第二章 魔王の元へ

 岐阜城に着いた一行は、すぐに信長への目通りを願った。

 秀吉がいたからか、話が早かった。

 天守閣に呼び出された一行は、入るとすぐに頭を下げた。

「面をあげよ。後頭では、人がわからぬ」

「官兵衛殿。ここは上様の言うとおりになされよ」

 戸惑う官兵衛に秀吉が助け舟を出した。

 顔をあげると、色白で聡明そうな、とても世間で囁かれている鬼という印象とは全くかけ離れていた。

「官兵衛。小寺は本領安堵して使わす。ただし、秋までに政職を説き伏せよ。それが条件じゃ。良いな」

「はっ」

 信長はあっさりと本領安堵を示した。これは、最近の信長には珍しいことであった。

 最近信長は、参上するのが遅いだとか、最初の態度が良くないとかで所領を奪っていた。

 だが、その信長が本領安堵を示した。官兵衛は、そこから信長の僅かな心遣いを感じた。

「あと、官兵衛。これをやる」

「これは・・・・・・」

「儂の愛刀じゃ」

「官兵衛殿、受け取りなされ」

 再び戸惑う官兵衛に、再び秀吉が助け舟を出した。

 官兵衛は信長のこの無防備と言えるこの対応に唖然としていた。今、官兵衛に害意があれば、信長はこの場で斬り殺されている。

「圧し切りじゃ」

 圧し切りとは、長谷部国重作の打刀である。

 あるとき、信長に無礼を働いた管内が、詫びない上に台所の棚に籠もって出てこなくなった。信長は、この管内が喉の乾きなどに耐えかねて出てくるのを待つことなく、棚に刀を差し、そのまま圧し切り、管内の胴を真っ二つにした。

「圧しただけで切れた」

 これに驚いた信長は、この刀に圧し切りという名をつけた。

 その刀を他人に渡すのだ。いかに信頼できる人でも渡せないような代物である。

 その行動に官兵衛は、このお方には天下人の器量がある、と感じた。

 信長の後光は眩しく、濃い影を作らないのが家臣の仕事であると確信した。

「全く、筑前も儂に毎回、無理難題を押し付けてきよるわ」

「ははっ。申し訳ございませぬ」

 官兵衛は、詫びている秀吉の表情が笑顔であることに驚いた。これは、互いの信頼の証であると感じた。

 小寺政職は、官兵衛を重宝し、信頼しているが、ここまでではなかった。それに加え、近頃は小寺政職は官兵衛を疎んじていた。それは密談からもわかることであった。

 こういう状況から、官兵衛は二人の信じ合うということが羨ましく感じた。

「官兵衛。余がなぜ天下統一を急ぐかわかるか」

「世に安泰をもたらすためでしょうか」

「違う」

 信長が不機嫌になった。

「官兵衛殿、わからぬふりは信長様はお嫌いじゃ」

 秀吉が官兵衛に助言した。

「鉄砲にございまするか」

「そうだ」

 信長がご機嫌になった。

「普通はの、外国は自国の最強兵器は門外不出にする。その筒先を己に向けられたら困るからの。そのため、南蛮には鉄砲よりも優れた兵器が絶対に存在すると思うておる」

「私もでございます」

「これは明国の者から聞いた話なのだが、南蛮に支配されたインドなどは人が人として扱われず、物として売り買いされているらしい。インドを中継したら、日本に攻め込むことなど容易だ。それを防ぐために、日本中が一つになることが必要だ。今のこの国はな、隣の国が南蛮に攻め落とされても、助けには行かぬ。それこそ、ざまあみろと言って嘲笑うのがおちだ。そしてそれが、次は自分に来ることも知らずにな」

