第28話 襲撃



 囲まれたと思った瞬間、周りから悲鳴が上がった。

 振り返ると空中に浮かされている者や水の鎖に捕まえられた者、そして突風に吹かれている者達が目に入る。


「なっ!」


 上級生たちが下級生に術をかけているようだ。


(なになになに!?)


 柚月はパニックを起こす。


 その間にも被害にあう1年生は増えていき、数秒しかたっていないはずなのに今では半数以上の1年が何かしらの被害にあっていた。

 柚月にも何度か術が放たれていたが、肌を刺すような害意を感じ取っていた彼は必死でそれらをよけていた。


「な、なんなの!?」


 そう叫ぶが返事は返ってこなかった。



 周りを見る。


 前方では佐柳が火を纏った拳で向かってきた衝撃波を相殺しており、その隣では秋雨が風を纏った札を投げつけて降ってきた水を爆発させていた。

 なるほど、ああやって自分の身を守ればよいのか。


(って、僕見て避けるしかないじゃん!)


 柚月はまだ霊力を身に纏ったり、操縦したり、式神を出したりなどできなかった。

 それはそうだ。それらを学ぶためにこの学校に来たのだから。



「うおおおお」


 次々に襲い来る上級生たちの術。足元に風の爆弾が落とされたり頭上に炎を纏った札が飛んできたり、とにかくバラエティーに富んだ攻撃が柚月を追い込んでいく。


 柚月にはそれらをよけるしかできなった。


「やあ、随分と上手に避けるね柚月君」


 ふと頭上に影ができたと思い見上げると、友里が緑色の壁を作りながらとびこんできた。


「友里!?」

「はいはーい」


 後ろから投げつけられた電気を帯びた札を弾きながら元気に返事をする彼女に、柚月は呆気にとられた。

 それは本当に僅かな時間だったのだが、戦場と化した体育館では十分すぎる隙となる。

 それを見逃すほどここの者達は甘くなかったようだ。


「隙あり!」


 誰かがそう言うと柚月に向けて水の鎖が放たれる。


 当然柚月もそれに気が付きはしたが、避ける態勢をとれていなかった。


(まずい!)


 そう思った時にはすでに鎖が目の前に迫っていた。

 思わず目をきつく瞑る。




 ばしゃんという水音を耳が捉えたが、自身が濡れた感覚や捕らわれた感覚がない。

 恐る恐る目を開けると目の前には一枚の札が浮き、水を受け止めていた。

 受け止めるというよりは吸い取っているの方がしっくりくるだろうか。

 大きかった水の鎖はどんどんと小さくなっていく。


「ちょっとあんた! 隙見せてんじゃないわよ!」


 声の主は秋雨のようだ。ということは彼女が助けてくれたのだろうか。



 思わずというように彼女を見ると罰が悪そうに眼を逸らした。


「勘違いしないでよ。今これ以上人数が減るとこっちの負担も大きくなるんだから。あんたでも避けるのは上手そうだし仕事してもらわないと困るのよ!」


 言いながら飛んで来た火の玉をよけている。



「秋雨さんナイスサポート! 友里、今のうちに体勢整えるぞ!」

「あいさー」


 こちらへと走ってくる佐柳と秋雨と合流し、友里の作り出した半透明な球体の中に入る。

 球体は飛んで来た攻撃をいろいろな形になりながら受け止めていた。

 どうやら友里の結界のようだ。



「はあ、助かった。友里あんがとな」

「あはは! どういたしまして~」


 流れた汗を服で拭いながら佐柳と友里は世間話でもするように、焦った様子もなく話している。


「ちょっと笑ってる時間なんてないでしょ! 攻撃の手が止まないんだから」


 秋雨はそれが気に食わなかったようだ。

 食いつくように意義を唱えている。


 柚月はというといまだにどういう状況か分かっていなかった。

 いや、攻撃されてて逃げなければいけないということはわかっているのだが、いかんせん分からないことがあまりにも多すぎた。


「ちょっと待ってどういう状態なの!?」


 思わず大きな声が出てしまった。


「私が知るわけないでしょ!? 校長先生の話が途中で終わったかと思えば急に攻撃され始めたんだもの」

「そんなこと僕も分かってるよ!」

「じゃあ聞かないでよ!」


 言い合う柚月と秋雨。



「まあ二人とも少しおちつきなってぇ」


 仲裁に入ってきたのは友里だった。

 彼女独特の間延びした話し方が秋雨を刺激したようだ。


「落ち着いていられるわけないでしょう!」

「短気は損気だよぉ」

「余計なお世話よっ」


 余計に火に油をそそいでしまう。

 秋雨は顔を赤くしながらわなわなと震えていた。



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