エピローグ③白翼月姫(独占欲が強い粘着質幼馴染み)

 とある日の昼休み。

 志乃ちゃんとの昼食を取り終えた俺はとある場所へと向かった。

 茶髪ショートの可愛い後輩はまだ俺と喋りたかったらしい。「先輩、まだ話は終わっていません!」とプンスカプンスカしていたけれど、先客がいるのだ。行くしかあるまい。


 俺が向かった先というのは、生徒会室。

 俺の幼馴染みとして、現生徒会長の白翼月姫が私物化している部屋だ。

 入る前にノックを数回してみたものの、返事は一切ない。

 ともあれ、このまま突っ立ているのも変な話なので、俺は扉を開いた。


「すーすーすー」


 生徒会長専用と思わしき巨大な机と王様が座るような椅子。

 身体をうつ伏せにした状態で、とある銀髪の少女は眠っていた。

 太陽の光が心地いいのだろうか、幸せそうな表情を浮かべている。

 普段から朗らかにしていれば、もっと彼女の魅力が伝わると思うのにな。


「人を呼び出して眠っているとはな」


 白翼月姫は回遊魚みたいな人物だ。

 起きている時間はいつも動いている。

 というか、動かないと気が済まないみたいにキビキビ動いている。

 生徒会長としての責任がある、ということなのだろう。


「月姫、お前は頑張ってるよ。俺はそんなお前を尊敬してる」


 彼女の寝顔を独占しつつも、羽織っていた学ランを着せることにした。

 これで少しは快適に眠れるだろうと思ってな。

 だが、俺には他にもしなければならないことがある。

 それは、月姫が眠っている机の上に散らかっている書類だ。

 どうやら彼女は書類作業中に、夢の世界へと誘われたらしい。


「飯食ったばかりで全力は出したくないんだがな……」


 それでも可愛い幼馴染みの笑顔を見るためだ。それぐらい安いもんだ。


◇◆◇◆◇◆


「んぅ? あ、あれ……? カイト……? どうしてここに?」


 目が覚めたばかりで、月姫は本調子ではないようだ。

 言葉遣いが子供っぽいし、銀髪も少しだけブワァッとなっている。

 ショボショボしている目を擦りつつも、彼女は何かを思い出したのか。


「あっ! しょ、書類ッ! 昼休みまでに作る予定だったのに!!」

「その件なら安心しろ。俺が全部まとめたから」

「えっ……?」

「他にも、俺ができる範囲で全ての仕事は終わらせた」

「うそ……ほ、ほんとう?」


 驚きの表情を浮かべる月姫だが、周囲を見渡して気付いたようだ。

 一流ホテルの部屋かと見間違えるように、ピカピカになっていることに。


「あとは月姫がサインしてくれれば全部提出できるはずだ」

「……あれだけ残っていたのに」

「お前が事前調査やってたおかげだよ」


 慌てふためいたものの、落ち着きを取り戻したらしい。

 不思議そうな瞳を向けたまま、俺の学ランを毛布代わりにしている。


「軽い紅茶と甘いお菓子も準備した。何も食わないと倒れるぞ」

「あ、ありがとう……カイト」


◇◆◇◆◇◆


「で、どうしてカイトはここにいるの?」


 月姫は根本的な問題が気になるようだ。

 どうしてこの男はこの部屋にいたのかと。

 そして、難事件解決のヒントを見つけたかのように。


「ボクの寝込みを襲おうと……」

「してねぇーから安心しろ」

「しないんだ、こんな可愛い幼馴染みなのに」

「たった一回の間違いで、お前との関係を壊したくないからな」

「受け入れてあげるかもしれないよ?」

「思い出は共有したい派なんだよ。だから、そんな悪どい方法はしない」


 キッパリと言い切り、俺は話を元に戻すことにした。

 どうして俺がこの部屋にいたのか。その理由は——。


「お前が呼び出したんだろ?」


 昨日の夜に連絡が入ったのだ。


『月姫:明日の昼休みは生徒会室に来てくれ。話がある』


「仕事の依頼なんだ」

「仕事の依頼ってことは、またお前の父親が依頼主か?」

「そうだよ。今度ね、上流階級が集まるパーティーがあるんだけど——」


 東証一部企業の一角。

 その中には白翼財閥と呼ばれる富豪の一族が存在する。

 明治からその名前を轟かせ、戦後の日本を支えた由緒正しき家柄なのだ。

 そして、その白翼財閥の一人娘にして、跡取りになるべき存在。

 それが——白翼月姫なのだ。


「分かったよ。俺はボディガードってことでいいんだろ?」

「うん。いつもいつもありがとうね、カイト」

「お前が幸せならそれでいいんだよ、俺は」


 俺と月姫は家がらみでも仲良しな幼馴染み。

 だからこそ、何かあるたびに月姫のことをよろしく頼むと言われている。

 まぁ、月姫が涙が流す悲しい姿は絶対に見たくないから了承してるけどな。


◇◆◇◆◇◆


「カイトはやっぱり才能の無駄遣いしてると思う」


 俺が作った書類をチェックしながら、月姫はポツリと呟いた。


「この能力はもっと他の分野で活かすべき。書類作成能力や分析力。全部凄い! たったあれだけの時間でこれだけのものをまとめるなんて……化け物レベル」


 月姫は無闇矢鱈に人を褒めない。

 自分よりも凄いと心の底から思っている人しか認めないのだ。

 ただ、俺はできることよりも、やりたいことを優先したいのだ。


「褒めるなら俺の小説にしてくれ」

「ボクよりも面白い小説書けないからダメ」

「なら、いつかお前を超えてやるさ」


 俺はそう呟いて。


「そして絶対面白いと認めさせてやるよ」


 勝算もないのに語る俺を見て、銀髪少女は得意気に微笑むのであった。


—————————————————————————————————

エピローグ③


 白翼月姫

 主人公以外の前では——超絶完璧美少女

 ただし、主人公の前だと——甘えたがりな幼馴染み

 今回は敵役ポジで出てきましたが、潜在能力高めなヒロインの一人。

 まだまだ彼女は活躍できると確信しています(笑)

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