河津桜

河津桜

　今年もまた来てしまった。満開の河津桜が去年と変わらず濃いピンクの艶やかな姿で迎えてくれる。去年も夫と二人、人波にのまれないように注意しながら川岸をゆっくりと歩いたっけ。団体客で混んでいるのはわかっていても、二月になると一足早い春を味わいたくてやっぱり来てしまう。

　今年は並んで歩く夫ももういないのに。年の瀬も押し迫っての入院から、あっという間の旅立ちだった。茫然自失の私を見かねて子供たちが河津行きを勧めてくれたけど、正直あまり乗り気じゃなかった。夫のいないお花見なんて寂し過ぎる。

　駅前の食堂で金目鯛の煮付けをあてに一杯ひっかけてから、桜の下をそぞろ歩くのがいつものコース。今日はほろ酔い気分とはほど遠かったけど、歩いているうちに少しお酒が回ってきたみたい。

　館橋に差しかかったところで、名前を呼ばれたような気がして振り返る。人混みに夫の姿を捜す泣き笑いの頬にひとひらの桜。

　あなた、私はきっともう大丈夫。