 官兵衛は、まさにその通りだと感じた。そのため、信長の話をずっと聞いていられた。

 官兵衛は、信長が日本を一つにするということを言っていることに驚いた。

 播磨の情勢を見ていると、そう思うのも仕方がなかった。

 官兵衛が仕えている小寺家と、官兵衛の祖父である重隆が仕えていた赤松家は、本当は一門である。

 だが、何代も前に別れたため、既に一門であるという意識はなく、共に播磨守護赤松家正統を名乗り、なまじ領地が接しているということで小競り合いを繰り返していた。

 官兵衛がそのようなことを考えている間にも、話は進んでいた。

「儂は自分が生きているうちに天下統一を成し遂げる。南蛮に攻められる前に儂が死んで、その後、この国が南蛮の属国になってしまっては困るからな」

 そう言い残し、信長が去った後、官兵衛は秀吉に呼び止められた。

「待たれよ。どうじゃ、上様に会った後は」

「まるで・・・・・・あたりを照らす日輪のようでございました」

「じゃろう」

「それ故、信長様が濃い影を作り出そうと、我らが一丸となってその影をなくすことこそが使命とも感じましてござる」

「その仕事こそが、天下統一事業じゃと思わぬか」

「そうでございます」

「世の中を見よ。お主は歌道に浸っておれば良いかも知れぬが、この世で暮らしている農民の苦しみはまさに地獄ぞ」

 元々農民上がりである秀吉が官兵衛を見つめながら話した。

 官兵衛は歌道に専念していた武将であった。だが、知人から軍学を勧められ、才能が花開き、小寺政職の軍師となった。

 秀吉は、官兵衛をじっと見て、何か返事をせよとの目の動きをさせた。

「確かに、秀吉殿の申すとおりでございます。この天下、今やもう信長様に集まろうとしている今、帰趨を明らかにしない者共は逆賊として討ち果たしても文句の言われる筋合いは無いかと思われまする」

