第38話 さぼり癖
竹ノ内はチョークを置くと振り返りじっと教室内を見回した。
「……そうだな。今一番霊視ができているのは天見か。よし、天見コツを教えてやれ」
「えっ!?」
急に言われても困る。
自分に見えていたとしても、それを人に伝えるのは至難の業だ。見え方がそれぞれで異なるのだから。
「先生! いきなり言われても! 無茶ぶりだよ!!」
「なんだ。この業界では無茶を通していかねーと出来ねぇことが山ほどあるぞ」
それはその通りなのだろうが、避けて通れる無茶もあるのではないか。
そして、今のこれに至っては避けられることだし、何ならコツなどを教えるのが教師の役目ではないのだろうか。
竹ノ内は単にそれを面倒がっているようにしか思えない。
柚月はそう判断した。
「だからといってそんな投げやりに押し付けないでくださいよ! 自分で説明するのが面倒なんですか!?」
「なんだ、ばれてたか」
うっかりうっかりというようなジェスチャーをしてくる。
おい、この教師本当に大丈夫か。
初日から不安になってくる。
「……新浪先生に言いつけますよ」
普段より数段低い声でぼそりとつぶやいた。
「今からコツを教えるので、各々できる様になれよ」
素早い手のひら返しだった。
なるほど、竹ノ内には新浪先生が効くわけだ。
良いことを知れた。
柚月はにやりと黒い笑みを称えた。
「霊視はそれぞれの見え方が異なるからな、コツと言っても全員に通じる訳じゃねえ。だから自分の見やすい角度、見やすい場所、見やすい方法を知ることは極めて大切だ」
先ほどとは打って変わって真面目腐った顔をしながら説明を続ける竹ノ内。
初めからそうしていればよいものを、何故かこの男は度々さぼろうとする。
生徒の模範となるべき教師がそんな態度を見せても良いのだろうかと疑問になる。いや、ダメなのだろうが。
「俺はその人の頭のてっぺんから色のついた糸がつながっているように見える。もちろんずっと出ている訳でもねえが、見る対象が近ければ近いほど糸は太く、そしてはっきりと見えてくる。それで相手との距離を測るんだ」
竹ノ内の話は柚月の見え方に似ていた。
柚月も煙状の糸のようなものが相手に巻き付くように見えている。
そして人間から出ている糸はその人が意識を集中させた場所へと移っていく。
詰まるとこと残留思念が見えているのだろう。いや、残留というよりはこれから攻撃する場所が見える予知のようなものか。
どうやら術を使ったり攻撃をしたりしてくるときは、人はその場所に狙いを定める。それがいち早く糸として見えているからこそ攻撃を予見して回避することができた。
自分では気が付いていなかったが、柚月の霊視の優れているところは其処だった。
予見できれば攻撃を食らうこともへり、相手が何かをやるよりも早く動ける。
だからこそ、激励会では最後まで残っていられたのだ。
授業終了を知らせる鐘が鳴る。
「よし、今日はここまで。次からは実技に移る。ちぃとばかし早いかもしれねーが、まずは実践あるのみ……ふぁ」
竹ノ内は話しながら大きな伸びをする。
イマイチ締まらない人だ。
「次は新浪先生の授業だろう。ジャージに着替えて校庭に集まれってよ」
首を左右にならしながらそういう竹ノ内。
そのまま仮眠でも取りそうな勢いだった。
「先生、眠らないでください」
「これは瞑想だ、瞑想。
また適当なことばかり言っている。どう見てもただ眠いだけだ。
譲が噛みつくが適当にいなされていた。
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