第26話 自己紹介

 




「じゃあまず軽く自己紹介していこう」


 代表に決まった佐柳は残りの時間を使って自己紹介の場を設けるようだ。

 本来であれば代表を決める前にそういうことはするべきだと思うのだが、担任の竹ノ内は初めからすべて代表に任せるつもりだったようだ。

 本当に教師なのだろうかと疑問に思うくらいには怠惰である。



「私は秋雨 譲。歳は15で、霊力は木属性。得意な分野は術式の組み上げよ。よろしく」



 自己紹介は名前順で行うため、皆一度元の席に戻っている。

 秋雨の次が柚月の番だ。



「僕は天見柚月。僕も15で属性は土だよ。得意……と呼べるほどでもないけど霊視がちょこっとできるかな」


 自己紹介と言っても、何を言えばよいのか。

 自分はまだ式を持ったり霊力を武器化したりなどをしていない為話すことに戸惑う柚月。

 迷った末に出てきたのは霊視……つまり霊力が煙や糸のように見えることだけだった。


(もっと役に立ちそうなものを言えればいいのだけれど)



 彼は拍手の中椅子に腰を掛けた。

 次は悟の番だ。

 そういえば、悟が何を得意としているのかも知らないな、とふいに気づく。


「俺の名前は磯部悟! 歳は16で属性は水属性だ! ただ自分の中で霊力を操るとかよりは気をつかうことの方が向いていると思う。よろしく!」



 なんと。

 彼は自分よりも年上だったのか。


 完全に初耳である。

 そして彼の属性もまた初めて知った。

 確かに初対面が試験中っていう独特な関係性だったのだから知る機会などなかったのだが。


 彼が着席するとこっそりと話しかける。


「悟って年上だったのか」

「お? まあな。俺一回ここの試験落ちてるんだよ」

「へえ。知らなかった。敬語使った方がいい?」


 少し意地の悪い顔をする。



「はは、今更だろ。改めてよろしくな!」

「うん」


 それに悟は笑って答えた。




 そうしているうちにも自己紹介は進んでいく。

 佐柳や友里は家のことも少しだけ話していた。

 やはり有名な話のようで、教室中が少しざわざわとしていた。

 というか、意外なことに佐柳は一つだけ上らしい。


(やけに大人びているから20代だと思ってた)




 やがて最後の一人が席を立つ。


若夏わかなつ 鈴鹿すずかだ」


 見ると真っ黒な短髪にピアスを右に三つほどつけた男だ。その瞳は暗い青緑色に染まっていた。

 男は静かに前を向くとそっ気のない態度で名前だけ述ると再び静かに座る。



「え、終わりか?」


 佐柳が呆気にとられたように問うが無言で頷くだけだった。

 ……恥ずかしがりや名のかもしれない。

 そっとしておいた方が良いだろう。


 柚月はなんとなく親近感を覚えたのであった。




 こうしてクラスでのレクリエーションは終わりを迎えた。

 次は数分後に始まる顔見せの会だ。


 顔見せの会とは、その名の通り1年の顔を上級生たちに覚えてもらうための場のようで、佐柳から司会を変わった竹ノ内が説明をしている。

 要約すると、この会で仲良くなった人と将来仕事をすることになるかもしれないということだ。

 柚月は少しそわそわしながら話を聞いていた。



 この後に起こる騒動も知らずに……。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る