「やはりお主は世のわかる男じゃ」

 秀吉は満足そうに、部屋から出ていった。

 秀吉に褒められて官兵衛は姫路へと帰って行った。

 姫路城に戻った官兵衛は、信長との約定を忘れていなかった。

「秋までに、あの暗愚で日和見を続けている主君を説得か・・・」

 正直、官兵衛は説得は無理だと思っていた。無理であれば、己のみ織田家に従い、小寺政職など切腹なり何なりすれば良いと思っていた。

 城門に着いた官兵衛は、そのまま城に入り、密談中かもしれなかった場所の襖を開けた。

「只今、戻りましてございまする」

「お、おお、今までどこに行っておったのじゃ」

 焦って何かを隠すように小寺政職が問うた。

「織田信長様に会ってまいりました」

 その場にいた皆が茶を吹き出した。毛利につこうとの密談をしていたのだろう。

 官兵衛は、小寺政職の側に寄り、諭した。

「政職様、よくお考えなされ。織田家には三千挺の鉄砲があるのでございますぞ」

「針小棒大であろう」

 小寺政職が官兵衛の言ったことを否定した。それほど、三千挺という数字はずば抜けたものであった。

「いえ、決して嘘ではございませぬ。官兵衛、この目で見て参り申した」

 少し間を置くと、官兵衛は再開した。

「恐らく、織田家全てで五千挺の鉄砲がございましょう。それを全てこちらに向けられれば、この御着の城もひとたまりもないでしょう」

 小寺政職に思案の時を与えず、官兵衛は続けた。

「殿、この世は既に織田信長様の元へ集まりつつあるのです。ここで信長様の敵に回られては、この城で兵と一緒に血を流すこととなりましょう」

 官兵衛は、小寺政職の最も嫌いな討死を危険性として出した。

「う、ううむ・・・・・・」

 小寺政職は少し考えると、こう言った。

「織田につくことは良い。儂らは誰かに従わねば生きて行けぬからの」

 小寺政職が現実を直視した。

「だが、今のところ、織田家が出陣しているところは播磨がいいところでしょう。そこから西には手を出せておりませぬ」

 重臣の小河三河守が小寺政職の前に近寄った。

「それに、信長殿にはあまりにも人望が無さすぎぬか」

 そう述べたのは、官兵衛の舅、櫛橋甲斐守であった。

「そうじゃ、そうじゃ」

 他の重臣たちも同調した。

「近江の浅井殿を見よ。あのお方らも、信長が間違っておったのに、信長に謀反じゃと言われ滅ぼされた」

 足利義昭との上洛を果たした信長は、少しでも協力体制を取れる大名をつくっておこうと、近江の浅井家に目を向けた。

 浅井長政は、信長の妹のお市の方を娶り、同盟を結んだ。

 このとき、長政の父である浅井久政が、朝倉家を攻めるときは必ず自分たちに話を通すように、と条件をつけた。

 これに信長も承諾した。だが、その後、信長が浅井家に話をする気配を見せることなく、独断で朝倉攻めを敢行した。

 これに怒った浅井家が朝倉家と共に信長を挟み撃ちにし、信長は命からがら撤退した。

 それから、比叡山焼き討ち、朝倉家の滅亡などを経て、小谷城は落ち、近江の名門浅井家は滅びた。

「約を破ったのは信長殿じゃ。しかし、かのお方は浅井家をお許しにならなかった」

「そうじゃ。信長のやることは鬼ぞ。伊勢長島の一揆も、降伏を受け入れておきながら、投降して出てきた農民共を弓鉄砲で女子供関係なく沈めたと言うではないか」

 櫛橋甲斐守の意見に小河三河守が付け足した。

「はははははは」

 急に官兵衛が笑いだし、他の将が焦りだした。ついに官兵衛の気が狂ったのではないかと思ったのである。

「ど、どうしたのだ、官兵衛」

 主君である小寺政職も当然焦っていた。自分の家臣である有能な軍師が狂ってほしくなかったからである。

「皆様方は、そのお人を敵に回したらどうなるのかをお考えにならないというのがつい面白うて笑ってしまい申した」

 官兵衛も、良くない方法ではないとわかっていた。だが、この説得に時がかけられないこともわかっていた。

 ここで説得できなければ、また織田家と毛利家の両天秤が続き、毛利に傾く将たちのみの密談が始まるだけであった。それだけは、官兵衛が阻止したいことであった。

 官兵衛と小河三河守が小寺政職の前に擦り寄り、顔を見つめた。小寺政職は、ぼそっと口にした。

「・・・・・・織田につく」

「なんと」

「おお」

 毛利に傾く将たちが驚愕した。

「宇喜多を敵にされるか」

 小河三河守が呆れたように口にした。

 こうして、官兵衛の説得は成功した。この話は、すぐに岐阜の信長の元へと伝わった。

「黒田官兵衛・・・・・・なかなかやる男よ」

 信長はこう言うと、秀吉と官兵衛を岐阜に召集した。

「官兵衛、そろそろ小寺が毛利に攻撃を仕掛けられる頃であろう。なぜなら、御着の城にいた将は、殆どが毛利に傾いておったからな」

「そのとおりでございまする」

 官兵衛が肯定した。

「その後なのだがな、官兵衛。毛利の動きが落ち着いたら、筑前の与力となれ」

「わ、私でございますか」

 秀吉は驚いた。欲しがった人材がついに己の元へ来るのである。秀吉には、これ以上の喜びは今までで無かった。

「ありがたき幸せにございます」

 秀吉と官兵衛が平伏して、ことは終わった。

 小寺政職が織田家に臣従したことは、すぐに岐阜の信長のもとに伝わったのは良いのだが、同じ頃に毛利輝元のもとにも伝わった。

 小寺政職が毛利に傾いていたことを知っており、織田家に臣従したことを知った毛利輝元は、当然激怒した。

「おのれ小寺め。よし、裏切り者の小寺に誅を下すのじゃ」

 毛利輝元は、浦宗勝に五千の兵を預け、姫路へと向かわせた。

 だが、備前の領主で毛利家の客将である宇喜多直家が己にやらせろと毛利家に言った。

「裏切り者の小寺の領地には我が宇喜多領のほうが近うござる。つまり、地の利は我らにあるのです。なに、小寺ごときに毛利様が直々に出られなくとも、この宇喜多直家めが打ちのめしてみせまする」

