第4話 三十二年間の閉鎖病棟生活
「タッチャン、タッチャン起きや」
僕を呼ぶ声がした。僕は起きた。山下さんが僕を呼んでいた。
頓服のリスパダールを飲んで眠くなって寝ていたのだ。
「よう寝とったなタッチャン。えらいいびきかいてたで」
まだ頭がぼうっとするが、不安は少しとれたような気がした。しかし依然としてカルチャーショックは続いていた。できればこの部屋から出たくない。でも、山下さんに対しては親しみがもて、好感をもっていた。だから山下さんと話すときはリラックスできた。
「タッチャン、食堂行けへんか?将棋でもしよや」
山下さんは落ち着いた声で言った。
僕はなるべく部屋で寝ていたかったが、わかりましたと言って、山下さんと食堂に向かった。途中、山下さんが看護師の詰め所から将棋の板と駒をもらった。
食堂に着くと高校生ぐらいの女の子が二人、テーブルのわきにあるソファーに座って談笑していた。いったい何について話しているのだろうか?それが気になった。そして何の病気なんだろうか?
「あんな若い女の子もいるんですね」
僕は言った。
「若いってタッチャンも十分若いやん」
山下さんは眉尻を下げ訝しげに笑いながら言った。
「山下さんって将棋強いですか?」
「あんま強ないで」
そうなんだ。強そうに見えるけど。
するとなぜかわからないが僕は山下さんが入院してどれくらい経つのか聞いてみたくなった。
「山下さんって入院してどれくらい経つんですか?」
「今年の春で三十二年経った」
「そうなんですか…」
内心驚いた。三十二年ってありえない。この人は三十二年間もここに閉じ込められているのか。
山下さんは見た目は普通のおっちゃんだ。健康そうにも十分見える。
なんでそんなにも長くここに居るんですか?
その質問をしたかったがなんとなく聞いてはいけないような気がした。
しかし山下さんはおもむろに口を開き、なぜ三十二年間も閉鎖病棟にいるのか語り始めた。
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