第39話 抗穢

 




 B組の面々はジャージに着替えて1年の使用する校庭へとやってきた。

 どうやら上級生が使う校庭は別にあるらしく、ここは1年専用のようだ。

 柚月は軽く準備運動をしながら授業が始まるのを待っていた。



「ねえ~、これ昨日神子様が着ていた戦闘服に似てない?」


 友里が嬉しそうにジャージを伸ばしながら話しかけてくる。


 言われてみれば確かに、半袖に動きやすようなインナーが覗いているところや、黒を基調としたデザインも似ている気がする。


「そうかも」

「だよねぇ~! うわー嬉しいなぁ」

「友里はそんなに澪ちゃんのこと好きなの?」

「そりゃあね~。憧れるよ」

「こいつ普段はおっとりしているくせに、昔から神子様関連の話題には食いつきが早いんだよ」


 肩を回しながらそう伝えてきたのは明治だ。

 同じく準備運動をしている悟と譲も集まってくる。



「私もこのデザインは気にっているわ」

「お前も? 俺も俺も! 動きやすいし、何より軽い素材で暑くもなく寒くもない! 結界師が練り上げた糸が使われているんだって」

「結界師が練り上げた?」


 高い効力を保有した道具を作るのはとてつもなく難しく、作り出せる人は少数の祈祷師や結界師のみなのだそうだ。

 それこそ職人技が必要となってくるのだが、その分いろいろな効力が見込めるので人気が高い。


 一般に術具じゅつぐと呼ばれるそれらの道具は、式神や札、そして人型などとは全く別物で、作り方も込めるべき力も違うらしいのだが、今はその話は置いておこう。



「そうそう。確か抗穢こうえや防打撃効果が付与されているらしいぜ」


 抗穢こうえは隠の負の波動を軽減する効果、防打撃は読んで字のごとく物理的な衝撃を無効化するものようだ。


 そういったものは効果付与製品として高値でやり取りがされていると聞いたことがあった。

 ということはこのジャージも相当な額つぎ込まれているのではないだろうか。


(……大切に使おう)


 そう心に決めた柚月だった。



「そうはいっても一定以上の攻撃や衝撃を食らえばその付与は壊れてしまうんじゃなかったかしら」

「そうだよ~。だからあくまで攻撃を食らわないってことが大事になって来るよね。食らっちゃうとけがれとかもついちゃうし」


 けがれとは負の感情から生まれた隠が纏う気のことで、存在することでその穢れをまき散らしている。

 それを人間が普段の生活で少しずつ取り込んでいる状態が現代の一般的な状態だ。


 少量の穢れなら誰しももっているので問題ないのだが、自身の許容量を超えた穢れを摂取してしまうと体調を崩したり気の病になったりと、よくないことが起こるようになりやがては死に至るようになる。


 一般的にはそうなる前に神社にお参りに行って落としてもらうか、対隠団体で落とすかをしなければならないのだが、そのやり方について柚月は知らなかった。



「そういえば穢れが付いたらどうすればいいの?」

「ああ、ここだったら救護棟にいけば払い手が払ってくれるよ。凄腕の先生たちがいるからな」

「払い手?」


「そう。攻撃とかは不得手でも厄落としや穢れ治療を得意とする人たちが払い手で、そんな人が集まっているのが救護棟」

「へえ」


 隠と直接戦う職にはなれなくとも隠と戦うサポートをしてくれる職だということか。

 柚月は絶対に戦闘職につきたかったためサポートの道は考えたことはなかったが、もし戦闘の才能がなかったらそちらの道に進むのも一つの手なのだろう。

 それに自分の手で、誰かを救えるというのならやりがいも十二分だ。


「ちなみに救護棟は『桃泉花とうせんか』とも連携しているから『桃泉花』の人たちが来ていることもあるんだぜ」


 にやりと笑う明治。



 こういうところは年相応に感じられる。

 なかなか明治のこういうところを見ることがなかったためなんとなく安心した。


 ちなみに今の年齢は友里は15で明治は16と一つ上らしい。

 どうにも、友里の面倒を見るために一緒の学年にしたようだ。

 家同士の付き合いとは、随分大変そうだなという感想を抱いた。



 だから明治の楽しそうな少年然とした表情を見れたのがうれしかったのだ。


「明治が楽しそうで安心したよ」

「親戚のおじさんみてーなこと言うな、お前」


 けらけらと笑い合う。平和なひと時だった。





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