第6話 神楽 2

 遠い昔に悪鬼を討つ為に、神代かみよに作られたというカネに神の一柱ひとはしらを封じて打たれたつるぎ。それが私だった。時は流れ人々は悪鬼の事を忘れ、私は都の外れの朽ち果てたやしろに錆びてひっそりと眠り続けていた。

 人間とは身勝手なもので国中が戦乱になると、再び私は新たな太刀たちとして打ち直され祀られた。私ですら自分が何の神だったのか思い出せないというのに。

 だが幸せな事に幾度かの人手を渡り、懐かしい気配を持った若武者の手に収まることになった。






「…………っぎゃ…………」


「……ご苦労様……でも後ろがお留守でしたよ?」


……別邸に移ったのは正解でしたね。刺客を迎え討つのが楽になりましたし、後始末にも苦労が要りません。でもいつになったら懲りるのでしょうか?長男では無くて何故坊ちゃまばかりを狙うんでしょうか?毎回尋問ごうもんをするのも面倒臭くなってきましたし。そろそろ第二夫人くそばばあを何とかしなければなりませんかね。でもそうすると困りました。アランはとても素直で良い子なので悲しませるのは少しだけですが辛いですね。


 レアンドール・コルドバ辺境伯には三人の息子がいる。長男クリストフェル15歳。次男アラン12歳。三男レイモンド10歳。


 第一夫人のカトリーナは始祖グラバスの代から仕えるフェダーク男爵の娘で長男クリストフェルと三男レイモンドの母親でレイモンドが2歳の頃に事故で亡くなった。


 問題なのが第二夫人のペトラ。隣国グラナダ帝国の侯爵家出身で息子である次男アランを次の当主にしようと躍起になっている。特にカトリーナが事故死した後はやりたい放題で、自分の警護にも心配があるとして実家の子飼いの護衛隊50人を呼び寄せている。

 

……10人近くは斃していますから残りの護衛隊ころしやは40人程ですかね?いずれにしろ大した練度の兵ではない様ですが毎回面倒です。それにしてもこんな家の状況を放って置くなんて。当主のレアンドールの目は節穴かそれとも何かを企んでいるのでしょうか?カトリーナ様の時にはやむなく涙を飲み込みましたが、もし私のあるじ様を血生臭い争いに巻き込むつもりなら。







「……ありがとう……貴方の名前は?」


「……名前?……めい?……わたしは……神楽かぐら

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る