第27話 顔見せの会

 



 担任である竹ノ内に連れられてB組の生徒は合同体育館へとやってきた。


 部活動などがあればここで大会が開けるのではないかというほど一学校にしては広大なその場所は、天井も高い。

 試験場にしてもそうだが、これだけ高い建物を間に壁などを挟まずに建てられるものなのだろうか。

 そんな感想を抱かずにはいられなかった。



 体育館にはすでに上の学年の生徒がそろっていたようで、開きっぱなしの扉へ一斉に注目が集まる。

 なかなかの迫力だ。


 一人でこの圧を受けなければならないとしたら、何かご褒美をもらわねばやっていられないだろうと思うほど上級生からの視線は集中している。

 その視線はこちらを品定めするときのそれだった。


(うわ)


 色とりどりな視線に体を小さくする新入生たち。

 視界の端に映る悟も緊張した面持ちで前を向いており、あの自信の塊のような秋雨でさえごくりと生唾を飲み込んだのがわかった。


 視線の針の筵の仲、竹ノ内は特に気にした様子もなく進んでいく。

 それにつられて自分たちも進まなくてはならないのが億劫だ。

 柚月は前にいる佐柳に続いて体育館へと踏み入れた。



 刹那の圧。

 まるで山火事でも起こったのかと見まごう程、煙の嵐だ。柚月の目にはそう見えた。


 自分たちを見定めている上級生たちから注がれる視線は近づくにつれて煙となって彼に巻き付いた。

 その色の濃さに驚き、また煙の太さに驚き。

 驚きのオンパレードが襲ってきたのである。

 初めて見る霊力の多さに顔色が悪くなっているのが自分でもわかり、冷や汗が流れる。



「っすご」


 思わずと言った声が漏れた。

 同級生たちも皆一様に先輩からの圧に耐える様に静かだった。


(教室じゃああんなに騒がしかったのに)


 先ほどまでとは打って変わって静かな様子に余計に緊張が募ってくる。


 列は前へと進み、指定された範囲に到着すると、代表と副代表で点呼をとる。

 ちょうど男女となったので、男子の点呼を佐柳が、そして女子の点呼を秋雨がとるという形にしたようだ。


 B組は男子23人、女子12人の計35人クラスだ。

 戦闘職の専門学園のようなものであるため男女比率は男子の方が多い。

 他のクラスも同じような比率だろう。


 同じように入場してきたほかのクラスの奴らも、上級生の圧に縮こまっている。

 会場内は異様に静かだった。


 他のクラスも点呼をとり終わったようだ。

 それぞれの担任が会場の端に避けていくのが見えた。





『えー皆さんそろったようなので、第十三回顔見せの会を始めます』


 マイクで話し始めたのは初老の男性で加齢による灰色の髪をオールバックに撫でつけていて、どことなくダンディズムを感じさせている。


『私は葦の矢学院の校長、卯之原うのはらと申します。まずは1年生の皆さん、ご入学おめでとうございます。この学園で切磋琢磨し、己の技を磨いていってください』


 テノールの少ししわがれた声が降ってくる。



 校長は1年生全体をゆっくりとなめると、視線を後方の上級生たちに向ける。


『さて、上級生の皆さん。皆さんも体験したことがあるように下級生の方々には優しく接してあげることも大切です』


 2,3年生に向かって、当たり障りのない言葉をかける。

 よくある校長先生のあいさつのようなそれは3,4分続いた。

 どこの学校でも、校長先生の話は長いと相場が決まっているのだ。

 柚月は途中で前を向いているのに疲れ下を向いた。


 ふいに言葉が切れたので前を向くと、校長が薄く笑っているように見えた。


(?)


 何やら含みのある笑みだ。

 言葉が続かずにただ笑っているだけの校長に1年生たちは何事だとざわめいた。

 一抹の不安を持ちながらも次に続く言葉を待つ。


 ごくりと唾を飲み込んだ時、校長は口を開いた。


『……ですが、今日は無礼講! さあ上級生たちよ、思う存分新入生たちにその力を見せておやりさい!』


 校長は高らかにそう謡うと両手を高く広げると、後方にいたはずの上級生たちが一斉に1年生を取り囲んだ。


「!?」


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