「お心遣い感謝いたすが、これは我らが誅を下さねばならぬのじゃ。いわば毛利家のことぞ。毛利家のことに宇喜多殿が首を挟まれる必要はない。宇喜多殿には次の逆賊討伐戦に出てもらうこととして、ゆるりとしてなされよ」

 毛利輝元は、宇喜多直家の進言をやんわりと断った。

「あいつがやったら播磨を全て取りかねぬ」

 毛利輝元の叔父である吉川元春は宇喜多直家を嫌っていた。

 宇喜多直家は元々、備前の領主であった浦上宗景の家臣であった。だが、織田信長を頼り一度謀反、それが失敗すると根回しまで完璧にして二回目の謀反を起こし、浦上宗景を追放した。

 そのずる賢さを、吉川元春は嫌っていた。

「左様。あの者に任せるのは得策ではないかと」

 吉川元春の意見にその弟である小早川隆景が同調した。

「では行くぞ。浦宗勝、出陣せよ!」

 毛利輝元の命令で浦宗勝が出陣した。

 官兵衛は、己の陣中で、毛利家が出陣したと知ると、玄米でできた握り飯を兵士たちに振る舞った。

「焦るな。握り飯はまだあるぞ」

 官兵衛は、己も両手に二つ持ち、左手の握り飯に噛みつきながら、兵たちを落ち着かせた。

 玄米は、よく噛まなければ飲み込めない。よく噛むことで、少量でもそれなりの満腹感を得られる。

 湯漬けでも良いのだが、湯漬けはどうしてもかきこんでしまう。かきこんでしまうというのは早食いになることである。早食いになると、満腹になるまでに時間がかかる。

 官兵衛は、玄米の握り飯にすることで、米の浪費を抑えた。

「殿。戦の準備が完了しました」

 家臣の竹森新右衛門が報告に来た。

「食え」

 官兵衛は、そう言うと右手の握り飯を差し出した。

「まだなにか用意いたしまするか」

「そうだな・・・ぼろ布と竹で旗に見えるようなものを作ってもらえると助かる。できれば百本ほどをな」

 官兵衛は、無理強いを避けてきた。無理強いは、領民の不満がたまる。そうなると、一揆の原因になりかねないのだ。

「わかりましてございまする」

「できるか」

「はっ」

「では、戦が始まり、我らの兵が鬨の声を上げたら、そちらも松明に火を灯し、旗を立て鬨の声をあげよ」

「なるほど。伏せ兵に見せるのでございますな」

「ああ」

 だが、もう一つの狙いもあった。毛利の兵が赤松家の領地の方へ逃げていったら、何を言われるかわからない。それこそ、黒田の兵が赤松の領地に入り込んできたとでも言われれば、黒田はおろか、小寺家も終わりである。

 官兵衛は、それを防ぐために、赤松領の方面にその陣をひかせたいというのもあった。

 竹森新右衛門が去っていくと、息子である松寿丸に会いに行った。

「松寿丸よ。今回の戦、お前の出番はない。すまぬが、ここで留守番をしてくれぬか。しかも、普通の武士なら良いが、お主の場合は初陣となる。じゃが、今回を初陣とすれば、誰もそなたの世話をしてやれぬ」

「松寿は、己のことぐらい、一人でできまする」

 松寿丸が一端の武士ぶった。

「常日頃のことはな。だがな、戦の際は独特の作法がある。その作法を知らねば、将来の物笑いの種ぞ。それを教えてやれぬのだ」

「しかし、ここで父上が負けてしまっては松寿の初陣がなくなってしまうではありませんか」

「はははははは」

 官兵衛は呵呵と笑った。

「よく聞け松寿。良いか、儂は負けるための戦はせぬ。戦は極力やらないに限る。だが、やらねばならぬときがある。それが今じゃ。やる以上は勝たねばならぬ。今の儂はな、背負うものが黒田の家だけではすまぬのだ。今回負けては織田の声望が地に墜ちる可能性がある。そうして、信長様に傾いていた小領主共が毛利に寝返る。そうなれば戦が始まる。しかも、負け戦がな。そうなってしまっては、責はすべて黒田が負わねばならぬ。しかも、そのときには黒田の当主は松寿であろう。そのような重き荷を、幼き頃から松寿に負わせとうないのだ」

