第21話 霊力操作

 



 式場に集められた新入生は色とりどりな髪色をしており、色なしは道中見つけた12人のみのように感じられる。

 インナーカラーとして深緑色が入っている奴、アシンメトリーに黄色が入った奴、そして黒髪だが目が青い奴。

 本当に彩りが豊かである。


(……僕も一部染めようかな)


 入れるとしたら何色だろうか。


(土属性ならやっぱり黄色? いや、好きな色だと緑がいいな)


 そんな冗談を考える程度には色を持ったものが多かった。



 そんなことを考えていると壇上にスポットライトが当たり、会場のざわめきが徐々に小さくなっていく。


 悟とは式場に入った時に決められていた場所へ向かうために別れたので今は一人である。

 とはいえ右も左もみなその状態であろうし特段気にはならないが、やはり色なしだという視線は一定数集まるようで、若干肩身が狭い。


 早く始まらないかなと思っていると、スポットライトが当たる場所に人が出てきた。

 柚月の居る場所では遠くて瞳の色はわからないが、髪全体が緋色に染まった女性だ。


 その女性はどこかで見覚えのある黒い服を着ていた。


(どこでみたんだっけ……?)


 そんな柚月の考えを他所に司会は進んでいく。



『諸君、まずは入学おめでとう』


 凛と透き通るような声が会場に響いた。



『私は葦の矢学院の教師、新浪 揚羽(にいなみ あげは)。担当する教科は身体強化のための霊力操作よ』


 身体強化、そんなことまで霊力でできるようだ。



『まずは挨拶がてら板割りを御覧に入れましょう』


 そういうと壇上に太い丸太が運び込まれた。

 板とは……? という疑問を思い浮かべない人はいないだろう。


 あれを割る……?

 いやいや、無理でしょう。というざわめきが場内に広がった。


 それもそのはず。

 その丸太は伐採してそのまま持ってきただけのようで人間の胴体くらいの厚みがあったのだ。

 新浪と名乗った教員はすうっと息を吸い込み精神統一を行っている。


 柚月も到底割れるとは思わず、固唾をのんでその場を見守る。

 すると、徐々に赤い煙が彼女の腕に纏わりついていくように見えた。


 彼女がパチリと目を開くころには右腕全体に広がっていた煙が、人差し指1本に集中していく。


『はあっ!』



 彼女は丸太に触れるか触れないかの距離でその手を振り下ろした。



 つかの間の静寂。


 そして次の瞬間にはズズンという地鳴りのような音が響いた。

 丸太が真っ二つに割れて固定台からずり落ちたのだ。



 おおーという歓声が上がる。


 まさか本当にあの太い丸太を切断するなんて……!

 柚月は感動のあまり拍手を送っていた。

 その音は幾重にも重なり合って、会場中が満たされる。


『ありがとうございます』


 軽く手を上げ歓声にこたえる新浪。

 拍手の嵐は十数秒続いた。




 やがて拍手の音が小さくなると彼女は話を切り出す。


『さて、皆さん。今やって見せたように霊力や気は使い方によっては強大な力を有します。これを正しく使わないと大変なことになるというのはすでにお気づきだと思いますが、ここに集まった皆さんならば大丈夫だと思っています』



 そういう新浪の声にしんと静まり返る場内。

 確かに、対隠だからこそそれだけ強力な力が必要になるのだが、使い方を誤れば取り返しのつかないことが起こるかもしれない。


 例えばその力を人に向けて使ってしまった時。

 丸太が真っ二つのところを見れば人間なんてどうなるか、一目瞭然だった。

 柚月は想像してごくりと生唾を飲み込んだ。


 壇上では新浪が話を続けている。


『今霊力や気をうまく扱えるか心配している方もいると思いますが、心配いりません。私たちがここにいる皆さんが正しく使える様に全力でサポートするのでご安心くださいね。……それでは、皆さん。よいキャンパスライフを送り隠と戦う力を身に着けてください』




 こうして式は過ぎていった。




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