第22話 喧嘩上等
「はあーすんごかったな」
「だね。僕もあんなことできる様になるのかな」
式は無事に終わり、今は振り当てられた教室へと向かっている。
ちなみに悟とは同じB組だった。知り合いがいるとやはり安心感がある。
クラスは今学年で4クラスほどあり、1クラス35人程度が集まっている。
B組に着くと前の黒板に席順が張り出されていた。
どうやら名前順のようだ。
(あれ?)
自分は天見なので一番前かと思ったら2番目であった。
自分の前の席には
柚月は自分より早い名前があるのを珍しがりながら指定された席に着いた。
天見と磯部なので悟とは前後だ。
数分すると前の席に人がやってくる。
女の子だ。
「え」
勝手に男だと思っていた柚月は思わず声を漏らしてしまう。
しかもよく見れば試験の時に左隣にいた、あの暗い青色の長いストレートヘアを肩口でシニヨンにしていた子ではないか。
髪型が違うだけで気が付かないものだなと、変なところで感心する。
「なによ」
「あ、いや」
じろじろと見ていたのがばれていたようだ。
「不躾に人のことじろじろ見ないでくれるかしら」
「ご、ごめん」
確かこの子に試験中うるさいといわれた気がする。
気の強そうな感じだ。
しどろもどろになりながらごまかしていると後ろからつつかれた。
悟だ。
「なあ、あの子だよな」
「うん。そうだと思う」
内緒話をするようにこそこそと話す。
彼女は試験時とは違いストレートの長い髪をそのまま下ろしていた。
髪色は近くで見ても見事なほどの暗い青で染まっていって、先ほどちらりと見えた瞳もまた青かった。
いや、青というより水色だろうか。
青が出ているということは木属性の霊力で、これだけ全体にでているのなら相当量の霊力なのだろう。
色なしとしてはそんな霊力エリートが目の前にいるとなると肩身が狭い。
何とも言えない居心地の悪さだ。
そのままこそこそと話していると一度きっと睨まれてしまった。
おお、こわ。
少しすると、がらりと前の扉が開き男性が入ってくる。
(あれ、あの人)
横髪が青く、薄い青紫の目をした男性に見覚えがあった。
確か坤の棟の試験官―竹ノ内ではないだろうか。
「はい、みんな注目してね。俺はB組担任の竹ノ内薊。試験でも会った奴もいるだろうが、これからは先生としてよろしく頼む」
竹ノ内は人の好い笑みを浮かべながら自己紹介をすると室内を見回すようにきょろきょろとしている。
「にしても今回は相当色ありが多かったな。このクラスも多いみたいだが、霊力量が全てじゃあない。そこんとこしっかりと把握しておくように! 今のうちにクラスメイトと話しておけよー」
竹ノ内は若干の気だるげさを醸し出しながらも、言っていることはまさしく先生という感じだった。
「んじゃ、とりあえず残りの30分間はクラスメイトと話してみろー。なるべくいろんな奴と話すんだぞ。休憩挟んだら今度はいろいろと決めにゃあいかんのだからな。はい、開始ー」
そんな雑な感じでよいのだろうかと思ったが、それはクラス中の総意であろう。
ざわめきが広がる。
竹ノ内って試験会場でもこんな感じだっただろうか。
いや、もっとしっかりハキハキしていたような……。
考えても仕方がないだろう。
柚月は気持ちを切り替える様に前を向くと、前に座っている女の子に話しかけた。
「あー、秋雨さん? だよね?」
「……そうだけど。何か用? 色なしさん」
「え、」
明らかな侮蔑が込められた眼差しで見つめられる。
彼女は色あり、しかも相当強い霊力だという自負があるからだろうか。
だがこちらとしても、色なしというだけで馬鹿にされて黙っている訳に行かない。
カチンと来た柚月はとげのある言い方をする。
「色なしですけど? それでも入学できてるんだから、それで馬鹿にされるいわれはないよ」
「そうだそうだ! ここで色ありか色なしかなんて関係ないだろ!」
後ろで会話を聞いていたらしい悟も参戦してくる。
が、彼女は鼻で笑うようにあしらった。
「それはトレーニングが足りない人たちが落ちただけ。半端な気持ちで来るから落とされる。それだけよ。私は違う」
「そんな言い方しなくてもいいだろ!」
悟が噛みつく。
「何よ。あんたも色なしでしょ? 私色なしは嫌いなのよね」
「お前の好みなんか聞いてない。ただ色なしって括りでひとまとめにしてると、そのうち痛い目に合うぜ」
バチバチとお互いの目から火花が散る。
早速喧嘩勃発である。
おおっと、いきなり喧嘩か? というざわめきが広がった。
どうやらほかのクラスメイトは喧嘩の観戦をするスタイルのようで、だれも止めに入ろうという者はいなさそうだ。
隠と戦うことを目的として入学してきた奴らは血気盛な者が多かった。
俺、秋雨さんに賭ける。じゃあたしは磯部君にしようかな。などという賭け事が行われる始末である。
柚月はというと、お互いの間に挟まれて動けずにいた。
自分よりも悟が怒っており、急激に冷静になったのだ。
入学初日から問題起こすのはまずくないか? と。
ちらりと竹ノ内を見ると、にやにやしながらこちらの様子を伺っていた。
いや、止めろよ。あんた教師だろと思ったが口には出さない。
「悟、その辺にしておこう。初日から喧嘩はよくない」
「だってよ」
「何? 絡むだけ絡んで逃げるの?」
「ああん?」
「悟ー!」
これ以上目立つのは本当にまずい。
竹ノ内だってまだ取っ組み合いに発展していないから傍観を決め込んでいるだけだろう。
もしもここでどちらかが手を出せば、どちらもただでは済まなさそうだ。
柚月は悟の肩を押さえて留め置く。
これで何とか落ち着いてくれればよいのだが、2人は落ち着きそうになかった。
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