第25話 代表・副代表

 



 そんなこんなでレクリエーションが終わり、今は代表と副代表を決めているまっただ中である。


「お前らさっきの時間でクラスメイトのことは多少分かっただろ。そこで、B組をまとめられそうな代表とそれを補佐する副代表を選んでほしい」


 竹ノ内の低く覇気のない声が教室に広がる。

 覇気はないのだが良く通る声だった。


(代表か……)


 何をやるのかは知らないが、面倒ごとは避けて通りたい気もする。

 柚月は強くなるとこには興味を強く惹かれるが、それ以外は割と興味を抱きにくい人間だった。


 それこそこういう性格の自分よりも、しっかりと見えた佐柳の方が向いている。

 そう結論付けた。

 そうと決まれば後は静観すべし。

 彼は左腕を机に立てて頬杖をつきながらことの運びを傍観することにした。


「じゃあまず、立候補を受け付けるぞー」

「はいはーい! 俺やりたいです!」


 立候補を募ると同時に手を高く上げたのは悟だった。


「え、悟やりたいの!?」

「おう! もちろん!」


 意外だ。悟は自分と同じように面倒ごとは避けたい質だと思っていた。


「だってよ、代表なら先生とかとも話す機会増えるじゃん?そしたら神子様に会える確率も上がると思うんだよなぁ」


 ニコリと元気はつらつな笑みを向けられる。


(また神子様……)


「えーそれだったら私もやりたい!」

「ずるい! 俺だって」


 またこの流れである。



「はいはいお前ら、その論争は今はなしでなー。とりあえず手ぇ上がってねーのは天見だけか」

「えっ!?」


 柚月は慌てて室内を見回す。


(本当だ! 僕以外上げてる!)



 どうしたことだろうか。

 さっきまで悟しか上げていなかったのに、今では一人を除いて教室のすべての手が上がっていた。

 その中にはもちろん佐柳や秋雨、そして友里もいた。


(佐柳君や秋雨さんはともかく友里まで!?)


 あの面倒くさがり屋を前面に出していた友里までも、手を上げていたことに驚きを隠せない。



「あぁ、ここから選び出すのも面倒だな。じゃあ天見、お前代表やれ。な?」

「ええっ!? なんで僕!?」


「先生ぇー! それは不公平だと思いまーす」


 友里が不満を口にする。

 そーだそーだ、という声が教室中から上がってきた。


「だあぁ! うるせぇ。じゃあお前ら投票で決められると思うのか」

「全員が自分に入れるだろ」

「無理ですね」


 何をわかりきったことを、という反応をする生徒たち。

 当然投票が始まれば皆自分に入れるつもりなのだろう。

 本当に時間いっぱい経っても決まらない可能性が高い。


「分かってんじゃねーか」


 竹ノ内はけだるそうに息を吐き出す。



 それに反論したのが秋雨だ。


「だからって色なしに代表が務まるとは思いません」


 カチーーーン


(今の物言いはものすごく頭に来た!)


「出来ないわけないじゃないか! やってやるよ! というか色なし言うな。僕は天見柚月だ」


 なんでもかんでも色なしだからという理由で見下されるのは腹が立つ。



「はいはいー。天見もこう言ってくれてるんだし、代表は天見でいいな」

「あああああ! ちがっ」


 この時になって墓穴を掘ったことに気が付く。


(のせられた!? 巧妙な罠だった!)


 力なく背もたれにもたれる。




「不満がある奴は他の提案をしろー」

「先生! じゃあくじにしない?」

「あみだくじは無しだぞ」

「なんで?」

「先生が面倒だからだ」

「職務怠慢です、先生」



 そのやり取りはまるで示し合わせた漫才のようで、とてもテンポの良いものだった。

 竹ノ内と秋雨でコンビを組んだらよい漫才師になると思う。

 いや、漫才ではないのだが。


「先生ね、疲れてるのよ。仕事多くて。座学中くらい気を抜きたいわけよ」


 竹ノ内は悪びれもせずそう言い放つ。

 一回ほかの先生に叱られたほうがいいのではないだろうか。


「じゃあくじ引きにしようよ。当たりを引いた人が代表と副代表になれば公平だよね」


 そう言うと悟はノートの紙を何枚かちぎると赤いペンと青いペンで1枚ずつ印をつける。


「先生空き箱ある?」

「ティッシュケースの空きならあるが」


「じゃあそれ頂戴。これをこうして……」


 次々にちぎっては入れちぎっては入れを繰り返していく。


「出来た。これで俺以外は当たりがどれかぱっと見分からないっしょ! あとはこれをみんなが引けばよくねぇ?」


 不満ある奴いる? と皆に問い掛ける悟。

 意義は出なかったようだ。


「んじゃ後ろの席のやつから引いてって!」




 くじの結果は代表:佐柳、副代表:秋雨となった。

 正直ほっとしている。


「えーん、代表やりたかったよ~。明治代わって~」

「いやなこった。俺だってやりたいんだよ」


 何とか代表にありつこうと泣きつく友里に、その顔を押し返す佐柳。

 ここも良いコントができそうな匂いがする。




 反対側を見ると、秋雨が悟に自慢していた。


「まあ当然よね!」

「はん! 精々佐柳の足を引っ張らないよう気を付けるこったな!」

「あんたじゃあるまいし、ありえないわよ」

「どうだか!」


 両隣がとてもうるさくなっている。


(というか席順どうなっているんだ)


 もはや自由席だった。各々が開いている席に座って周りと話している。

 このクラス、本当に大丈夫だろうか。

 柚月は一抹の不安を覚えた。




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