遠藤正明④

篠崎「お前何やってんだ!

 自分のやった事わかってんのか!」

俺は当然スタッフルームで上司にお叱りを受けていた

普段から厳しい人だが今までに聞いた事のない声量でまくし立て続けている

だがほとんど内容が頭に入ってこない

俺は今日の締めくくりに最高の思い出と共に彼女を見送ってあげたかった

それを絶望に塗り替えて全部台無しにしてしまった自分がただ情けなかった

そして何よりこの誉れ高きディスティニーランドの看板に泥を塗ってしまったのだ

もうおしまいだ

この仕事を続ける資格は無い

スタッフ「リーダー

 ゲスト様の意識が戻りましたよ」

篠崎「そうか

 …

 よし私が対応する

 遠藤は帰っていいぞ

 明日また話そう」

スタッフ「いえ

 それがどうやら遠藤君にお会いしたいみたいです」

篠崎「なんだって?

 …

 良し

 遠藤一緒に来い」


篠崎「この度は大変申し訳ありませんでした

 お客様には多大なご迷惑をおかけして」

ゲストルームに着くなり俺とリーダーが並んで深く頭を下げる

井上「いえいえとんでもないです

 元はと言えば私が悪いんですし」

しばらくリーダーとゲストの腰の低いどうしのやり取りが続いた

井上「あの遠藤さん」

遠藤「は、はい!」

彼女が名札を見ながら突然名指してきて思わず固まる

井上「今日のパレードでもミッチーで踊ってましたよね」

遠藤「そうです」

井上「私今日初めて見てとても素晴らしくて感動しました

 先程も一緒にディスティニーランドをめぐれて楽しかったです

 こんな時に不躾ですが私遠藤さんのファンになってもいいですか?」

遠藤「いやー

 僕はただの裏方でして」

篠崎「もちろんです

 これからも我がディスティニーランド共々どうぞご贔屓に

 つきましてはどうぞこちらをお納めください」

リーダーの俺に送る視線は余計な事を言うなと物語っている

彼女に差し出したその手には年間フリーパスがあった

井上「そんな悪いですよ

 受け取れません」

篠崎「いえいえこれくらい当然です

 ささ、今度こそちゃんとゲートまでお見送り致しますよ

 そして今回の事はどうかご内密に」

リーダーがゲストの対応をしながら退出した

俺は当分動く気になれ無かった



篠崎「よお遠藤

 まだいたのか」

遠藤「…

 リーダー、俺」

篠崎「あーいいからいいから

 …

 ほら取っとけ」

遠藤「ああ

 すいません」

篠崎「お前はいつも良くやってるよ

 私も助けられている

 今回のことは正直肝を冷やしたがな

 お前が表で頑張ってる分こっちもフォローするよ

 お前はうちのエースなんだから明日からも頼むぜ

 ま、客に助けられてる内は私もお前もまだまだだけどな

 ハハハハ

 じゃ、私はもう行く

 お前も遅くならない内に気をつけて帰れよ」

遠藤「はい、お疲れ様です」

リーダーのくれた缶コーヒー

飲み干したその味はとても苦くて甘かった

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