第20話 入学式2
「なあ、今日の式に神子様がくるって話知ってた!?」
「神子?」
「そう!」
「来るってなんで?」
「なんでって、ここの理事長が神子様だからだろ?もしかしてお前神子様のことも知らねーの?」
「いや、そういう人がいるってのは知ってるけど、どんな人かは知らない……」
マジかーと頭を抱える仕草をする悟に、そんなに重要な話なのかと慌てる柚月。
「あのなぁ、この学園は神子様っていう追儺のスペシャリストとも呼べる方が作り上げたんだぜ! その方は桃泉花のトップにいるんだけど、本当に知らない?」
「……おお。知らない」
「マジかー」
二度目のやり取りである。
「まさか神子様がどんな方か知らないでここに来る奴がいたとは……」
「そんなに?」
「当たり前だよ! お前どこまで知ってるのか教えな。俺が知ってること教えてやるから」
「ええ……」
渋々ながらも自分の知っていることを話す。
「確か人類の守り人とされてて、あらゆる隠を滅する役目を担う存在ってことくらいしか」
忌子の話が出た時にこんな話をしていたような気がする。
どちらかと言えば、自分が該当するかもしれなかった忌子の話に気を持っていかれていたので、神子に関してはあまり覚えていない。
ちらちらと悟の様子を伺いながら知っていることを口にするが、悟の表情はあまりよくならなかった。
「そんだけ?」
「……うん。あとは忌子(いみご)と対の存在ってことくらい」
「だあー! そんだけかっ!」
あいたーと額を抑える悟にものすごく申し訳ない気持ちになる。
「いいか。それは歴代の神子全員に当てはまることなんだけど、今代の神子様は初代返り……つまり安倍晴明の再来だって言われるくらい霊力も多く操作も上手いんだ」
「安倍晴明って、あの?」
「そう。怨霊ひしめく平安時代の京の都に平穏を齎したと言われているあの晴明だ」
平安時代の都には百鬼夜行とも呼ばれるほど隠が蔓延っていたと言われている。
そんな都を人が住めるように警備を行ったのが陰陽師として呼び声高い安倍晴明である。
彼の式神は都中に散りばめられ日夜警備の目を光らせ、隠が出たら速攻退治できるほど強かったのだという。
「んで、今代の神子様は歴代の神子が持てなかった初代と同じ真っ白な髪を持っていて、齢12にして『桃泉花』を、『戌』の当代と共に立ち上げトップに立てるほどの能力を有していたらしい。それ以降、対隠では彼女の右に出る者がいなかったためそのままトップとして今も君臨し続けているすごいお人だよ!」
そう話す悟の顔はきらきらと輝いていて、本当に神子という存在を尊敬しているというのが見て取れた。
というか真っ白の髪って……。
柚月は自分の知っている人物を思い浮かべる。
頭にはおかずの取り合いをやっているところが浮かんだ。
(いや……まさかね)
自分が知っている真っ白の女はそんな偉業を達成するような、そんな格好の良い人間ではないのだから、別人に決まっている。
「……」
(うん違う違う)
まさかまさか。と首を横に振る。
……まさかとは思うが一応聞いておこう。
「ねえ、白い髪の人ってその神子様以外にもいるんだよね?」
「ん? あぁ、いるにはいるけど神子リスペクトで脱色をした人とかしかいないよ。たぶん」
真っ白な髪はそれほど珍しいらしい。
「……」
いや、本当にまさかね。
柚月の顔色が悪くなってきていたのだろう。悟が目の前で手を振ってきた。
「おーい? 大丈夫かー?」
「……うん、たぶん」
人違いだ、そう思っておこう。
「変な奴。早く式場に入ろうぜ!」
なおも悩まし気に首をひねる柚月に悟は疑問を抱いたようだったが、早くしないと式が始まってしまうと半ば引きずるように柚月を引っ張っていく。
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