 官兵衛は長政を諭した。

「わかりました。父上を信じて、松寿の初陣を待っておりまする」

「ん」

 松寿丸がその場から去っていった。官兵衛は、その姿を見て可愛そうであった。

「松寿・・・・・・もしやしたらお主は織田家の人質になるやもしれぬ。そうなれば、初陣が来る日は遠くなる。松寿、許せ」

 父・職隆の願いを受けて、十七歳で初陣を許された官兵衛は、己の体験を思い出すように松寿丸に詫びた。

「官兵衛様」

「いかがした」

 浦宗勝が姫路に着いたと聞き、官兵衛は、斥候の者に状況を見に行かせた。

 斥候の者は、震え上がって帰ってきた。

「目前に毛利勢の船が五百ほど。兵の数は五千ほどと思われまする」

 自分たちが小寺政職から預けられた兵が五百なのだ。震え上がるのも当然であった。

 だが、斥候の者の予想に反して、官兵衛は不機嫌な態度を示した。

「残念じゃ。もっと兵を出してくれれば」

「はっ?」

「毛利の力を大きく削げたものを」

「か、勝てると申されますか」

 斥候の者は唖然とした。

「勝てる戦も策が失敗したら負け戦となる。軍議を始めるぞ」

 官兵衛がこう言うと、竹森新右衛門ら黒田の諸将が集まった。

「新右衛門には農民の方を任せたのだが・・・・・・どうなっている?」

「はっ。準備も整いましてございまする」

「そうか。では、他の者たちは戦が始まったら船に火をかけよ。だが、全てではない。三つに一つは残せ。残った船を奪い合いさせるのじゃ。そして、浮足立っているうちに突撃して宇喜多直家寝返りじゃ、と叫べ。そうすれば、毛利の兵どもは互いに疑心暗鬼となり、同士討ちになる。そこをつけば、我らは勝てる。良いか、決して功を焦るでないぞ。この戦は生き残ることこそ功じゃ」

 官兵衛は、戦功に焦る兵たちを諌めた。

「では参るぞ」

 官兵衛の軍が鬨の声を上げると、向こうの山で農民の隊が呼応した。

「皆の者!向こうに負けないように叫ぶぞ!」

 正面からも、山からも鬨の声が聞こえ、毛利の兵は焦った。

 だが、近くから悲愴な声が聞こえてきた。

「は、浜の船が燃えているぞ」

 こうして、毛利の兵同士が船を取り合った。

「あ、焦るな。ここを西に向かっていけば、必ず毛利の領地に辿り着ける。もしやしたらその前に瀬戸内水軍の援軍も望める」

 だが、浦宗勝の声など、動揺する兵には届いていなかった。

 そこに官兵衛の隊が全力で突撃した。ますます兵たちは混乱した。

 そこに、官兵衛の計略がまたはまった。

「備前勢だ」

「備前勢の寝返りだ」

 黒田の兵たちが口々に叫んだ。動揺は毛利の兵全体に広がり、手がつけられなくなった。

 毛利の兵は寄せ集めである。そのため、互いの顔を認識していない。毛利の兵は、適当に槍を振り回し、同士討ちとなった。

「これでは埒が明かぬ」

 浦宗勝が舌打ちをし、毛利勢は撤退した。

 この戦で、黒田官兵衛の武名は上がった。だが、十倍の軍勢に勝ったという武名は、小寺政職の武名を越えてしまった。

 小寺政職は、官兵衛によくぞやってくれたと言ってはいるものの、態度はみるみる冷たくなっていった。

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