第一話 誰も助けてくれない
何時も体が震えて相手の思うままだ。
脅し取られた金額も100万を超えている。
精神的にはもう限界だ…死ねば楽になれるのかな。
そんな事ばかり頭に浮かぶ。
「泉くん、また虐められたのかい?」
近所のお爺ちゃんが話しかけてきた。
この人の名前は長谷川さん、着流しを着ていて体に入れ墨を入れている。
元ヤクザだ。
「はははっ、情けない話ですが、いつもの通りです」
「あのよ…暴走族もヤクザも愚連隊も中坊の喧嘩なんかにまず出て来ない…脅しになんて負けるなよ!」
「だけど、出入りしているのは確かなんです」
「だな、だが族でもヤクザでも、中坊をボコったって仲間から馬鹿にされるだけだ、精々が脅しだけだぞ…同級生なら死ぬ気になって喧嘩すりゃいいんだ」
それが出来れば苦労しない。
「俺は、度胸が無くて」
「度胸なんてものは誰だって無い…後からついてくるもんだ」
長谷川さんは元ヤクザ。
しかも、武闘派だったからこそ言えるんだ。
だが、それを言っても怒られるだけだ。
「そうですね…」
気のない返事をしてその場を逃げ出そうとしたが…
「なぁ泉ちゃん…親を泣かすのはクズだ…もし度胸をつけたい…そう思うなら、一度強い奴と喧嘩して見ろ…多分、怖さなんて無くなるから…良いな!」
そんなことが出来るなら…苦労はしない…そう思っていた。
◆◆◆
その日もまた屋上に立っていた。
『此処から飛び降りれば楽になれるのかな』
そんな事ばかり考えている。
俺には仲間も友達もいない。
『虐め』というには生易しい標的になると全てが変わってしまった。
小学生からの親友と思っていた友人は率先して俺を蹴ったり殴ったりしている。
初恋の彼女は俺の給食にチョークの粉を入れていた。
『俺には何をしても許される』
俺のクラスはそうなっていた。
担任に相談しても無駄だった。
担任は女の先生で人気者だったがまだ若く、不良に文句言える度胸がなかった。
それと、俺を庇い『人気者じゃなくなる』のが嫌だったみたいで…
「それは全部君が悪いわ」
それで済まされた。
証拠もアリ、殴られている現場も見ているし、金をとられる現場を見ている癖にこれだ。
少なくともこの時の俺には、周りが敵しか居なかった。
自殺未遂を何回か繰り返した。
尤も、最後の最後で怖くなり留まっているから、俺が自殺未遂を繰り返している事は誰も知らない。
『どうせ死ぬなら…やるだけやってみるか?』
同級生と喧嘩するのは訳ない。
だが、負けると更に酷くなり、勝っても本当に暴走族やら出てきたらもっと悲惨になる。
度胸が欲しい。
本当に勇気が欲しい。
長谷川さんの声が頭に響く。
『一度強い奴と喧嘩して見ろ!怖さなんて無くなる』
それが頭に響いた。
だったら、最強の男と喧嘩すれば度胸がつくのかな…そういう思いが日々強くなった。
その日から中学はサボり…繁華街を俺はうろつくようになった。
『最強の男』を探して。
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