第3話 不安

 「兄ちゃん、名前何て言うん?」


 野球帽のおっちゃんが言った。


 「二階堂達也です」


 僕は言った。


 「じゃあ、これからあんたのことタッチャンって言うわ」


 野球帽のおっちゃんの親しさにびっくりした。


 「おじさんの名前は何ていうんですか?」


 「山下敏彦っていうねん。よろしく」


 「こちらこそよろしくお願いします」


 互いのベットに腰掛けながら話していると少し落ち着いてきた。しんどいときには会話をすることが重要だということだ。そうすると心が落ち着くということを今おぼえた。


 「タッチャンしんどそうやなぁ」


 山下さんは僕を見ながら同情するように言った。


 「はい。正直しんどいです」


 「どうしんどい?」


 「なんかここに来るのは初めてなもんで。なかなか環境に適応できなくて…」


 幻聴と被害妄想のことは言わなかった。それよりも今はこの閉鎖病棟でのカルチャーショックの方がしんどい。


 「そうかぁ。タッチャンの主治医は誰?」


 「高橋先生です」


 「さっき高橋先生詰め所にいたから、不安安定剤もらってきたら?」


 「そうします」


 僕はそう言うと看護師の詰め所に向かった。胸の奥から猛烈に不安が湧き上がってくるのだ。この猛烈な不安に心が削られ、この不安をなくすには、僕はもはや薬に頼るしかなかった。


 詰め所にいた高橋先生に窓越しに「酷く不安があります。薬を下さい」と言った。


 高橋先生は「う〜ん、やっぱり不安があるよね〜。じゃあ薬出すね。今晩からだからね。それまでリスパダールでしのいでもらってイイ?」高橋先生は五十代の女医だ。ちょっと話し方がギャルっぽいところがある。リスパダールとは頓服のことだ。


 「わかりました」


 僕は詰め所の看護師にリスパダールをひとつもらいそれを飲んだ。


 自分の病室に帰ると山下さんがベットで寝ていた。


 僕は少しベットで寝ることにした。

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