第14話 魔王

「神楽殿!……どうだっだ?…‥グラナダ帝国の守護神は?」


「え?守護神だったのですか?……間違えましたか。どおりで。大した魔力も持たないくせに、私の事を人間風情だか矮小だのとほざいて、軽くはたいただけで逃げ出した大トカゲなんか、やはり只の雑魚だったんですね」


「え?……もっと詳しく聞かせて貰えないだろうか?」


「ペトラはもう牢に入れてしまったんですよね?守護神が来てしまう前に急ぎ探して斃してきます。」


「待ってくれ神楽殿!守護神は古龍の別名……」


「私の留守の間に守護神が来ないかが心配なんですよね?それなら先程のトカゲ以上の魔力が王国に近づけば帝国の何処にいても私には分かりますし、直ぐに来れますからご心配なく……それでは」


「違うんだ!待ってくれ!…………行ってしまったか……ほざいた?言葉を喋れる程の魔物が守護神以外に、そう居るものかよ」






……先ずはあの大トカゲに聞いてみましょう。気配は……あ……居ましたね。何だか周りに人間が沢山居ますね。いきなり出現して騒がせてしまうのはもう懲りました。特にあの元気で可愛いらしい侍女のマールには気絶させて可哀そうな事をしましたし。

 ここは驚かせてしまわない様に、堂々と最初から魔力も隠さずにゆっくりと空を飛んで行きましょうか。優しい笑顔も忘れずに。流行りのスマイル銅貨ぜろ枚というやつです。それと神を相手にするには太刀を小さくした侭ではいけませんね。






 その出来事は、多くのグラナダ帝国民の心に深く恐怖と絶望を刻み込み末代まで語り継がれる事となった。



 空に魔王が現れた。長い黒髪を振り乱し、数多あまたの人間の生き血を吸い取ったかの様な金色こんじきの光を放つ。


 白い衣は血で縁取られて、所々に金糸や色とりどりの糸を使い異界の魔法陣らしき文様が描かれ、腰から下は完全に鮮やかな血に染まりきる。


 腰には女の身で持つにはありえない程の大きさの、豪奢で派手に禍々しい意匠の大剣が下げられ。


 返り血が混ざる金色こんじきの双眸。空を見上げて不運にもそれと見つめ合ってしまった者達は、魂を深淵の底へ引きずることを喜ぶ悪魔の微笑みに恐怖し、次々と死屍累々が如くに倒れて行く。



……これが「悩殺ぅ~~♪」ってやつですか?なにしろ私のスマイルは、今ではとても美人になって大人気な侍女のマール直伝ですからね。いっぱい練習しましたよ。

 あ……トカゲの気配が逃げて行ってしまいました。……でも諦めませんよ。






「戻りました辺境伯様。一週間帝国中を隈なく探しましたが、守護神はまだ見つからないのですが」


「……神楽殿。……それはもういい。帝国に魔王が現れたって大騒ぎだしな」


「え?魔王ですか?……本当にそんなのが居るんですね」


「………………………………」

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