エピローグ④黒羽皐月(愛が重たい元カノ先輩)

 五月下旬のとある平日。

 その放課後、俺は黒羽先輩に話があると言われ、彼女の家にお邪魔した。

 と言っても、普段から彼女が使用している執筆部屋兼寝室なのだが。


「さぁ、いつものように私の身体を弄びなさい。この外道ッ……」

「エロ漫画でありがちな外道な男に悦びを教えられた女になってますよ、先輩」

「べ、別にアンタの逸物なんて……全然気持ち良くなかったんだから……ッ!」

「タイトル『幼馴染みがボクのテクにメロメロになった件』。あらすじ:非モテなボク。でも夜のテクは天才だった。男ならば、誰もが一度は考えた話の翌朝シーンじゃん!!」


 長すぎるし、微妙に分かり辛いツッコミ。

 黒羽先輩はつまらないわねという顔をしていた。

 男と女は分かり合えない。そう言うが、その通りかもしれない。


 毎度思うのだが、他にも部屋は沢山あるのに、ここに呼ばれている。

 正方形の部屋で、窓が一箇所あるのみ。

 朝日が眩しいと聞いたことがある。爽やかな目覚めを体験できるらしい。

 その他に特筆して言うべきことはない。


 だって、先輩の部屋は空っぽだから。物が殆どないのだ。

 あるのは、机と椅子、そして大きなキングサイズのベッドのみ。

 ビジネスホテルの一室と言われたら、そのまま納得できる作りだ。

 以前聞いたことがあるが、この部屋が最も執筆に集中できるのだとか。

 ともあれ、現在進行形で、先輩は執筆に集中することもなく、ベッドの上にいる。

 そして、立ち尽くす俺を見て、長い黒髪と琥珀色の瞳を持つ少女は誘ってくるのだ。


「来て、海斗君」と。


 大きく両腕を広げて、自分に抱きついてこいとするのだ。

 その姿は愛する人を迎え入れるというよりも、一人お留守番していた犬や猫を受け入れるほうが近い気がしてならない。

 だが、来てと言われて、俺はそう単純に動くはずがなく。

 ベッドの端にちょこんと腰を下ろす程度にするのであった。


「最近新しい女ができたそうね」

「新しい女?」

「昔の女だったのね」

「昔でもねぇーよ」

「侍らせた女ができたそうね」

「言い方が逆に酷くなってるわ」

「股が緩そうな女がいるそうね」

「男を自分の部屋に連れ込むアンタが言う筋合いはねぇーよ!」


◇◆◇◆◇◆


「で、どうなの? 頭が悪そうな女とは」

「志乃ちゃんとは仲良しですよ」

「椎名さんのこと頭が悪そうな女だと思っていたのね」

「誘導尋問にもほどがあるわ!」

「現代のSNSでは、この揚げ足取りゲームが主流よ」

「悪いところじゃなくて、良いところに目を付けて欲しいな」


◇◆◇◆◇◆


「まだご褒美をもらってないわね」

「ん?」

「忘れたの? 文芸部存続を賭けた戦いに勝利したご褒美よ」

「先輩が勝ったら、俺何かするとか言いましたっけ?」

「黒羽先輩に身も心も差し出すと言っていたわ」

「文芸部存続じゃなくて、自分の人生を賭けた戦いになってるわ!」


「ん……撫でてよ、頭」


 四つん這いになった黒羽先輩。

 ベッドの端っこに座っている俺へと猫のように迫ってくるのだ。

 学校内では誰とも関わらないのに。

 俺と二人きりになると本性を露わにする魔性の女だ。


「…………せ、先輩……俺たちはもう」


 断りを入れるのだが、スイッチが入った彼女を止めることはできない。

 受け入れることを拒む俺の腕を掴むのだ。

 それから俺の手のひらを自分の頭へと乗せて、ゆっくりと撫でさせるのだ。


「知ってるわよ、でも今だけでいいから」

「今だけでいいって何度も聞いた気がするんですけど?」

「今だけでいいは何回でも使えるのよ」


 朝焼けのような赤が先輩の頬を彩った。

 ただ、その色は恥ずかしさからではない。

 嬉しさから生まれたものだと分かる。

 まだ、俺から撫でてあげてるわけではないのに。


「今だけですよ」


 そう呟いて、俺は自分よりも一歳年上の少女を甘やかすことにした。

 俺の太ももに彼女の頭を乗せて、優しく包み込むように撫でてあげるのだ。

 時折、ビクビクと反応し、先輩は色っぽい声を出してしまう。


「んぅ……ちょっと力が強いかも」

「そうですか? これぐらいじゃあ?」

「うん、ちょうどいい。力加減。上手だね、女の子を気持ちよくするの」

「先輩のあやしかたならば、誰にも負ける気しませんよ」

「私専用のベビーシッターにでもなる?」


 冗談交じりに訊ねられた。

 何も返事を返してもらえず、先輩は唇を僅かに尖らせる。

 そんな可愛らしい彼女に、俺は囁いてみる。


「俺専用の奴隷になるなら考えてあげてもいいですけど?」

「……海斗君って卑猥ね。奴隷なんて言葉を使うなんて」


 頭を撫でられながらも、先輩は俺のズボンを掴んでくるのだ。

 どれだけ感度がいいのだろうか。

 だが、俺が手を止めると、もう一度というように指示を出してくるのだ。

 どうやら俺の撫でかたは、彼女の心を掴んでしまったらしい。


「……海斗君が悪いんだからね、私をこんな女にしたから」

「甘え上手な女の子、俺は好きですけどね」

「私にもっと甘えろという振りなの?」

「さぁ、どうでしょうね。先輩の判断に委ねますよ」


 昔付き合っていた元カノ先輩と過ごす時間。

 それは一度俺が捨ててしまったものでもあるが。

 それと同時に、あの頃の懐かしさを思い出させてくれる。

 あと、優越感に浸ることができる。

 だって、学校で一番美しいと評判の少女を独占しているのだから。

 それも俺以外の誰にも見せない可憐な笑顔のままに。


「ねぇ……海斗君。私、もっと甘えていいの?」


 その一言と共に、気合が入った先輩は俺を押し倒した。

 俺の有無などお構いなしだ。

 馬乗りになり、得意気な顔を浮かべた彼女は言う。


「先輩を悪ノリさせたから自分自身に反省しなさい」と。


 その後、俺たちは——。

 いや、これ以上語るのはやめておこう。

 今は二人だけ。ここは二人だけの空間なのだから。

 そして、俺と先輩だけの特別な思い出なのだから。


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エピローグ④


 黒羽皐月


 個人的には一番報われて欲しいキャラ第一位。

 正直言って、作家のお気に入りです。

 ちょっぴりお姉さん気質な黒羽先輩、大好きですッ!!


『白翼月姫』と『黒羽皐月』は良きライバルだと思ってる。


 黒と白(真逆の色設定)翼と羽(才能の差を表現)


 次回最終話です。

 最高のフィナーレを皆様にお届けしたいと思います( ̄▽ ̄)

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