第45話 五行の流れ

 




 学外学習は決まって4限に行うようだ。


 柚月達は1限から3限までの授業を終わらせた後、ジャージに着替えて校庭へと集まっていた。

 周りにはA組の姿もある。

 どうやら今日の担当はA組とB組のようだ。


 見回していると侘助が小さく手を振っていた。

 彼もやる気満々のようだ。

 柚月は小さく手だけで振り返すと、ちょうど前方の壇の上に新浪にいなみが上がったところだった。



「諸君、入学から1か月が過ぎた。大抵の者達は厳しい授業を受けて霊視や気視、そして霊力操作や気力操作を少しずつできる様になっている頃だと思う。そこでこれから2週間、上級生について学外での戦闘を見学、そして補助してもらおうと思う」


 上から彼女の良く通る凛とした声が降ってきて、思わず背筋が伸びる。



 よく見れば、彼女も生徒と同じジャージに身を包んでおり、隣に立つ竹ノ内もそうであった。

 もしかしたら先生方の戦闘も見られるかもしれない。

 この場に集まった者達はそんな期待を持った。


 先生に選ばれるほどの実力者の戦闘など、見ようと思って見られることなどほとんどない。

 そう考えてしまえば、どんどんと期待が膨らんでいくのを感じる。



 そんな1年の空気を察知取ったのか、新浪は一喝する。


「期待に胸を膨らませるのは勝手だが、まずは先輩たちについていけるかの心配をした方がいい。それに、自分の身の心配もな」


 その声が合図だったのか、校庭にいくつもの影が降り立ってくる。


「!?」


 降り立つ影はおよそ50程度。

 一気にざっとそろう姿は勇ましく、皆そろいの黒い衣に身を包んでいる。


 上級生たちだ。

 1年のジャージとは、ラインの色が違っている。



 1年のラインは白。だが上級生はそれぞれバラバラな色を持っていた。

 赤・青・黄・緑・紫、五色の霊力の色なのだろう。

 それぞれの持つ霊力が白いラインを染めたかのようだ。


 その五色で一つのチームを作っているのか、10のグループに分かれている。

 それぞれの霊力には相性があり、それらを補うためだろう。



 木属性は土属性に強く、火属性は金属性に強く、土属性は水属性に強く、金属性は木属性に強く、そして水属性は火属性に強い。


 その逆もまたしかりだ。

 タイプ相性を考えるのは戦闘の基本ともいえる。



「さて諸君、気が付いたものもいると思うが、貴方たちの着ているジャージは霊力によって染まり戦闘の補助をしてくれる代物だ。霊力量も霊力・気力操作も、一定以上に達しないとそのラインが染まることはない。諸君のモノはまだ白いだろう」


 そんな仕組みがあったのか。

 柚月は驚く。

 抗穢や打撃に強いだけではないということか。

 彼の知らない機能がまだまだありそうだ。



 柚月は肩から袖のラインをつまんでみた。

 やはり白いままだ。

 柚月のそれが染まるとしたら土属性の黄色になるのだろう。


「今ここに集まってもらった上級生は皆色の出せた選りすぐりの者達だ。当然だな、貴方たちの命を預かるのだから」


 新浪は手を広げながら説明を続ける。

 上級生は1チーム5人、対する1年生は1チーム7人計算となる。

 班割りはあらかじめ決められていたようだ。

 柚月は指示に従い、開始されるその時を待った。





 時刻は夕方4時前。

 俗にいうかれ時の手前だ。

 街へと繰り出した柚月はごくりと唾を呑んだ。


 今は先輩方について目的地である廃ビルへと足を踏み込み、ひたすら息を潜めている最中だった。

 廃墟特有の湿った埃の匂いが充満しており、まだ日が沈んでいないというのに薄暗いビル内は明るい時間でも入りたくない印象を受ける。


 恐らく、人々の負の念がたまっているのだろう。

 放棄された机や椅子に隠れながら噂の元を探す。


 柚月達がやってきたのは廃ビルから夜な夜な奇妙な声とうすぼんやりとした明かりが見えると噂のある廃ビルだった。


 分けられたチームには柚月の他にクラスメイト3人、A組の生徒3人だ。

 その中には、激励会で最後まで残っていた若夏鈴鹿の姿もあった。

 彼は寡黙であまり声を出さない。

 自己紹介の時に少し聞いたくらいだ。


 いつも教室の片隅で艶のある短い黒髪を耳に掛けながら本を読んでいる。

 とてもクールビューティという言葉が似合う男だった。

 涼やかな青緑色の目は切れ長で、俗にいうイケメンの部類なのだろう。

 悟いわく、「いけ好かねぇ」らしい。

 大丈夫、悟も格好いいよ、たぶんと言って殴られた記憶は新しい。




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