第7話 神楽 3

 見た事もない形の建物が並ぶ街並み。行き交う人々の様々な髪の色、肌の色。顔立ちも見慣れない。獣の耳や尾の様な飾りを身に着けた者も少なくない。ここが何処なのか分からない。私は何故さまよい歩いている。いや、何故歩ける?


……あ……あるじ様は何処だ?


「珍しい服を着ているな姉ちゃん!異国の衣装か?赤と白で奇麗だなあ!……何かお探しなら俺が案内するぜ!」


「……触るな……下郎げろう……ね!」


「なあ……俺が優しく言っているうちに……痛っ……ててて……ぎゃっ!」


 腕を掴まれたまま脇をくぐり男の腕を裏返し、掴みなおして脚を払って男の肩を地面に叩きつけて折った。自然に身体が動いた。


……主様のわざか?……私も使えるのか?


 ほうけている暇はなく、場合に拠ってはとどめをささなければと思いなおして、腰にいていた太刀を抜きながら、うずくまる汚い男に歩み寄っていった。


「……うっ!……どうか命だけは……ぐっ……ごろさ……ないでぐださい!」


 痛む右肩を押さえて地べたを後ずさりしながら、涙と鼻水混じりで命乞いする男を見ていたら、何だかもうどうでもいいと思ったのでこの場を立ち去った。


……ん?……何故太刀がある?……軽いな……重さを感じないので気付かなかったのか?これは私の?いやこれは大太刀では無い。だがこの刀身の色は?神代にしか作れなかったカネがそう簡単に二つもある訳が?


 だがこれ以上街中を抜き身で歩き続けるのも物騒だなと思い、一旦考えるのは止めて見慣れた意匠の鞘に太刀を収めた。


……それにしてもさっきの男。女とはいえ太刀を佩いた者をよく脅して連れて行こうとしたものだ。まあ鞘の意匠が豪奢で派手だから飾りとでも思ったのだろうがな。


 取り敢えず当てもなく歩き出したのだが主様の気配は見当たらない。それでも探して歩き続ける以外にない。いや何故か歩くのが使命だとばかりに勝手に足が進んだ。





……何時の間に街を出てしまった様だ。


 そういえば大きな門を通り過ぎた記憶がある。何か言いたげだが怯える様に目をそらした門番の表情かおを思い出した。

 後ろを少し振り返れば、今迄に見たことのない程の規模の広大な石の壁に囲まれた街が見えた。眺めていたかったが、何故かどうしても足を止める気にはなれず、更に足早に歩きだす。


「……!……主様?」


 やがて前方に現れた僅かな懐かしい気配に、思わず走り出した。


……まだ遠い……脚よもっと速く……もどかしい。


 だが近づくにつれ、何故か胸騒ぎがする。もっと急ぎたくなる。


……飛んで行くことが出来るのならば…………!?…………


 そう思った瞬間。朱が鏤められた金色こんじきの光に包まれた。

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