第24話 十二支の家

 



「昔の京って百鬼夜行って言われるほど隠が多かったていうのは知ってる?」

「あ、うん。一応」


 思わずドキッとしていた柚月は話に集中するように彼女を見つめ返す。

 いけない、いけない。

 せっかく説明してくれているんだからしっかりと聞かなくては。



「そんな京を住める場所にするためにまず安倍晴明様が台頭したんだけどね、それに続いたのがあたしたちの先祖の十二支と呼ばれる12人の追儺師たちなんだ。

 晴明様はそれは強くて次々に隠を討伐していったんだけど、遠征とか討伐で何日も京を開けることが多くなったからサポートできる人が必要になったのね」


 友里は昔語りをするように目をつむって話をする。


 曰く、十二支とは『子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥』からなり、全方位を守護するものを指すのだという。

 そして各家の者達はそれぞれの役割を持っており、それぞれが補い合うことで京の安寧を守っていた。


 例えば『子』はネズミから連想できるように繁殖能力に優れていることから、幅広く広がり情報収集を担う家。それに対し『寅』はその情報をもとに、隠を真っ先に攻撃する遊撃の役割を担う家、という具合だ。

 晴明が京にいないときや、いなくなった後でも京を守れるように、それぞれの役割を分担して現在まで続いてきたらしい。



「ちなみに、今の『四聖獣しせいじゅう』のうち『白虎』の八朔日ほづみ 一香ひとかさんは寅の家の3男坊だよ」

「『四聖獣』?」

「色なし、あんたそんなことも知らずに入学したの!?」


 思わずと言ったように口をはさむ秋雨。


 柚月は少しむっとしたが、これには悟も賛同しているようで後ろでうんうんと頷いている。

 何とも言えない気分だ。



「いい、色なし。『四聖獣』っていうのは東西南北をそれぞれ守っているとされる聖獣のことで、四神ともいわれているわ。東方の青龍、西方の白虎、南方の朱雀、そして北方の玄武の4体の聖なる獣のことよ」


「そうそう~。昔は四聖獣の加護を受けた人が十二支の中から出ていたんだけど、現代で加護を受けられるような人はいないね」


 色なしと呼ばれるのは癪に障るが、それを言う前に説明が始まったので黙っている。そこに友里が付け足した。

 ついでに言うと、と友里は続ける。


「現代でいう『四聖獣』っていうのは『桃泉花とうせんか』の中で特に優れた力を持つ4人のトップのことよ。それぞれ得意とする戦闘法が違うから一概に誰が強いとかは言えないけれど、攻撃力だけで言ったら一香さんは群を抜いてるんじゃないかな?白虎の呼び名に負けないくらい強い力を持っているからね」

「そ、そうなんだ……」


 何にも知らなかった。


「そしてその4人の上にいる『桃泉花とうせんか』のトップが神子様!」


 キラキラした目で悟が付け加えた。

 神子の話が出たとたん教室がわあと沸く。


「!?」


 なんだなんだ。何事だ。


「神子様な! 格好いいよな!」

「あたし、昔神子様に助けてもらったことがあるの!」

「お前も? 俺も!」


 など教室中でそのような声が上がる。


 神子というものは本当に人気があるようで、ここに集まっている者は大抵神子に助けられたことがあるものたちのようだ。

 そんなに重要なことも知らなかったのかと、柚月は若干落ち込んでしまう。


(だって、澪ちゃんそんな人がいるって言わなかったし……)


 ついさっき聞いたばかりの人物がそんなに重要人物だとは思わないじゃないか。



 そういえば彼女からは『桃泉花』や『四聖獣』の話も聞いていない。

 またしても重要なことを伝え忘れる癖が出たようだ。


(このやろう……)


 今彼女を恨んでも仕方がない。

 だが、次会った時には必ず文句を言おうと心に決めたのだった。



「あれ? さっき悟、今日神子様が来るかもしれないって言ってなかった?」

「それなー。ただの噂だからどうかと思ってたけど、式ではお姿見えなかったし。まあお忙しい方だから来られないのかもな」


 肩をがっくりと落とし、すごく残念そうな悟。

 そんなに楽しみにしていたのだろうか。



 クラス中が神子の話題で盛り上がる中、一人だけその輪に入れていないような気がしてくる。

 除け者にされているようなそれを少しばかり心細く感じてしまう柚月は、意外と寂しがり屋なのかもしれない。

 そのせいだろうか。柚月の口はへの字に折れていた。


「……それで、この後も来なさそうなの? その人は」

「いや、俺は希望を捨てない! まだ2時間後の顔見せの会がある!」


 悟はあくまで神子が来るという希望を持っているようだ。


「そうだ! 顔見せには来るんじゃないか!?」

「きゃー! 会えたらどうしよう!?」

「さ、サインとか!もらえないかなっ?」


 クラスメイトも色めきだっている。



 柚月はそれをむすっとした顔で眺め、頬杖をついた。


(そんなにすごい人だと、澪ちゃんとどっちが強いのかな……)


 ふとそんな疑問がわいてくる。

 柚月の知る中では澪が一番強い存在だった。

 何をやっても自分では傷一つつけることは愚か、その式にさえ手も足も出ないのだ。


 いくら周りにすごいといわれている人でも、体感したことのある強さの方が優って思えてしまうのは仕方がないだろう。


(ちょっと気になる……)


 だが周囲の反応を見るに、その神子様も相当な実績と力を持っているのは間違いなさそうである。

 どちらが強いのか、御前試合のようなことをやってほしい気持ちだ。


(そのうち澪ちゃんにでも聞いてみよう)


 柚月はそう考えると静かに口を噤み、しばしクラスメイト達の様子を眺めた。



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