学外実習
第44話 学外実習
入学してから1か月が過ぎた。
少しだけ学校生活にも寮生活にも慣れてきたような気がする。
「そんじゃ、また寮でな」
「うん、また夜に」
いつも通り寮を
初日から結構砕けた雰囲気にはなれていたが、侘助とは思った以上に仲良くできている。
というのも購買部での手合わせの一件から、毎日夕方に打ち込み稽古をするようになったのだ。
お互いに気を操作したり結界を張って慎重に事を進めるタイプではなさそうで、近接戦の方が得意な感じがしている。
おかげで戦闘スタイルを早々に見つけられそうだ。
教室に入ると
「「おっはよー、柚月ぃ」」
発音もタイミングも完璧に重なっている。
いつの間にかそんなに仲が良くなったのだろうか。
「ぐえぇ」
柚月は苦しみながらそんなことを考えた。
というか、本当に首締まっているようで苦しい。
ギブギブというように腕をぱしぱし叩くとようやく解放された。
「いきなり苦しいよ!」
「「ごっめーん」」
謝るのも見事なハモリ具合だ。
2人の後から
「すまんな、柚月。こいつらは俺の手には負えない」
「同感ね。私にもむり」
「諦めないで?」
柚月はよれたネクタイを直しながらジト目になりながら二人を見る。
「そうはいってもな、なんでかこいつらお前に懐いてるみてーだし」
「そうそう。お守りは任せたわ」
2人とも面倒ごとはごめんだという表情だ。
押し付けられたこちらとしては冗談じゃない。
体は同年代でも小学生のように無邪気な友里と、確信犯な悟を一度に相手にしなくてはならないなど、とてもではないが不可能だ。
「ていうか悟はわざとでしょ」
「えぇ? なんのことだか」
わざとらしく口笛を吹いている彼はやはり確信犯に違いない。
「……」
じとぉという目を向ける。
「まあ、そんなことより!」
「そんなことで済まそうとするな」
悟はええ~という不満そうな顔を向けてくる。
ええ~はこちらのセリフだというに。
「今週から学外実習が始まるって知ってた?」
悟は空気を入れ替える様に話題を提供してきた。
仕方がない、ここは折れてやろう。
柚月は大抵いつも折れてやる方だった。
「学外実習?」
「そう! 昨日偶然職員室で耳にしちゃってさ。なんでも授業の一環として隠の討伐に出かけるみたい」
「ええ!? マジで!?」
「まじまじ! そりゃあまだ単独でなわけはないけどさ、先輩について見学して、最後の方には自分も討伐に加われるみたいだよ」
にわかにざわめき立つ教室。
皆聞き耳を立てているようだ。
そこに前の扉を開けて竹ノ内が入ってくる。
「はいはい、座れー、お前ら」
「はいはーい! 先生ぇー。学外実習やるって本当ですか~?」
席に着きながら元気よく挙手をする悟。
皆静かに席に着きながらもどこかそわそわとしている。
「あ? なんで知ってんだお前」
そういう竹ノ内は至極面倒臭そうな表情だ。
怠惰な彼のことだ。きっと外に出るとなれば学校の体裁を保つための外面をかぶらなくてはいけないのが面倒なのだろう。
柚月は当たりをつける。
「ってことはっ!」
「ああ、そうだな学外実習やるぞ」
途端におおおおという声が沸き起こる。
「先生質問です」
「質問は受け付けない~」
生徒に対して全くやる気のなさそうな教師は質問すらも煩わしいとでもいうようにぺっぺと手を振る。
「職務怠慢です先生。
「質問とは何だね、秋雨さん」
秘儀、手のひら返しだ。
もはや彼の弱点は教室中に知れ渡っているというのに、彼は怠けようとするのをやめない。
そのたびに譲に怒られるというのに。
……学習能力がないのだろうか。
譲はそんな竹ノ内のことを無視して質問をする。
「学外実習ってどうやってやるんですか」
「そうだな、それも含めてホームルームで説明するから、とりあえずはよ座れ~」
沸き立ったクラスメイト達は言われた通りに座るのを待った竹ノ内が口を開く。
「えーもう知っての通り、今日から上級生について学外で隠を討伐する。……っつてもお前ら1年は後方支援がメインだな。どんな隠がいて、俺たちは何と戦うために力をつけているのかを学んで来い」
「え、学んで来いって、先生は来ないんですか?」
明治が気になったことを聞いてみている。
「……俺は非っ常ーに不本意だがついていく」
本当にこの人が教師なのか疑問になってくる。
それはクラス全体の総意だろう。
「それで、何をやればいいんですかぁ?」
珍しく友里が空気を読んだ。
軌道修正をしてくれるのはありがたい。
このクラスは脱線することが多いのだ。
「そうだな。第一は物資の運搬と先輩たちの動向を見学することだ。討伐と言っても相手にするのは隠のレベルの奴らだからな。お前ら隠の発生現場に居合わせたことのあるやつはいるか?」
シーンと静まり返る教室。
発生現場に居合わせたことなど誰もないようだ。
「ちょうどいい。それだったら隠の発生現場をみて、どうやって隠になるのか知ってこい」
竹ノ内は教卓に両手をついてクラスを見回す。
その表情はいつもの気だるげなものではなく、瞳の奥に芯のある顔だった。
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