第31話 立食パーティ

 



「そういえば、この後すぐに立食パーティーやるって、さっき先輩が言ってたよ」

「立食パーティー?」

「そう。もうお昼時ちょっとすぎてるだろ?もともとこの会の後には全学年が交流できるように立食の用意がされているらしいんだ」


「つまり昼食の代わりってこと?」

「そうなるだろうな。ここじゃなくて武道館でやるから移動しろってよ」



 柚月は悟に肩を借りながら隣にある武道館へと移動する。

 こちらも広い空間だ。

 壁には木刀を初め弓や槍、薙刀など実に様々な武器が立てかけてある。

 本来は霊力を纏うことを得意とする退鬼師たちの訓練をする場所なのだろう。



 柚月は今は食べるよりも休みたかったので壁にもたれかかるようにして座った。

 隣に悟も腰を落とす。

 入口からはまだぞろぞろと移動してくる人が入ってきており、こんなにも人数がいたのだと感心する。


 先ほどは避けることに必死でどのくらいいるのかなんて考えもしなった。


「あ、ほら。ちょうど運び込まれてくるみたいだぜ」


 そういわれ彼の指さす方を見ると、大量のカートワゴンを押した人が入ってきていた。

 その上にはクローシュが被せられたものが大量に乗せられており、中身は見えないがとてつもなく良い匂いを漂わせている。


 今までは疲れから食欲はなかったのだが、どうも匂いを嗅いでしまうともう駄目だった。

 忘れていたように腹が鳴り出す。


「お腹すいたぁ」

「な。早くありつきたいぜ」



 入口から最後のグループが入ってくるころにはカートワゴンが所狭しと並べられ、一人一人に皿が配られていた。

 柚月は急に鳴り出した腹をどうにか抑え込んでいる状態だった。

 いつもよりお腹が減って仕方がない。

 あれだけ動いたのだから仕方がないことなのだろうが、それにしても腹の虫が鳴りやまない。


『それでは皆さんお疲れさまでした。まずは乾杯の音頭を。皆さん飲み物を受け取ってください』


 給仕の者からグラスを手渡される。



 薄黄色の飲み物だ。

 炭酸が入っているのか、中からは気泡が浮いてきているが、まさか酒ではあるまいな。

 不審に思いながらも受け取ると音頭を待つ。



『では今回は竹ノ内先生お願いします』

「えっ、俺ですか?」

『はいはい、こちらへ』

「えー……はい」



 不意打ちだったのだろう。

 いやそうな顔をする竹ノ内。

 それにかまわず誘導する校長という図が完成していた。

 普通は逆な気がするのだが。


「えーー、紹介に預かりました、竹ノ内です。俺が音頭とるとは思っていなかったから何も考えていないけどな……」


 竹ノ内はまいったように頭を掻く。


 彼がそう言った途端に「早くしろ―」や「腹減ったー」という声が上がった。

 上級生たちは慣れたように野次を飛ばしている。

 柚月も腹が減って死にそうなのでそれに心の中で同意した。



「あぁ、うるせえうるせえ。囀るな野郎ども」


 竹ノ内はうんざりとした表情で気だるげな話し方となる。

 先ほどの爽やかさはいったいどこへといってしまったのだろうか。


「まああんま長いこと話すつもりもねーが、上級生ども。お前らぁちゃんと下の学年の世話してやるように」


 それに対して再び野次が飛ぶ。


 今度は「うるせー」や「お前が言うな」と言った言葉が多かった。

 それは完全に同意だ。


「やかましいわ。ま、何はともあれ1年たちはお疲れ様。それからようこそ葦の矢へ。歓迎するぜ。んじゃはい、乾杯」

「「「乾杯!!!」」」


 今のを音頭ととらえるのか、というツッコミを一年はそっと心の内にしまった。





 目の前に並ぶのは豪華な料理の数々。

 プリップリの海老の煮込み料理やふわふわに仕上げられたオムレツ、スパイシーな香りのする唐揚げなど所狭しと並ぶ料理に目を奪われる。

 まるで高級ホテルのビュッフェにでも来たかのような光景だ。


 中にはとてもではないが食べたことのない高級食材と思われるものまで並んでいる。

 本当にこれを食べても良いのだろうか。

 柚月は思わずのどを鳴らした。


 料理の奥にはサーブをするために人が待機していた。

 生徒や教員ではないその様子を見るに、学校が生活のすべての面倒を見てくれるというのは本当なようだ。


 先輩たちは早くも料理の奪い合いに発展しているところもあるのを見ればもう食べてよいのだろう。

 柚月は目の前にある唐揚げをとる。

 食欲をそそるその香りによだれが垂れそうだ。


 隣を見ればキノコと煮込んだハンバーグが目に入った。

 これも食べよう。

 そうすると米も欲しくなる。

 柚月は主食コーナーへと足を運んだ。




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