせておけ! すぐ撃つんだ〉


 地面からドームが迫り上がったと思えば、

ギギギギギギ....と軋んだ音を立てて

ドームの一部が開く。

しばらくして紫に輝くと...

〈てぇ──────っ!〉

ずばしゅうううう!!

紫の熱光線が放たれる。

鋼の竜達はハニカムファングを上下回転。

裏側の蓋を開くと...またミサイルを発射。

そのミサイルは地に水平に...

光線に向かって飛び、掠める直前に起動...。

ビリビリと空間を強い衝撃が走ると

その熱線を花火のように散らした。


 対魔衝撃弾...魔力を波と分析した、

とある科学者が提唱し、

大気を細かくそして大胆に振動させ、

魔力の波と対消滅させる、

若しくは威力を大幅に減衰させる...。

どうやら目論見は大当たりだったらしい。


 その様子を創造主側が見れば...。

〈魔法が...、効かないって...!?〉

嘗て最強だと思われていたその力の無効化、

これは創造主側からすれば大打撃である。

〈どうするんだ!〉〈怪獣を出せ! 物理的に潰せばいいんだ!〉〈搭乗型の怪獣なら奴らに勝てる筈だ!! GO! GO! GO!〉

どしゅうん! どしゅうん!

20mサイズの大型怪獣。

搭乗型最高サイズの魔怪獣だ...


 怪獣の出現を感じた鋼の竜達は

一斉にその方を向くと...

がしゅううう...

顎が開き、

一斉に、餌を前にした肉食獣の様に...

大地を揺らしながら走り出した。


〈な、なんだあ!? 急にこっちに来るぞ...くそッやってやらぁ!〉

その怪獣の操縦士は

怪獣の腕を前に突き出させると...

鱗を射出した。

体内ガスに引火させて鱗を飛ばしたのだ。

しかし、どう見ても頭を貫通しているのに

その鋼の竜は勢いを止めない。

〈な、なんなんだこいつらっ...!! 頭を割ればいいって!〉

小型のプラズマスピアを突き刺し、

怪獣の足の肉を削ぎ落としていく。

〈やめろっこの!〉

蹴り飛ばし、投げ飛ばし...

しかし、30機のこれ以上ない大群が、

一体の怪獣に貪るように集り、

あっという間にドロドロにしてしまう。

〈ダメだ! この基地に怪獣はもう無いぞ!〉〈撤退だ! 飛空船で...!〉〈うわああっ! 飛空船が喰われてる!?〉〈逃げられない! 箒兵をありったけ集めて、一般人を基地の外へ!〉〈化け物がッ!〉〈行け! 逃げるんだ!〉


 にがすわけがない。


[Ost-Rich]を模した何かは、

一般人を連れ、飛び立とうとする箒兵が、

探知機に映る度にそれを排除しようと掛かる。

全自動フルオートで動く物を追跡し殲滅する...

二足だけの悪魔。

その最新型の人工筋肉、

[ext]を採用した力強い足腰で

飛び立った箒に向かって跳躍し、

その顎で噛み砕く。

クラスター弾や筋裂弾を惜しみなく使用し、

基地は炎の海に生まれ変わる。

〈地獄だ......〉


「無人機というものは...、つくづくこれだ...。」

ちぎれた金属製の脚や、骨組みだけの頭、

真中に一つずつの机と椅子、そして人影だけ。

手入れの忘れた物置小屋の様に廃れた...

薄暗い第四ケージ{小仁ショウニン}にて...

報告書を読んでいるカラは独りごちた。

自分が兵器を開発していた時とは変わり...

熱は冷めきってしまった。

自身が輝ける瞬間は終わり...

これからは破滅の瞬間を待つだけだ。

例の無人機...[Ost-Alligator]が、

日も立たず内にロシア近くまで、

我が軍は勢力を巻き返した。

その2日後にユーラシア方面軍は崩壊した。

小さい頃に見たロボットアニメや漫画の様に

独立した生命体として世界を喰い始めた。

暴走...って言うべきか、進化...と言うべきか。

また最初に逆戻り。

創造主を食べ切ったら、どうするのか。

人工筋肉extの特性上、生物を喰わないと

腐って死ぬよう設定されている。

える事はできないから、

その内絶滅するだろう。

気がかりなのは...その竜は海を渡る事。

全ての大陸を渡り歩いて、

辿り着くのはきっと...。

カラはコップ一杯の水を飲み、

そのまま目を閉じた。


崩れるまで寝た。



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メカ紹介はこちら

[Ost-Alligator]

https://kakuyomu.jp/users/notunayo-exe/news/16817330652957204160




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